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大団円エンディングの作り方  作者: 吉瀬
第1章 未知との遭遇
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10 祠の前で その2

 いくらなんでも荒唐無稽すぎる話だった。目の前の、このちっちゃな祠が異世界への入り口です、なんて。でも、私はなぜか源野兄が嘘を付いてない事とこの祠が異世界につながっている事を確信していた。


「普通ではあり得ないことだよね。でも、目の前で起きてるし……大地君が私を騙そうとしてるとは思わないよ。その髪の色が変わるのが異世界に飛ばされる兆候ってこと?それなら、大地君達のお母さんに聞くべきだと思う」


 自分でもその確信の元がどこから来るのか分からないから、とりあえず聞かれた事にだけ答えた。


「あり得ない、か。だよなー。母さんに昔聞いた話では突然飛ばされたって言ってた。両親の赴任先が中国の奥地なんだ。連絡は手紙だけ。返信がくるのは一ヶ月はかかるらしい。俺らの日本の保護者役は月子んとこのおじさんがしてくれてる。地元の名士だし、うちの両親の親友らしいから。他に当てはない」


 質問は想定してたのか、過不足なく答える。


「海里君と月子ちゃんは?」

「巻き込みたくない」


 即答ですか。こういうタイプの人って時々言葉が足りないタイプでもある。

 思考を巡らせてから、私ははーっとため息を吐いた。


「あのね。『いきなり居なくなるかもしれないのに相談しないなんて。』とか『逆の立場だったらどう思う?』とか言うつもりは無いよ?海里君や月子ちゃんに相談したら、絶対ほっといてはくれないだろうし、最悪いきなり祠に触って飛ばされかねない。異世界っていうくらいの場所、なんかあれば周りが見えなくなる海里君や優しくて可愛いけど普通の女の子の月子ちゃんが行くのと、こんなことがあっても冷静に動けてる大地君が行くのじゃ話が違うし」


 月子ちゃんが異世界に引っ張られたら、身体を張って止めるけど、ぶっちゃけイケメン二人は自力で頑張って欲しい。あんたらはきっとチートヒーローになれる。


「えいこサンは話が早くて助かる。俺、えいこサンだけは連れて行きたいわ」

「御免(こうむ)る」


 そんなスカウトいらん!数合わせのモブは異世界では早々に退場と相場が決まってるんです。


「でもね。もっかい考えてみよう?海里君がうっかり祠に近づかないように警戒はしてたみたいだけど、一番最悪なのは海里君達と一緒に異世界とやらに飛ばされることじゃ無いよ。大地君が飛ばされた後に、別々で飛ばされることでしょ?大地君が失踪したら、大地君を探す過程で起こりかねない事態だよね。言っとくけど、その時のこと頼まれても、私には二人を止めらんないよ」

「いや、そこをなんとか!」


 やはり、そこを期待していたか。


「いやです。無理です。大地君ができないなら、ぽっと出の私が止められるわけない」


 月子ちゃんはまだなんとかなる可能性はある。言わないけど。

 問題は双子の弟。責任感が強すぎるからの、両親が海外でその状況。探すなと言うのは無理がある。祠付近を探させないというのも限界がある。


「他に頼める奴、居ないんだよ」

「頼まなくてもいいよ。なんとかできる人に当てはあるし」

「そんな奴いるか?」


 私は真っ直ぐ大地君を見据えて指差した。最近イケメン耐性レベル2になったしね。今の自身喪失状態の大地君の眼力なんか敵じゃ無い。


「はっ、できねーよ」

「できるよ」

「できねーって!」

「逃げるな!」

「っ?!」


 何でウジウジ悩んでるかは大体想像がつく。なんでもかんでも一人で大概できてしまう人間は『できない事』に敏感だ。


「逃げないで。大地君にしか二人を守る事は出来ない。海里君の兄弟は大地君、あなただよ。月子ちゃんだって幼馴染じゃない」


「……んな事言ったって、守りきれる自信、ねぇよ」


 二人が異世界に飛ばされるのが、怖いんだ、と目を伏せて吐く。無駄にセクシー。最近まで中学生だったよね?


「大丈夫。海里君は大地君が真剣に話すことは絶対聞いてくれる。月子ちゃんは飲み込むのに少し時間はかかるけど意外と強かだよ。大丈夫。私もフォローならできる」

「……なんでえいこサンの方があいつの事信頼できてんだよ」


 大地君は少し伏目がちで顎に手を当てた。少しだけ覗く瞳は冷静さを取り戻したように感じる。


「まあ、……海里は、ちゃんと話せばきっと無下にはしないと思う。てゆーか、しないな。『初めからちゃんと話せ』とは怒りそうだが、ちゃんと話せば聞く人間だ」


 月子も、と小さく言って彼は息を吐く。やっぱり歩くエロという表現はあながち間違ってないかもしれない。


 自分一人で守れそうにないなら、海里君達を含めてみんなで解決すればいいだけ。それを、初めから守る側と守られる側にきっちり分ける前提だから、グダグダ悩んで最後的に私に押し付けるようなトンデモ理論になるのだ。冷静に考えればそれはリスクでしかないなんて、大地君だって分かってる。


「えいこサンは、なんでそんなに分かるんだ?」

「勘」

「ブハッ。マジか」


 そこで勘とかなー、と大地君が可笑しそうに笑った。

 だって勘なんだもん。正しくはデジャヴ。大地君は嘘を言わないって事も、異世界があると感じるのも全部、デジャヴ。海里君は近しい人の話は絶対聞く。どうしてもこれは確信なのだ。


「私のこういう勘はすごく当たるの」

「髪が地毛って言ったのを信じたのも勘か?」

「大地君は嘘をつかない」


 彼は笑っていたけど、私は知っている事を言ってるだけなんだけどな。


「だから、信じるよ」


 すぅっと笑顔が引いて大地君は驚いた表情になった。どんな顔も整ってるなぁ、とか思いながら彼を見ていたら、不意に大地君と視線が(から)んだ。微笑まれて、私の心臓は跳ねた。


「すごい殺し文句だな。やっぱり、一緒に行かないか」

「嫌です」


 私は死にたく無いんだ。異世界で生きていける気もしなければ、この人の側にいて平気な心臓も持ち合わせていない。鑑賞対象は遠くからが鉄則です。


「はぁ、残念」


 手を額に当てて顔をふる。大地君は指の隙間から、眩しいものを見るようにこちらを見た。


「こんな状況じゃなきゃ告ってるわ」


 テテレテッテレーえいこのイケメン耐性レベルが3になりました!


「……そりゃ光栄です」


 こほんと咳払いをして続ける。まだ大事な話は終わってない。

 とはいえ、どのように海里君らに説明すれば一番納得してくれるかは、大地君の方が詳しい。私は大地君の指示どおりに動けばいいと思っていた。その時は気楽に。

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