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BLOOD STAIN CHILD Ⅴ  作者: maria
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 やがて客の搬送された総合病院に到着すると、受付で指示された通りに三人は集中治療室の前に行った。そこでは警察官が看護師から話を聞いている最中であった。三人の姿を見ると、警察は小さく会釈をした。

 「私は今日ライブを行ったバンドの所属事務所の社長をしております。榊田と申します。彼女の状態はどうですか。」社長が二人に問いかける。

 看護師は深刻そうな顔で、「依然意識はなく、血圧が急激に低下しています。ご家族や親しい方に早急に連絡を付けて頂きたいのですが……。」と助けを求めるように三人の顔を順番に見た。

 警察官は難しそうな顔で首を振り、「彼女の携帯電話に家族と思われる番号は登録されていないのです。ただ昨晩電話をかけていた履歴の残っていた所に電話を掛けてみましたら、S県にある児童養護施設でした。どうやら彼女はそこの出身らしいのです。事情を話すとすぐに施設長さんに代わって貰え、やはり保護者はいないとのことでした。そして、代わりに施設長さんが、明日の始発で来てくれることになりました。」

 「児童養護施設? S県?」リョウが繰り返す。

 「ええ。施設長さんのお話だと、彼女は二年程前、高校を出るまでそこにいたらしいのです。そして現在は東京で専門学校に通っていると。」

 「そういうことだったのか……。」社長は嘆息を漏らした。

 ミリアはどこか自分たちと似た境遇に、言葉にはできぬ胸の痛みを感じた。

 「失礼ですが、あなた方のライブで、こういう事故は今までに起きたことはあるんですか。」警察が問うた。

 「いえ、……ありません。今までに、一度も。」リョウは途切れ途切れに答えた。

 「デスメタル、とかって言いましたかね? あなた方の音楽ジャンルは。これ、コンサートで死人が出ても関係ないという、そういう意思表明ではないんですか?」

 「違うわよう!」ミリアはさすがに怒りを籠めて大声を上げた。「そんなんじゃないの! みんなライブではニコニコしてる! デスメタルは、どんな辛くっても乗り越えていくって、そういう曲ばっかりなんだから! そんな、死ぬ、なんて……。」ミリアはその言葉の持つ響きに今更ながらぞくりと背を震わせた。

 社長はミリアに向かい、「静かになさい。ここは病院だ。」と冷静に言い放った。そして続いて警官に向き合い、「……このバンドは、ここ数年ずっと海外でのライブ中心に活動を行ってきました。アジア、アメリカ、ヨーロッパと世界各国でライブ活動を行ってきましたが、一度も、事故などは起きたことはありません。かなり治安に問題のある場所でもやりましたが、ね。つい先月から国内でもツアーを始めまして、今回のこのライブでそのツアーを終えようとしていた所なんです。東北から沖縄まで、実に三十カ所以上で行いましたが、どの場所においても何の問題も起きていません。」と淡々と告げた。

 警官も赤く染めた長髪のリョウはともかく、この社会的地位のある人間の言葉は信ずるに足ると判断をしたようである。

 「そうでしたか。ともかく、ライブ会場の責任者から話は聞きまして、チケットを持たずに集まってしまった人々への説明も丁寧に行っていたようですし、チケットの数も防火法に則り発売され、構造上の何の問題もありませんでした。あなた方が何らかの罪状に問われるということにはなりませんが、このような事故が起きてしまったことで、世間があなた方を非難の目で見ることは免れないでしょう。何らかの対処を考えた方がいいかと思いますね。」

 リョウはそれは耳に入らぬとでもいうように、「それより、……女の子は……。」と請うように看護師を見据えた。

 そこで意を決したように、今まで黙っていた看護師が、「彼女の鞄の中に、これが入っていたんです。」と言って小さな錠剤を三人に見せた。

 「何です、それは。」社長は訝し気に掌に載せられた薬を凝視した。

 「これは心臓病の薬です。これからきちんとした調査が必要になりますが、おそらくは、」看護師は小さく溜め息を吐いて、「彼女は元々心臓病を患っていて、その発作によるショックで意識を喪ったということが考えられます。ちなみに外傷はほとんどありません。少し、倒れた衝撃でこめかみに擦り傷を作ったぐらいで。脳に衝撃が与えられ、それで意識を喪ったとは到底考え難いのです。」と言った。

 「え。」社長が驚きの声を発する。「……では、意識を喪ったのは、ライブで転倒して頭を打って倒れたためではなく、持病の発作だということですか。」

 「ええ。特に外傷もなく意識を失い、そして心臓病の薬を飲んでいるとなると、病気による発作の可能性の方が高いかと……。」

 三人は無言で目配せし合った。

 その時警察の携帯電話が同時に鳴動し、頭を下げて電話を取り、話を始めた。現場で実況見分を行っていた警察官からの電話であるようだった。

 「ええ、聞き取りから彼女の立ち位置が大体判明したと……。上手側前方? 前方ですか? 上手側のアンプの前? じゃあ押し寄せた人に押し潰されたんじゃあないのか。じゃあどうして彼女は倒れた? ……彼女の手荷物の中から心臓病の薬が発見された。どうも、心臓病の発作を起こしたらしいのだ。……それはまだわからん。これから医師に確認をして貰って……、」

 リョウは看護師に向かって、「彼女は、いつ頃意識が戻りそうですか?」と問うた。看護師はきつく唇を引き結ぶと、「……わかりません。最悪の場合、このまま心臓が弱まり止ってしまえば、脳死状態に陥ることも、十分に考えられます。」と言った。

 リョウはミリアでもそうはっきりとわかるぐらいに息を呑んだ。

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