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Episode081 竜卿公爵とクレープ



 740階層、皇都ミミティエ。

 キスミルの要望通り、皇都で流行っている劇を観に行った。内容はラブロマンス?と分類されるもので、初めて見たセシリアもなかなかに楽しむことができた。

 そのあと巨大な美術館に行った。

 ──絵のことはよく分かんなかったけど、キスミルさんは楽しそう。ラミーもキスミルさんと一緒にいれて嬉しそうだし、フルーラも軽口を叩きながらなんだかんだいってキスミルさんと一緒に巡ってるし……。

 

「狼っこ、妾について来るがよいぞ、今度はあのクレープとやらを食すのじゃ。年増女始めその他諸々どもはここで待つがよいぞっ」


「おおーっ」


 さっそくクレープを買いに行ってしまうキスミルと、彼女に追従するラミアナ。

 三人掛けの丸テーブルを囲むセシリア達は、二人が戻ってくるまでしばし待つ。

 そのあいだ、思い出したかのようにフルーラが言った。


「アンタたちアタシに相談があるって言ってたけど、いったいどうしたんだい?」


「セシリアちゃんがお兄様に会いたいのよ。でも、お兄様っていま何をされてるのかとか、あんまり知らないの。だからフルーラに教えてもらおうと思って」


 一年半だ。

 セシリアがベルティスと顔を合わせていない期間。

 そのあいだ、たくさんのことを学び経験した。

 

 ──会いたいけど、どうやって会えばいいんだろう。


 魔貴公爵の分家の娘であるシャロンと結婚してしまった。知っていることといえば、お兄ちゃんが研究会《天の使徒》で活動し、キメラの研究を進めているということくらいだろうか。勝手に魔貴公爵家に出向いて、研究で忙しいお兄ちゃんに会えるかどうかも分からない。


「そもそもキメラって何なんですか?」


 魔獣の討伐を目的として作られた人工生命体、ということくらいだろうか。

 それ以外は何も知らない。


「何百年かまえの話だよ。魔獣との飽くなき戦いに疲れた貴族たちが、研究者たちに願った。人間の代わりに魔獣を倒してくれる存在はいないのか。魔獣を捕食するような動物は存在しないのか」


 魔獣は、人間と同様に食物連鎖の頂点に立つ。

 魔獣に襲われる動物はいても、魔獣を襲おうとする動物はいない。


「いないのなら作ってしまおう。魔獣よりも強く、より獰猛な動物を掛け合わせした人工生命体、キメラが生まれた理由だ」


「キメラって動物なんですよね。なのに冰力を奪うんですか? お姉ちゃんはキメラに冰力を奪われたって話ですけど」


「キメラは動物だけど、ただの動物じゃ多くの魔獣を討伐する兵器にはならない。すぐ傷ついて死んじゃうからね。だから研究者は、キメラに冰力を与えた。人間のように冰力で魔獣を殺し、冰力で己を守り、冰力で自己再生できるように。研究の過程で、冰力を奪い自分の糧とする能力を身に着けたらしい。……これは愚弟子情報だけどね」


 魔獣を倒すために作られた生物兵器。

 エルマリア夫妻がキメラのプロトタイプを完成させたのだという。そのよしみで、息子であるお兄ちゃんがキメラの研究に携わっているのだろうか。分からないことだらけだ、子どもである自分には教えてもらえないということだろうか。少しむずがゆい思いだ。


「お兄様と会えないかしら」


「大丈夫だと思うよ、二人なら」


 ちょうどそのとき、大量のクレープを持ってキスミルとラミアナがやってきた。

 その隣に、知らない女性と若い男……。


「あ、グリさん!!」


「どうして竜卿公爵リースフリートのグリ様がここに!?」


「ああ、こやつらはさっきクレープ屋でばったり会ってな。妾がかの有名なキスミルだと分かると、相席してもいいかと言ってきたのじゃよ。快く了承してやった」


 人の好さそうな笑みを浮かべている男・グリ。隣にいる女性は秘書のような雰囲気だ。事実、そうなのだろう。キスミルに促されるまま椅子に座っているグリに対し、あの女性は立ったままだ。主従関係があるに違いない。


「今日はお忍びだ。ここにいるラムベットがデザートを食わせろってうるさくてな」


「どうも、ラムベットです。グリ様の秘書官をさせていただいております」


 知的そうな女性が軽く会釈。思わずこちらも会釈を返す。

 しかし、相席してもいいかと聞いてきた理由はなんだろう。

 やっぱり、ここに二人も四皇帝魔獣が揃っているからだろうか。 

 



 

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