3 イケメン兄弟とその幼馴染
「さかな、かぁ」
そう言って平さんはひょいっと踵をあげて源野弟に顔を寄せた。
「うわぁ。可愛い」と思わず私の心の声が漏れる。うん、平さんは仕草も可愛いし、雰囲気が可愛い。もっちゃんやだんだんの平さんの評価は『たて巻きロールの令嬢』より美女レベルは下だったけど、きっと単純に私の好みの女の子なんだな、彼女。
「ふっ」
ふっ?今イケメンが吹いた?
ってこっち見て笑ってる?いや、笑われたという表現の方が正しいのかも。
「あ、ほんとだ。可愛いさかなっぽい絵が描いてある」
平さんが源野弟の眼鏡のツルを指差した。
「海里は結構可愛いもの好きだもんね。くまべえとか」
「くまべえってゆるキャラの?ゆるキャラ好きなの?」
「ゆるキャラが好きって言うか、まぁ、くまべえは好きかな」
「いっぱいぬいぐるみ持ってるじゃん」
「それは月子と大地がUFOキャッチャーにハマるからだろ」
「月子ちゃん、UFOキャッチャー上手なんだ」
あ、つい流れで下の名前呼んじゃった。
「えっと、そんなに上手くはないんだけど、好きなの。……山下さんも下の名前で呼んでいい?」
「うん!えいこだよ!」
「えいこちゃん」
っしゃゃー!月子ちゃんと友達なったったー!うひょー。
「「ぶはっ」」
ぬ?イケボがはもった?
「大地」
「大地だぁ。何笑ってるの?海里も」
でました、どん。
源野弟とは系統の違うイケメン、噂の源野兄。二卵性かな。しかし、このアニキっぽい雰囲気は学年上がるたびにレベルアップしそう。
「いやぁ、月子に名前呼ばれた瞬間のこの子の顔が」
私の顔が?
「『うっしゃー!』て感じしてさ。くくっ」
ご名答。女の子は可愛い女の子が好きなものですよ?
「で、大地。何の用だよ」
「ちょっとフラフラ散歩してたら見なれた姿が見に入ったもんで」
「フラフラしてんのはいつものことだろっ」と源野弟が返す横で月子ちゃんが、はっとした顔になった。
「あ、えいこちゃんより『しーまん』の方が良かった?」
「え?ううん。どっちでも!」
「しーまん?魚でも飼ってんの?」
すでに百八十センチはあるだろう上から、意外と優しい源野兄の声が降ってきた。魚?なんで?
「飼ってませんて。仲いい友達と出席番号順で山下、山田、山本って名前で、山本さんが『もっちゃん』だったから山以外の部分であだ名付けあったんです」
「ふぅん。あだ名ねぇ。俺の勝手なイメージじゃしーまんって言うより……。ん、なんだ?」
敬語になってしまったのは、イケメン耐性が無かったのと、つい源野兄をガン見してたから。特に毛髪。
「なんか青くない?」
「地毛だよ?」
「んなわけあるかぁ!」
源野弟が壮大にキレた。
「ほらー。やっぱり判る人には判るんだよー」
「すぐ戻せ。今すぐ染め直せ。嫌なら剃れ」
源野弟と月子ちゃんがバシバシ源野兄を叩く。
「え、染めてるの?」
「そーなの。実は最近海里が三組に相談に来てたのはコレの相談」
「え、俺って三組で有名人?」
「はぁあ?!」
「いや、三組に相談してたんだろ?」
「じゃなくって!海里が私のところに『両親が海外赴任してから大地の素行が悪い』って相談に来てたの」
「ほうほう。髪染めて?夜中徘徊して?」
「ほうほう。じゃない!留守を任されている自覚が無さすぎだ!」
「で、良いアドバイスは貰えたのか?」
「ううん。結局何もアドバイス思いつかなくて、力になれなかったの」
「いや、月子に愚痴って少しは気が楽になってたよ」
「なんだ、月子が『なんか、髪の色おかしくない?』って聞いてきたのは海里の差し金か。てっきり俺の事を心配してくれたのかと。くすん」
「ふざけてんじゃねえよ!マジで頭沸いたのか?大体、俺が新入生の代表になったのも素行のせいじゃないのか?」
なぬ?源野兄は源野弟より賢かったってこと?何こいつら。マジ、チート。神さまー。いろんな配分間違えてますよー。
「いや、それは代表めんどくさいから手ぇ抜いた」
「大地!おまえなぁ!」
源野弟が伸ばした手をさらりとかわし、「あっぶねー。退散するわ」と手をヒラヒラさせながら、源野兄は背を向けた。
「じゃあなー。月子。えいこサン。あと頼むわ」
がるると飛びつきそうな源野弟をなだめながら、月子ちゃんも源野兄に手を振った。
え、えいこサンー?
アニキにサン付けされちゃったー!
あ、でも、誕生日からいえば多分私が1番年上か。数ヶ月とかだけど。
そして、ようやく素にもどった源野弟に「山下さん?ちょっと二人で話せないかな」と声をかけられた。
なんでしょうか?