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BLOOD STAIN CHILD Ⅴ  作者: maria
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 霊安室で思いもかけずに始まった会話によれば、リョウが児童養護施設に入っていた頃、一職員としてそこに働いていたのが宗だということであった。リョウは幼少時は父と暮らしていたが、小学三年生の時その生活に耐え兼ね脱走した所、警察に保護され、そのまま児童養護施設に入ることとなったのであった。その頃から人間不信に陥り、極めて反抗的だったリョウの面倒を見てくれていた職員の一人が、当時まだ若き壮年であった宗だったのである。

 宗は今度は先程とは異なった涙で目をいっぱいにしながら、「まさか、……まさか、…こんなことが……、リョウジ君だったなんて。」と唇を震わせながら紡いだ。

 「最初、どっかで見たことあるって思って。でも全然思い出せなくて。正直、あん時俺に関わってくれた人の顔なんて、ろくに覚えちゃいなかったし。」

 「そうだ、そうだ。」宗は苦し気に微笑んだ。「リョウジ君は誰とも口を利いてくれやしなかったからな。私もあの時どうやったらリョウジ君の心を開けるのか、毎日四苦八苦していた一人だ。でもまさか、あの時のリョウジ君がこんなに立派になっているとは……。アイミ、」宗は振り返って眠っているアイミに優しく語り掛けた。「アイミにとって兄とも言える人なんだよ、リョウジ君は。このリョウジ君もなあ、アイミとおんなじ所で大きくなったんだよ。」

 「アイミちゃんは、リョウの妹だったの。」ミリアも驚いて言った。

 「こちらは……?」改めて宗はミリアを見詰めた。

 「妻です。」リョウは繕わなかった。「というか、……最初は、妹だと思ってたんです。こいつ、俺と同じ、あの父親の元で育ったんです。そんであいつが死んで、母親もとうになかったから、行き先もなくてある日突然俺ん所に訪ねて来たんです。で、それからずっと俺は兄として、一緒に住んたんですが、……でも結局遺伝子検査したら、俺とは血の繋がりが一つもねえって結果が出て……。で、俺の妻になりました。」

 「そうか、そうか。」宗は幾度も大きく肯いた。その経緯は少々複雑であるような気はしたが、何せ普段接している子供たちだって同じような、あるいはもっと複雑な家庭環境を有している者はざらなのである。宗は何はともあれ、今のリョウが幸せであるなら一切無問題だとでもいう素直さと懐の太さでもってリョウの手を固く握りしめた。

 そこに扉をノックする音が響いた。病院の職員が入って来る。「お車が到着しました。」

 宗は再びアイミの顔を覗き込むと、ここに来た時よりは大分人間味のある顔付きになって、「アイミ、帰るよ。お前が上京して二年、初めての帰郷になるな。」と呟いた。そして再び社長に向き合い、「これから地元に帰って、いつ葬儀ができるか相談をします。心当たりのある葬儀場が施設のすぐ近くにあるものですから、そこに連絡を取ってみます。大変お世話になりました。リョウジ君、もし良かったらいつでも施設の方に遊びにきてくれ。ずっとあのまま、変わりなく君の『家』はあそこにあるから。」

 「……彼女の葬儀に、参加をさせて貰えませんか。」リョウは固い頬をしながらそう言った。

 「え。」宗は目を瞬かせた。

 「彼女を先生たちと一緒に見送らせて、ほしいんです。否、……今更兄貴面をしたいんじゃない。僕らのライブで命を落としたのは紛れもない事実だから。だから……」

 「そうだな。」戸惑う宗に、社長が言下に言った。「宗さん、葬儀の日程が等決まりましたら、こちらに連絡をお願いします。」と言って名刺を差し出した。

 宗は暫く社長とリョウの顔を交互に見詰めていたが、やがて意を決したように「……わかりました。」と溜め息を同時に呟いた。「では、決まり次第連絡させて貰います。アイミを送ってくれる人がいるのは、私どもにとっても有難いものです。アイミは明るくて人懐っこい子でしたから、きっと一人でも多くの人に送って頂いた方が、嬉しがるでしょう。どうしても、……こういう、……親親戚のない者の葬儀は寂しいものになりがちですから……。」

 宗はそう言うと深々と頭を下げて、職員がアイミの寝台を運ぶ後ろを付いて霊安室を出て行った。

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