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Episode079 早く会いたい



 騎士団の養成所に入学して、セシリアはめきめきと頭角を出していった。

 まず編入試験の実技部門、筆記試験がともに満点。養成所のクラスは、入学した年齢ではなく実力で割り振られ、セシリアは最高のAクラスに所属した。

 ちなみに、養成所の編入話は同じく剣士として才能のあるユナミルにも届いていた。セシリアが入学するならば一緒にということで、ユナミルも編入試験を受け、合格。同じくAクラスに所属している。


 全寮制の騎士団養成所は、褒賞システムというポイント制度が存在している。100ポイントが上級生になれる最低ラインで、300ポイント溜めれば一年間待たずして上級生の仲間入りになれる。

 このシステムに加点されるのは、授業中の成績、練習試合、一カ月に一度あるトーナメント形式の実戦試合、騎士見習いとして外で実習するときなどだ。

 

 入学して早々に始まった二人一組ツーマンセルの実戦試合では、セシリアとユナミルがタッグを組み、相手に勝利。一回も負けずに勝ち進んだので、ボーナスポイントを含めて30点を獲得した。期待されるまま一年生エースの座を勝ち取り、定期試験、長期合宿、下階層への遠征を経て昇級試験へと臨んだ。もちろん余裕で合格し、編入して八カ月で二年生になった。


 二年生では、本格的な集団行動や皇都護衛の任務、下階層の魔獣討伐に参加した。

 どれもこれも大変で、やりがいがある。ユナミルと一緒なのでセシリアも楽しかった。けれど、やっぱり大好きなお兄ちゃんがいないのは寂しい。


 ──つなげようと思ったら、念話できるんだよ?


 でも、自分からは念話しない。

 一度話したら止まらなくなる。すぐ会いに行きたくなるだろうから、自分からは念話しない。


 ──お兄ちゃんからしてくれたら、喜んで出るんだけどなぁ。


 残念ながら、ベルティスから念話がくることはなかった。

 ますます拗ねたくなる。

 ……でも、もう子どもっぽいのは卒業。一人でも生きていけるような強い女性になるのだ。もうほっぺたを膨らましてお兄ちゃんに頬ツンをしてもらったあのときとは、違うのだ。甘えたらダメ。

 

「『はぁ……いま、お兄ちゃんはシャロンさんと何をしているのかな。もしかして、ラブラブな夜を過ごしていたりして? ああ、リアがいながらそんなこと! こうしちゃいられない、いまからお兄ちゃんのところへ行かなくちゃ!!』」


「もう、変なこと言わないでよ! わたしそんなこと思ってないもん!」


「セシリアちゃんがぼんやりしてるからじゃない」


 16歳になっても、ユナミルはユナミルだ。

 初めて会った時よりも身長が高くなり、予想通り麗しい大人の女性へと変貌しつつある。養成所の七割が男子ということもあり、かなりのラブレターを貰ったという。


 そういう意味では、セシリアも大人びた。

 入学当時は《冰魔の剣姫》と呼ばれている姉エルリアと比べられ、子どもっぽいとバカにされたものだ。それがいまはどうだ。短かった銀髪は背中を越すほどにまで伸び、銀の姫と呼ばれるほど美しく成長している。


「お兄ちゃんと会わなくなってもう一年半だよ。どうしてるのかなって思うのは普通だよ」


「だから長期休みのときに会いに行こうって言ったのに、セシリアちゃんは頑なに受け入れてくれなかったわよね」


「だって、すぐに会いに行ったら甘えんぼうのお子ちゃまみたいじゃない。リアはもう16だよ?」


「あ、いまリアって言った」


「あ!」


 周りに年下と年上のお姉さまお兄さまが増えたため、セシリアは一人称を「わたし」に変えると宣言していたのだ。お兄ちゃんという単語が出てくると、つい昔の自分になってしまうのである。

 ──仕方ないよ。お兄ちゃんに会いたいんだもん…………。


「セシリアちゃんに罰ゲーム」


「ええええ!?」


「まずは、苦手なこちょこちょからよ!」


 容赦ないユナミルの指使いが、セシリアの体を這いまわる。

 過呼吸に陥りそうなほど笑わされた。仕返しとばかりにセシリアもユナミルにこちょこちょを始める。

 途中から大声になってしまっていたようで、寮監がやってきた。


「まずい、寝るわよ!!」


 いそいそと各自のベットに戻って布団をかぶる。

 寮監が部屋の扉を開け、こちらの様子を確認している音がした。

 しかし、注意はされない。

 寮監はそのまま出て行ってしまった。


「ねえ、セシリアちゃん」


 しばらくして、ユナミルが小さな声を出す。セシリアも布団から顔を覗かせた。


「今度の休み、こっそりお兄様に会いに行かない?」


「え、えぇー? でも迷惑じゃないかな、お兄ちゃんっていま《天の使徒》っていう研究会で、研究に専念してるんでしょ? えと……なんだっけ、キメラ? 魔獣を倒す生物兵器の開発? みたいな、国の一大プロジェクトで忙しいんじゃないかな」


 エルマリア夫妻が提唱しプロトタイプまで完成させたという人工生命体、キメラ。

 冰術の研究者であり夫妻の息子であるベルティスが、そのプロジェクトに参加する許可がおりたのは半年前だったという。フルーラからの情報だ。


 ──そういえば、シャロンさん元気かな……。


 大好きなお兄ちゃんと結婚してしまった女性。嫌いにはなれない。魔獣狩りのあと、結婚式が始まるまで何度か話す機会があって、彼女の優しさと素直さに触れた。

 とにかく献身的で、自分と同じか、それ以上にお兄ちゃんのことが大好きな女性。

 

「私はお兄様に会いたいわ。セシリアちゃんもそう思うでしょ?」


「うん」


 成長した自分の姿を見てほしい。褒めてほしい。そして「綺麗になったね」とか言われたら、それはもう天に昇りそうな気持ちになるだろう。

 うぅ……考えれば考えるほどお兄ちゃんに会いたい……。


「こっそり会うには、やっぱりフルーラに会って情報収集するのが一番ね」


「ねえ、もし会えたらシャロンさんにも会っていい?」


「いいわよ」


 とにもかくにも、まずは懐かしき702階層の邸宅へ。

 フルーラに会いに行こう。





 


 

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