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BLOOD STAIN CHILD Ⅴ  作者: maria
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 「山だわねえ。」車中にDEATHの音楽が流れる中、ミリアは呟くように言った。「田んぼもあるわねえ。」既に東京は離れ、風景は大分自然を感じさせるそれとなっていた。

 「何か、台湾の新幹線乗った時もこんな感じだったよな。」ミリアの隣でシュンが答える。

 「そうそう。」ミリアは同士を得た喜びに頻りに肯く。「李さんがその辺からひょっくり出てきそうだわよう。」

 「懐かしいな。台湾。もう……四年前か。」アキが感慨深げに言った。「あれから海外からのオファーが来るようになったんだよな。」

 「本当あっちこっち行ったよなあ。」シュンも頬を緩めて言った。

 「実際、俺らが死ぬまでライブやり続けられたとしても、地球上の俺らにちっとでも興味持ってくれてるメタラー全員と会えるっつうことは、ねえ訳だ。だとすっと、やれる時にやっておかねえとな。俺らが行かなかったことで結局会えず終いの人間ができちまうなんてことを考えると、……みかん箱の上でだってやりてえぐれえだ。」リョウが鋭い眼差しで言った。

 「ドラムセットが乗らねえんだが。みかん箱だと。」アキが低く呟く。

 「みかん箱でも目一杯並べてやれば、ドラムセットでも乗っかんだろ。」シュンが意気揚々と言った。「大丈夫だ、手伝ってやるよ。」

 「ホールだろうがライブハウスだろうが、俺らはライブに臨む気概の面では絶対ぇ差は付けねえ。バンド始めた頃は純粋客は数人相手っつうのもあった訳だし。それをすっかり忘れちまって、こういう場所でしかやんねえなんつってふんぞり返るようになったら、……終ぇだ。」

 初のホールばかりで行う全国ツアーに今まさに望まんとするメンバーにとって、その言葉は深く胸に落ちて行った。それを何度も反芻している内に、三人の男たちは言葉少なとなりやがて眠りについたが、ミリアはその大きな目を見開いて見慣れぬ風景をひたすら凝視した。その話相手になったのは運転士である。

 「ミリアさんは、あまり国内旅行には出掛けないんですか?」物珍し気な様子に運転士はそう問いかける。

 「うん。ツアーしか行かないの。」

 「だから、こういう田舎の風景が珍しいんですねえ。」

 「うん。東京しか見ないから。……でもね、ミリアのおばあちゃんち、とっても田舎なんだって。すうぐ近くに海があって山があるって。行ってみたいんだけれど、まだ行ってないの。」

 「へえ、どちらなんです?」

 「A県。あのねえ、お屋根が葉っぱで出来てたりするんだって。そんなのって本当にあると思う?」ミリアは楽し気に微笑んだ。

 「ほおお、茅葺き屋根ですか。今時珍しいですけれど、田舎に行けばたしかにありますよ。白川郷って知ってます? 世界遺産にもなっている所で。僕、前にあそこに行って見てきましたよ、茅葺き屋根。」

 「本当? 凄ーい! ミリアも見たいな。それからね、田舎の特別なお料理も食べたいの。マグロが美味しくってね、おいもも美味しくってね、おばあちゃんミリアちゃんに食べて欲しいって言っていっつもお料理作っていつも持って来てくれんの! それもすっごいすっごい美味しいんだけど、おばあちゃんが言うには、新鮮なまんま地元で食べるともっともっと、美味しいんだって!」

 「そうですよ、そうですよ。やっぱり地元で食べるのは、味が違いますからねえ。それも旅行の醍醐味ですよ。きっとおばあちゃんはミリアさんにその新鮮ならではの美味しさを味わって貰いたいんだろうなあ。可愛い孫のためにきっと腕を振るって下さいますよ。」

 「うん。」ミリアは照れ笑いを浮かべる。

 「なんで今まで行かなかったんですか? まあ、たしかに遠いは遠いですけれど、今は新幹線も通ってますから、すぐですよ。」

 「うん、そうなの。あのね、実は……おばあちゃんがミリアのおばあちゃんだってわかったのは、ミリアが大学の時だから。それまで、ミリアは本当のパパを知らないでいたから……。」

 運転士は急に顔色を蒼褪めさせ、「それは、すみません。変なことを言ってしまって……。」と慌てふためいて言った。

 「ううん。全然だいじょうぶなの。もうね、パパは病気で死んでしまったのだけれど、ギターが世界一上手だったの。その血がミリアにもぐんぐん流れていて、だからミリアはギターを弾くとパパと一緒に弾いている気持ちになるの。」

 「そう、だったんですか……。ミリアさんのお父さん、きっと今の姿を見て喜んでいるでしょうねえ。」

 「うん。……遠い遠い天国なんかにいないといいんだけれど。ミリアたちと一緒のステージにいてくれた方が断然素敵でしょう?」

 「あははは。きっと一緒にいてくれますよ。可愛い娘が心配で、とても天国でのんびりなんてできないでしょう。僕だってそうですね。出張で娘と数日離れただけでも、何だか寂しくってなりませんから。」

 ミリアは口元を押さえ、うふふふふと笑った。「一緒ね。パパはどっこも一緒なのね。」

 二人はその後も父娘の話をしながら、延々と高速道路を北上していった。旅行好きの運転士はミリアが山を見、河川を見るたびに発せられる質問に一つ一つ丁寧に答えていった。ミリアはその中で、いつかやはり自分でも運転免許を取って、リョウを連れて旅行に行くのだと決意を固めていった。

 

 「さあさ、そろそろ到着しますよ。」

 ミリアはリョウを揺すぶり、シュンを揺すぶり、アキを揺すぶって再び車窓を眺め、思わずはっと感嘆の溜め息を吐いた。

 コンクリート壁の大きな会場がある。遠くにはアスレチック施設と、芝生の広場でキャッチボールをする子どもたちの姿が見えた。

 ツツジが延々と咲き誇る道を進んでいくと、広々とした駐車場に入った。停車するなり早速係の青年が数人歩み寄り、「お待ちしていました。こちらへどうぞ。」とにこやかにメンバーを迎え入れた。

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