12 ぐいん、からの どーん
見えてない私の方が走り出すのは一拍早かった。が、すぐに大地君に追い抜かれた。
大地君にだいぶ遅れて、用具置き場の奥に飛び込んだら、大地君にぶつかった?いや、抱きとめられた。
「黒い霧が酷くて前が見えねぇ。えいこサン、頼む」
「こっち!」
私が大地君の手を引きながら全力で走っても、前が見えてないであろう彼はピタリとついて来た。
「合図したら飛んで!」
「右上、枝出てるから左に!」
全ての障害物を避けた。私と彼は恐ろしいほど相性が良いらしい。
走り抜けて祠の真裏に出ると、モワッと生温い風を感じた。
「海里!」
そう、海里君は祠を正に開こうとしていた。その髪色は青だ。大地君より鮮やかな。
「月子ちゃん!」
月子ちゃんは海里君より三メートルぐらい離れたところでへたり込んでる。
「大地と、その声はえいこちゃん?」
どうやら、ここにいるみんなは霧の中らしい。そして、みんな各々と恐らく祠は見えてるっぽい。私を除いて。
大地君は海里君を止めようとしているけど、海里君の動きは明らかにおかしかった。まるで操られているような動き。これが大地君の言っていた夢遊病状態か。私は月子ちゃんの側に走った。
祠を背にしている私には不思議な光景が見えた。多分祠が開いたんだと思う。風は全く吹いてないのに、月子ちゃんにだけ風が吹く。祠に向かって。
「いやぁ!」
「海里!」
声が重なった。見えるのは月子ちゃんの華奢な体がずずっと祠に引き寄せられていく姿だけ。海里君達も引き込まれてるのかもしれない。確認する余裕は無い。
月子ちゃんの手を引いて避難を促す。
「ダメ!海里達が!」
こういう時の月子ちゃんは頑固だと私は知っている。
「分かったから、こっち!木に掴まって!」
一番近い木に促したら、素直に従ってくれた。
彼女に吹く風はどんどん強くなっている。木に掴まるだけじゃ、すぐに持たなくなるだろう。
ようやく振り返ったら、信じられない光景が目に飛び込んで来た。私の背より低い祠の、さらに小さい扉の向こうに海里君が飲み込まれる瞬間だった。
大地君は肩まで扉の中に突っ込んでる。
慌てて大地君を引っ張ったけど、ビクともしない。
「あと、たのむ」
切れ切れにそう聞こえた。
「了解」
私が答えるとふっと大地君の力が抜けた。
元聖女の息子たちだ。向こうでもなんとかするだろう。私は月子ちゃんを守る。悪いけど、祠の扉は閉めさせてもらうよ!
ぐいん。
え?
ブレザーの袖のボタンが大地君の『ちびはるこちゃんストラップ』に引っかかってる!?
既に向こう側に行った大地君に引きずられちゃう!
ヤバイ離さなきゃ。いや、ブレザー抜いだほうが早……
「えいこちゃん!」
振り向くと、月子ちゃんが木から手を離したのが見えた。
ちょっまっ、私は引っ張られてないから大丈夫よ!?
「うぎゃっ!」
言葉にする前に月子ちゃんがどーんとぶつかってきて、二人とも暗闇に落ちた。