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BLOOD STAIN CHILD Ⅴ  作者: maria
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 「ヨーロッパツアーを終え、日本に戻ってこられてすぐに全国ツアーということですが、一ヘヴィメタルバンドがここまで大きくなるというのは、日本において今までほとんど例のないことだったと思います。そこまでの成功を収めたリョウさんの、音楽活動に向かう上でのモットーのようなものがあれば、教えて下さい。」妙齢の女性インタビュアーがにこやかに言った。

 今日はライブもなく、他の三人は伊佐木が地元民から聞いたという、美味い海鮮丼を食べにいくのだと言って、混雑を避け、昼前から出て行ってしまった。一人ホテルに残され、リーダーとして幾つものインタビューに答えるのは止むを得ないとは思いつつ、今頃ミリアは楽しみにしていたシラス丼を食べているのだと思えば羨望の念が次第に擡げてくる。

 「そうですねえ……。」どうにか頭を切り替えて答えようとするが、あまり専門的なことを言っても、メタルなんか門外漢だと顔に書いてあるようなこの女性を困惑させるだけであるし、そもそも音楽雑誌でさえない。いつもの「好奇心」旺盛なメディアの一つなのである。

 「デモとかミニアルバムじゃなくて、ちゃんと10曲とか曲溜めてフルアルバムを出すことと、それをコンスタント……まあ、少なくとも二年に一枚とかは絶対に出すことと、それが完成したらライブやることすかねえ。普通ですけど。」

 「そうですか。バンドの曲は全てリョウさんが書かれているんですよね。それは大変ではないですか。」

 そんなの大変に決まっている。命を削る作業だ。でもそれが音楽を生業に選んだ己の使命なのではないか。リョウは呆れつつ、「まあ、大変っちゃあ大変すけど、楽に生きてる連中なんざこの世にいねえでしょ。ほら、あんただって仕事してて辛いことなんて珍しくもねえでしょうに。」と言った。「それにソロの半分、つうか自分が弾く所はミリアが考えてくれますし、あれはあれで最近は曲作りにもああだこうだっつって顔突っ込んできますしねえ。」

 女性インタビュアーはにわかに目を輝かせて、「バンドの曲作りは、ミリアさんとの共同作業ということなのでしょうか。」と言った。

 リョウはまたこのパターンかとげんなりする。既に今日だけで同様の質問がどれだけあったろう。それで鈍感なリョウにもさすがに知れた。多くのメディアはやはり自分とミリアとの(親密な)関係性を書き立てたくて仕方がないのである。それが数年も前の週刊誌の記事に起因していることを思えば、リョウはその記憶力の良さにほとほと恐れ入るばかりであった。

 「共同っつう程でもねえすけど。……やっぱ基本的には俺が書いたモンだし。それにミリアが色々口出したり付け足したりする程度ですから。」落胆させるとはわかっていながらも、リョウはわざわざこの女性を喜ばせるために虚飾を交えることも是とせず、真実の所をそのまま、述べた。

 「今、ミリアさんとは一緒に住んでらっしゃるんですよね。」

 もう音楽なんぞはどうでもいい。その意向がはっきりと読めて、リョウは欠伸が出そうになるのを、涙目になりつつもどうにか、押し止めた。

 「……ああ。今も昔もずーっと一緒に住んでますよ。兄妹すからね。」

 「その、兄妹という関係でありながら、ご結婚されているというのは本当なんですか?」

 リョウはこれから音楽誌以外のインタビューは断じて全て断ろうと決意する。海外でのインタビューはこうではなかった。徹頭徹尾音楽やステージングの話だけで、十分こちらとしても気乗りのする仕事であったのに、やはり、人の色恋沙汰が商売となる日本はそうではないというのが身に染みて実感され、心底うんざりしたのである。

 「まあ、戸籍上では兄妹ですよ。何なら調べてみたら。」

 「……でも、結婚式を挙げられたのは事実ですよね?」今にも証拠写真を見せ付けるような気迫に満ち満ちて、女は言った。リョウは次第に面倒臭くなる。シラス丼が恋しくなる。地元民の愛する郷土料理が、とてつもなく羨ましくなる。

 「まあね、でも、ミリアが高校ん時ぐれえまではマジで兄妹だって思ってたんですよ。だって戸籍上ではそうなってるし。でもね、あいつの母親が、俺の父親とは違う人間の子だって暴露して、実際遺伝子検査みてえの受けたら、俺らに血の繋がりはねえって出て。そんでまあ、一緒に長いこと住んでらから情も湧いてたし、そんで、結婚みてえな真似をしました。」

 女の表情が明らかに生き生きとしてくる。血色さえ良くなって来たようにさえリョウには感じられた。健康で何よりですこと、などという戯言がリョウの胸中に浮かび上がる。

 「リョウさんは、いつ頃からミリアさんを女性として意識し始めたんですか?」

 「……はあ?」

 「女性から見ても、ミリアさんはとても魅力のある女性です。容姿は当然のことながら、やはり音楽の才能には瞠目させられます。それから昨今では専属誌では料理コーナーも持たれており、その料理のセンスにも多くの女性たちが惹き付けられています。それらの、あるいはそれ以外の、どのような点にリョウさんは最も魅力を感じられたのでしょうか?」

 リョウはほとほと呆れ果てた。完全に、何も言いたくなくなった。女はしかし期待に胸を膨らませながら次の言葉を待ち望んでいる。

 「……ミリアはミリアじゃねえかよ。あいつのどこが魅力かって、んなモン一々口で説明するもんかよ。もう、何なんだよ、音楽の話じゃねえじゃねえか。つまんねえ話すんなら帰れよ。」

 「いえ、申し訳ございません。でも私共の雑誌の読者はやはりミリアさんに憧れを抱いている層が多くおります。少しでもミリアさんのお話を伺いたくて……。」

 「じゃあ、本人に聞けよ。」リョウは礼儀悪くも片膝を立てて腰を屈めた。

 「後ほどそうさせて頂きます。」

 リョウは己が失態に息を呑んだ。

 「でも、最も身近なリョウさんから見るミリアさんのイメージを少しでもお教えいただければ……。」

 「んもう、んなの知るかよ。適当に書いとけよ。俺はもう知らん!」リョウはそう言って遂に椅子を蹴飛ばし立ち上がった。女の悲鳴めいた懇願の声を背に浴びせられながら、しかし躊躇の素振りも見せず、そのまま高層階に用意された部屋にそそくさと戻ったのである。

 

 「ああ、美味しかったわねえ。」ミリアは満足げに車のドアを開け、ホテルの玄関先に降り立った。「リョウ、可哀想に。一緒に食べれたら良かったのにねえ。」

 「まあ、あいつはまがりなりにもリーダーだからな。インタビューも今日ぐれえしか受けれねえし。でも、……今日だけで十数社とか言ってたか? なんか音楽誌以外も結構あるみてえだぞ。随分人気者んなったもんだよなあ。マジで信じらんねえ。」シュンが膨れた腹を摩りながらミリアの後に降り立った。

 「ミリアさーん! お帰りなさーい!」とロビーから手を振ってきたのは、無論見知らぬ女である。

 ミリアは怪訝そうな眼差しで足を止めると、その女は走り込んできてすぐさま名刺を手渡した。

 「私、S誌の編集をしております、川木と申します。先程リョウさんにインタビューをさせて頂いたのですが、ミリアさんにもこれからほんの少しのお時間だけ、どうしてもお願いしたく……。」

 ミリアは戸惑いつつ、救いを求めるようにシュンとアキを交互に見つめた。

 「リョウだけじゃあダメだったんか。」シュンが代わりに答える。

 「ええ。リョウさんにもお話を伺ったのですが、ミリアさんから直接お伺いしたいお話もございまして。」

 「うーん、どうするよミリア。」

 リョウが頑張ったのであればミリアも頑張りたいという、使命感めいた思いが沸々と沸き起こって来る。

 「わかりました。」何も知らないミリアははっきりと答えた。しかしミリアの言語力は不安を醸すところである。シュンとアキは咄嗟に目配せをして、インタビューに同席することとした。

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