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大団円エンディングの作り方  作者: 吉瀬
第7章 ダヤンへの加入
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106 カークのお部屋とDの部屋

心の中で高笑いして街から出て、ハタと気がついた。

魔力の結晶、全部食べちゃった。

…どうやってお家に帰りましょうか?


いやまて、魔力自体は体の中にある。ということは結晶にして取り出せば良いんじゃ?もしくは、体の中の魔力をそのまま使うとか。


って、その理論系が全く分かんないんじゃん。

「ハル、結晶とか作れる?」

『ごめんなさい。分かんない。』


街外れの森に設置されたD特性転送円の前で途方に暮れてしまった。


「おい。」

涙目の私の頭をむんず、と掴まれた。

「こんなところで何やってる?」

「あは、あはは。」

声の主であるご主人様は心底呆れた顔をしていた。

「諸事情で魔力の結晶、全部食べちゃいました。すみません。」

「ハル。」

はぁ、とため息を吐かれてハルが呼び出された。

「なぁに?」

「帰ったら、これから家事はしなくていい。代わりに魔法陣と結界の勉強だ。」

「あの、私は?」

「魔法の質量も目算できない奴に教えても無駄だ。お前はハル担当分の家事でもやってろ。」


現在の私の仕事→内職、魔法の鍛錬、結晶や材料の調達、ダヤンの営業、古文書の回収、ハル担当分の家事new


Dが右手を滑るように動かすと、その手のひらに魔力の結晶が現れた。粒が揃った、転送円ジャストサイズ。


「だいたい、隙だらけのお前が悪い。帰るぞ。これからの事は家で聞く。」


そう言ってDはさっさと戻ってしまった。


「アキ…?」

おずおずとハルに見上げられて頷く。

「うん、分かってる。」


転送円に向かっていた私達の背後から現れたD。確かに身内には優しいのかもしれない。彼は多分、私達のわからない場所から見守っていたのだろう。だから報告を聞く、とは言わなかったんだろう。実質的に私はダヤンの仕事をしていないばかりか、取引相手をコケにしてきただけだ。


でも、どうせなら一回目は普通に付き添ってくれればあんな目に合わずに済んだのでは?とちょっと思ってしまう。



家に戻ると居住区の拡張はとりあえずカークの部屋が出来上がっていた。フユは元の倉庫の部屋を中々気に入っているらしく、急ぎではないらしい。次は浴場の予定。

「ちょっと、あんた、私の部屋見てみなさいよ。あんたの記憶から、ちょっといいの借りたんだから。」

嬉しそうに案内されて扉を開いた。私の予想はギャル部屋かキャラクターグッズで埋まった少女な部屋だった。


扉を開けるとそこはウユニ塩湖でした。


開けた扉を優しく閉めて、カークに無言で問う。

「ね!素敵でしょ?もちろん映像だけ再現なんだけど、天気は変わるの!床も濡れない水で水鏡にしたのよ!」


部屋じゃない。これを部屋とは認めない。


カークは「あんたの記憶から選んだのにーっ」と、私の反応にブーたれていた。

「ところで、谷のモンスターに会うのは良いとして山の主の方はどうすんのよ。まさか、私と同じ方法で勝負するつもりじゃ無いでしょうね?」

「え?」

「ダメよ。ダメダメ。相手が誰かは知らないけど、私みたいに譲歩するとは限らないわ!まぁ、私くらい強いとは思えないけどね!」

カーク並みに強くなるのは、多分無理だ。私はあくまで、器無し特典である『力を底なしに溜められる』しか能が無い。さっきもDに諦められたとこだし。

「私が強くなる方法…。カークに稽古つけてもらうとか?でも、そんなに強くはなれない、よね。」

困った、と思ってカークを見ると、ふふふんっと笑っている。

「まぁ、お願いされるなら鍛えてあげても良いわよ?それと、山の主に勝つためのちょーっとした秘策があるから、教えてあげても良いわ。」

「カーク!すごい!ぜひ、教えて欲しい!お願い!」

踏ん反り返ってるカークに両手を組んでお願いすると「仕方ないわね。ふふふん。」と上機嫌になった。あれ?カークさん、ちょろい?


「聖女とモンスターの戦い、何回か見た事あるけど、別に聖女本人しか戦っちゃいけないわけじゃ無いのよね。いわゆる仲間?ならオッケー。だから、Dとかフユにやらせれば良いのよ。あんたはとりあえず死なないレベルにはならなきゃだけどね。」

確かに、ゲーム的な解釈だとパーティが勝てば聖女の手柄になる。でも、失敗したら彼らはセーブ地点で生き返るわけじゃない。そうなると、

「それなら、カークにお願いしたいな。」

「え?」

「強いし、分体居れば死なないし。」

一瞬固まったカークの顔がぶうっと膨れた。

「ちょっと!私をこき使う気?」

「やっぱり死ななくても負けたら痛いだろうし、嫌かな?」

致命傷を受ける前に力を送るのをストップすればノーダメージだが、攻撃を受けた後なら多少の負荷は他の分体にも波及する。

「何よ!私が負ける訳無いじゃない!」

「うんうん、やっぱりカークは強いもんね。やっぱカークしかお願いできる人いないな。」

両手を組んで、流石カークだねっと目をキラキラさせてみた。


「ま、まぁ、しょうがないわね。一応あんたがご主人様だし?でも、防御は完璧になりなさいよ。あんたが死んだらこっちも一からやり直しになるんだから。フユ達も鍛えて…防御には回ってもらいましょ。」


やっぱり頼られるのは満更じゃなさそう。カークはプライドをくすぐられるとめっぽう弱いみたいだ。防御魔法や聖力のコントロールの訓練はせざるを得ない事だからこちらも歓迎。


聖力はカークの分体がある祠付近から自動である程度補給されるけれど、色々動いてもらうには足りない。谷底に落ちている結晶を拾い食いしなくてはならない。

魔力と聖力の結晶は不思議なことに同時に食べなければ相殺されたりしない。一つの体に相反する力が入っているのは不思議だが、電池や磁石みたいなもの、とDに言われてなるほど、と思った。ただし、片方の結晶を食べた後すぐにもう片方を食べると、吐きそうになった。体の性質が急に変化すると内臓に来るらしい。馬酔いみたいなものだから、そのうち慣れると説明されたが、私は車酔い治らなかった人がなんだけど。


目処は立ったけれど、自分のやるべき事の多さに目眩がしそう。

祠を回って古文書を集める。防御魔法等の訓練。谷のモンスターに挨拶に行って、山のモンスターに突撃。家電類の内職。結晶の採取とダヤンの営業もあるし、それと、家事。

結晶の採取や取引は、山の方にも転送円設置できればほぼ解決。ダヤンの営業については製品作る所は相手に任せて、設計図の売買に切り替えるよう提案しよう。


「お前がダヤンの取引に行くのは無しだ。」

私の提案を聞いて、Dはそう言った。

「でも、各街に時間差が無いようにして売らないと利益減っちゃうよ?」

各街の公式な団体に設計図を売る。権利関係がゆるゆるな世界なので、設計図や製品は他の街にも流れてしまうだろう。だから、各街同時に商談を進めて行きたい。こちらは、フユとカークと私。ハルはこの方法が軌道になるまでは数に入れない方が無難だ。各街の移動にほぼ時間がかからないとは言え、二人は無理だ。

「アキホ、お前は魔人としては体術が出来なさすぎる。そして、隙が多い。お前の心臓と俺の心臓が繋がっている事を忘れるな。お前が商談に出ている間、俺の研究が進まないのも気にくわない。」


要は心配で見守るのに時間が取られるのが嫌ってね。じゃあ、あなた行きなさいよ、とは流石に言えないけれど、優しいんだかなんだか。


「D、何かあった?」

ジロリ、と見られて言い直す。ハルは結界の習得中で、私の中にいる方に意識はほとんど無い。つまり、今この部屋には二人きりだ。

「セレス。どうしたの?」

「別に何も。」

名前を呼ばせようとするなんて、何もないはずがない。


「そういえば、記憶を取り返す研究の最中に、少しだけ記憶を取り戻した。」

本当に、ああ、そういえば、という感じでセレスは言った。

記憶を、取り戻す?

「心配するな、お前が恐れているような内容では無かった。」

私が恐れる内容。それは多分恋愛的な側面だろう。

「何を思い出したか聞いても?」

「構わない。ほとんど科学技術の事で、一部魔法学について。プライベートな事柄は『月子を守れ』と強く意識していた事ぐらいだ。月子は聖女、だな?」

「…うん。」

「前回の記憶の、その中でも強い思い入れのある所だけ拾ったんだろう。この研究が進めば全記憶を回収する事もできるだろうな。」


月子ちゃんはセレスを何回めに攻略したのだろうか。前回より前なら、かなりセレスの心に刻まれていたのだろう。ゲームの印象ではセレスのベタ惚れというより

『貴様ほど興味をそそる女は初めてだ。そんなおもちゃを俺が手放すわけないだろう?』的な、それって本当に愛情ありますか?なエンディングだった気がするんだけどなぁ。ヤンデレ?


「お前は、記憶を取り戻したいか?」

「え?」

突然、自分の事を問われて答えられなかった。

「俺は俺の知識は返してもらう。どうでもいい瑣末な思い出はどちらでもいいが、多少の興味はある。」

まだ答えられない私の頭をくしゃっと撫でた。

「無理に思い出したいと思う必要はないが、後悔はしないように考えておけ。」

セレスの目の奥に優しさが帯びる。白い肌に白い髪、整った顔。双眸だけが黒くて、吸い込まれるというより、落ちていきそうな瞳だ。


「どうでも良くても、忘れた記憶に興味はあるの?」

聞いても仕方ない事だけれど、セレスはニヤッと笑った。

「俺は研究ノートを二冊付けている。思い付きを書いておくメモと、研究を体系的にまとめたモノだ。この研究所の家は、過去の俺が作ったもので、どうやら管理者が潰す事が出来なかったらしい。なのに、ノートは一冊しかない。過去の俺は今の俺に隠し事があるらしい。やるならこの建物ごと徹底的に潰せばいいものを、研究の成果は残したいらしい。舐めてると思わないか?」

「舐めるも何も、自分でしょ?」

「俺は今この感覚しか俺と認めない。」

あんた、デカルトですか?

「もしくは、未来の俺にすら簡単に見せたくないものがあったのか、だ。見たいなら自分でなんとかしろ、ということか。」

「見せたくないものを暴こうとする勇気は、私には無いな。」

「勇気とは限らないがな。」

ズキン、と心が痛んで驚いた。これは私の?それともセレスの?

「研究に戻る。用が済んだなら戻れ。」

そう言われて、部屋から出た。セレス、Dは嘘をついているのか。それとも、無自覚に感情も過去から受け取ったのか。分からないけれど、心は少し痛い。せめてその取り返す記憶が彼を傷つけるだけのものでなければいい。少しだけ祈って、後は忘れることにした。


部屋に戻って、しまったと思う。ダヤンの営業について全く解決してなかった。

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