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BLOOD STAIN CHILD Ⅴ  作者: maria
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 ツアー開始と共に、Last Rebellionの国内における評判は益々高まっていった。ツアー初日のライブを終えると四人は、その後東北地方を回り、再び関東へ戻り東海道を下っていった。運転士はその間も絶えず四人を気遣い、食事の手配、ホテルとの干渉だと率先して働いた。

 「申し訳ないのね。」ミリアはそう言いつつも、先程サービスエリアで買って貰ったご当地ソフトクリームを舐め続けている。時折親指にソフトクリームが垂れてくるのを、必死に舐め上げる。三人の男たちは半分夢の世界へと誘われている。

 延々と続く東海道を車は走り抜く。

 「おうちにも帰れなくって、シズクちゃん、寂しがってるでしょ。」

 「昨晩も電話をしましたよ。元気そうで、自分のことよりもお土産を楽しみにしてるんですよ! まったく厭になっちゃいますよ! ……でも、ほら、ミリアさんも白ちゃんに会いたいでしょう?」

 「そうなの!」ミリアは颯爽とポケットから携帯を取り出し、運転士に画面を見せ付ける。運転士は困惑した表情を見せながら、後で車を停めたら見させて貰いますねと遠慮がちに答えた。

 「あ、そうか……。あのね、ペットホテルの人がこうやって、毎日毎日白ちゃんの写真を送ってくれんの! そんでね、今日のは……、『今日のおやつはささみジュレです。白ちゃんあっという間に完食です。』って、書いてあんの!」

 「ほお、凄いサービスですねえ。」

 「一泊8000円だぞ!」にわかに眠気を覚ましたリョウが隣で怒声を上げた。「人間様のホテル並みじゃねえか! つうか俺らが最初にツアーやった頃は、ホテルなんてたまーに、たまーに、泊まるだけだったんだぞ。ご褒美扱いか、もう本気で体力の限界が来て行くっつうやつだ。後は全部車中泊、スーパー温泉コースでしのいだんだぞ。一体猫一匹の癖してどう暮らせば一日そんなに金取られんだよ!」

 「あのね、昼間はキャットタワー付きのプレイルームでそこのお姉さんがちゃんと遊ばしてくれて、それからシャワーで体も洗って貰えて、ほうら、毎日違ったおリボンまで付けてお写真送ってくれんの。おばあちゃんが見っけて来たペットホテルなのよ。白ちゃんは特別な子だからって言って、スイートルームお願いしたんだって。そんでおばあちゃんがお金まで払ってくれちゃったのよ。」

 「じゃあ、いいじゃねえか。別にお前の懐が痛む訳じゃああるまいし。」シュンが眠たげな声で答える。

 「いい筈ねえだろ! なんで猫野郎のためにんな大枚叩くんだよ! 普段カリカリ飯食って寝て起きるだけなんだから、スイートルームなんつうふざけた所じゃなくたっていいじゃねえか! 何がおやつだ。ジュレだ。俺でさえんなモン食ったこたねえ。」

 「白ちゃんはお上品だから、普通じゃダメなんだって。」

 「上品なもんか、コンビニの前で捨てられてた雑種の猫だぞ。」

 「でも雰囲気が上品なんだって。こうね、脚がすらっとして長いから歩き方もしゃなりしゃなりとしてて、まるでパリコレに出てくるファッションモデルみたいで、さすがミリアちゃんの猫はちょっと普通の猫とは違うっておばあちゃん、言ってた。」

 ケッと言う奇妙な声を出し、リョウはふて寝を決め込む。

 「あーあ、白ちゃんに会いたいな。背中にすりすりってして、にゃあんっていう声を聞きたいな。白ちゃんてばね、とってもいい声してんの。もし人に生まれ変わったら絶対凄いソプラノ歌手になれる。」

 「あーあー、そうかい。電話でもしてろよ。」リョウが馬鹿にしたように言い、再び目を閉じる。

 しかしミリアは素直に「そっか。ホテルの人に白ちゃんに代わって貰えばいいのか。」と予想外のことを言い出したので、ふて寝を決め込んだ筈のリョウは思わず目を見開いた。

 ツアーはつまり、車中こんな戯言に終始する程にストレスなく続いていったのである。ホテルはどこも快適で、運転士が見つけて来るレストランやケータリングも美味で文句の付けようがない。バンド結成当初は皆で釜の飯を四等分にし、缶詰を肴に飯を食べていたものであるから、ツアー後半ともなれば体力の低下にストレス過多が加わり、どうしてもメンバー間の些細ないざこざなんぞも避けられなかったのであるが、さすがホールツアーである。事務所がバックに付いているつーあである。様相は完全に、異なった。

 それによってライブのパフォーマンスも、日に日に向上してくる。リョウの怒声はいよいよ攻撃的に、アキのドラミングも更にドラマティックに、シュン、ミリアのベースライン、メロディラインもすこぶる説得力を増してきた。有能なスタッフに囲まれ、音響、照明、大きな失態もなく、ツアーは進んでいった。

 「……懐かしいな。」ふと眠っていたとばかり思っていたリョウがそんな呟きを発したので、ミリアは「何が?」と問うた。「昔のツアー? どうだったの?」ミリアは既に様々に聞いている過去のツアーの出来事を想起して頬を緩めた。

 「否、……ツアーもそうだけど。俺、昔ここ通って上京してきたからさ。」

 ミリアは目を丸くする。「上京?」

 「そ。施設から飛び出してさ、バンドやるっつう思いだけで夜行バス乗ったんだよなあ。」

 「マジか。」シュンも目を覚まし、頓狂な声を上げた。

 「何で施設飛び出したの? そこの誰かに嫌なことされたの?」

 「いやあ……。」リョウは暫し考え込んで、何かに思い当たりくすりと笑いを漏らし、「みんないい人だったよ。ガキ共とはあんま喋らなかったけど、大人たちはみんないい人だった。ギター教えてくれたのも、そこの気のいいあんちゃんだったし。施設長のおっさんとかも、凄ぇ俺のこと心配してくれてさあ。なのに、何で俺は飛び出したんだろうなあ。ま、若さゆえの衝動っつうか、……それだけバンドやりたかったんだろうなあ。」

 「何で他人事なんだよ。」

 「否、だってあんま当時の感情とか覚えてねえんだよ。さすが夜行は暗ぇなって思って、外いつまでも見てたぐれえしか覚えてねえ。」

 「勝手に飛び出してきて、連れ戻されなかったんか。」

 「一回、施設長さんが来たな。……でも、そんなにこっちでやりてえんだったら頑張れっつって、何か、最初に入ったアパートの保証人みてえのになってくれて、バイト先に頭下げてくれて、それからは電話の一本もしねえ。……思えば俺、酷ぇ野郎だな。」今更ながらリョウは目を瞬かせた。

 「かつては世話んなりましたって、会いに行ったらいいだろうよ。」

 「でもまだあそこにいんのかなあ。あん時でさえ相当年、行ってただろうからなあ。俺はジジイって呼んでたぐれえだし。」

 「お前、相当人でなしだな。」

 「……だな。」リョウも呆れたように繰り返した。

 ミリアは茫然と車窓の風景に見入る。山と海とかどこまでも縦に横に広がっている。この風景を未だ少年だったリョウが不安げにじっと見つめていたのだと思うと、どこか悲しいような愛おしいような気持ちでいっぱいになった。

 「いつか、リョウの住んでたそこ、行ってみたいな。」

 リョウはぎょっとしたような顔をしたが、すぐに柔和な笑みを浮かべて「そのうちな。」と言った。

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