22 器無し
「それで、説明が長くなったが ここからが本題だ。サタナさんがえいこサンを見つけた時にも『感知』したと報告を受けてるが、今ここで『感知』してもいいか?」
「いいよ」
感知されると相手の感情が少し分かるらしい。以前に感知された時は意識が無かったから気づかなかったのかな。
それよりも、私の魔力が何かしらヤバイのかもしれない。閉じ込めておく必要があるなんて、今の話から推測すると『ブレーキ力』が最低という事かもしれない。すぐ暴発するレベルとか。コレはかなり努力しないと月子ちゃんの足しにならないかもしれない。
ていうか、ゲームのシステムってこんなんだったっけ?普通にHPのバーが見えていたような覚えがあるんだけど、設定はとても凝ってるなぁ。
つらつらとつい考え事してしまった。そのくらい、何も感じなかった。
「大地君?何も感じないんだけど」
大地君は、何かとても大きな決断をしたような目をしていた。私が直接知っている時より二年ほど成長したからか、それとも何か想像のつかない経験をしたからか眼差しが強い。
「器がない」
ん?
「えいこサンには、器が、ない」
器が、ない?
器が無い?!
って、どーゆーこと?
「え、と。力ははみんなが使ってる普遍的なエネルギーで、それが入ってる器は生きてるものにはみんなあるんだよね?」
「ああ」
「私には、無い?」
「ああ」
「私、死んでる?」
「生きてるように見える」
「だよねぇ」
力を使うためには、力のブレーキ力を鍛える。修行やらで手に入るのは、器の絶対量でなくブレーキ力のみ。
え、私、何もできなくない?
「生きてるとしたら……私はこの世界で普通の人より生活において不自由ってこと?」
「いや、錬成した力、魔法への抵抗性も無くなる」
「ごめん。魔法への抵抗性っていうのがイマイチわからない」
「力を錬成すれば、非生物を物を壊したり、火を付けたりするのにも応用出来る。生き物相手はかなりの魔力差が無いと出来ない」
「ちょっと待って。その言い方だと……」
言い終わらないうちに椅子が引かれ、私は宙を舞った。そして、大地君の腕の中に収まる。
「本当に申し訳ない事をした、と思う。完全に俺の落ち度だ。不自由だと思う。迷惑をかけている。出来る事はなんでもやるから、頼むから、閉じ込められていて欲しい。俺のために」
真剣な大地君の表情は苦痛を滲ませていた。私はそれを見つめる。
「この国には魔力の研究所もある。だから、いつかは何とかなるかもしれない。今のえいこサンは、こちらの人間にとってはガラスの人形と同じなんだよ」
言い終わる前に先ほど飾り棚にしまった置物が一つ視界に飛んできて、音もなくバラバラになった。簡単に砂より小さくなった集合は小さな山を作った。さっき手にした時は脆いガラスという感覚は無かったのに。
「責任を、取らせて欲しい」
小さな山から目が離せない私の耳元に大地君の声が近づいてきた。
「ストーップ!」
「失礼します」
私が両手で大地君顔をバチーンと挟んだのと同時にウランが部屋に入ってきた。
「「「……」」」
気まずい。どうしよう?
「……どうぞ続けてください」
空気を察してかウランが譲ってくれた。では、遠慮なく。
「大地君、今、勝手に何かしようとしたよね?この世界の滞在歴はそりゃ大地君の方が長いし先輩だけど、この問題は大地君一人が抱えなきゃいけない問題じゃないよ?最終的に最善がソレなら受け入れるけど、思いつめたまま騙し討ちみたいなのはしないでよ?」
パッと大地君を離して気がついたけど、大地君て今、軍のお偉いさんじゃなかったっけ?不敬罪とかないよね?ちょっと心配になった。
「わりぃ」
異様に張り詰めていた大地君の力がふっと抜ける。
「えいこサンはそーゆー人だったな。忘れてたわ。悪い」
「実際守ってもらえなきゃ死ぬって事は理解したから、無茶するタイプじゃ無いから安心して」
私は彼ににぱっと笑ってみせた。
「私は大地君達が祠に飲み込まれた時、扉を閉めようとした人間だよ」
「そうだな。……信じるよ。えいこサンを」
大地君は何かを思い出したように笑った。




