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Episode078 それぞれの道


 大賢者の再来、そして魔貴公爵家への婿入り。

 この二つのニュースは、一晩にして皇国中に知れ渡った。四皇帝魔獣キスミルがあんな派手なカミングアウトをしてくれるものだから、話が大きく出たのだという。

 ベルティスのところには連日連夜にわたって人が押し寄せた。ルークスの冰力使いによる質問攻めから始まり、次に学者達から身体検査……主に冰力量、冰術レベルの測定願い、さらに考古学者による古代文書の解析依頼等等。

 《賢者》だということも秘密にしていた反動とはいえ、さすがに疲労感が溜まる。シャロンの面会にこぎつけたのも、これのせいでかなり遅れてしまった。

 

 魔獣狩りが終わってすでに四日。

 シャロンが意識を失った理由について、ルークス側の説明はなかった。ただストレスによる疲労が原因。だがしかし、そうではないことをベルティスは知っている。

 冰力の過失による昏倒だ。


「──入るよ」


 久しぶりの再会。

 シャロンはベットで上半身を起こしていたが、かなりやつれているようにみえた。


「体は大丈夫か?」


「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません。ええ、おかげさまで何とか……」


 ベットに座って、彼女の顔を見る。

 彼女は気恥ずかしそうに視線をおろおろさせていた。


「あの…………あ、あんまりにもお顔が近いので、その何と申したらよいか」


「縁談の話、聞いた?」


「使用人から聞きました。……まさか受けてくださるとは思いませんでしたので、正直驚いてます」


「ああ。でも、君に謝らないといけないことがある」


 縁談は最後まで悩んでいた。

 受けるメリットとデメリット、そして自分自身がシャロンに悪い想いを抱いていないことを踏まえ、結論を出した。

 

「僕が君と結婚する理由は、悪いけど恋愛感情じゃない。そもそも、僕には恋愛感情というのが分からないんだ。だからそういうのを期待してくれたら、本当にすまないと思っている。君の夫には、たぶん相応しくない」


「キメラ、のことですよね」


「分かってたのか」


「それは……いえ、この話はまた今度にしましょう」


 シャロンは言葉を切り、微笑んだ。


「相応しくない、なんて……そんなに自分を貶めないでください。もともと根暗で下を向いているような私とは違い、ベル様は常に前を向いてみんなを先導していく素晴らしいお方ですよ。……妻に相応しくないのはむしろ私のほうです」


「…………そんなこと」


「ふふっ、ベル様は素敵な方です。私にはもったいないくらいで…………でもそれ以上にどんな理由であれ、ベル様を独り占めできることが、嬉しいんです。卑しいでしょ? こういう女なんですよ、私」


「そうは思わないよ。人間だから」


「そう言ってもらえて嬉しいです」


 そこからしばらく俯いていたシャロンが、急に顔を赤くし始める。なんだろうと思って覗き込むと、とたんに目を逸らされた。


「べ、ベル様と結婚するってことは…………つまり………………こ、子どもを……作る、ってこと……なんですよね…………」


「大丈夫? 顔すっごく赤いよ」


「は、はははい!! だい、大丈夫です!! これっぽっちも変なことなんて考えてませんから!!」


 しゅーしゅーと、蒸気が出ているシャロンの顔。

 目なんてグルグルしている。

 息も荒いし。

 たぶん妄想がとんでもない方向に行ってしまっているのだろう。

 そっとしておこう。

 

「ベル様……」


「ん?」


「……愛してます」


 はにかんだような、照れくさそうな笑顔。

 少しだけ可愛くみえる。

 ……むずがゆい想いだ。






  ◇






 そのとき、セシリアは──


「お姉ちゃん」


 ベットで点滴を受けている姉エルリアに、自分の思いを打ち明けていた。

 お姉ちゃんを守れなかったこと。

 お兄ちゃんに頼りっぱなしだったこと。

 それがとても悔しくて、いまの自分がイヤだということも。


「リア、なんのためにお兄ちゃんから剣を教えてもらってたんだろうね。リアは、お姉ちゃんを守りたい想いで剣を振ってきたのに……肝心なときには役立たずだった」


 姉は励ましてくれた。相手が悪すぎる、あそこで出て行っても足手纏いになるだけだと。

 それでもセシリアは、自分の不甲斐なさに大粒の涙を流していた。


「もっと強くなりたい、お姉ちゃん」


「そうか。じゃあ、具体的にどうするんだ?」


「リアは、騎士公爵家エンベルトの騎士養成所に入学してもっと強くなる。お兄ちゃんをあっと驚かすんだ。強くなったねって褒めてもらえるように、リア……」


 養成所は寮生活。つまり、大好きなお兄ちゃんとは離れ離れということになる。

 それはとても辛い。

 でも、たまには離れなければならない。

 大好きな人と一緒にいるだけじゃ、ダメ。


「応援して……お姉ちゃん」


「ああ。抱きしめてやろう、こっちにおいで」


「うん」


 







これにて第五部終了です。

冰結宮殿のサクスヴェーダ、いよいよ第六部で完結の運びとなります。

第六部序盤でセシリアは一気に成長し、16歳になります。第五部で出てきた混合生物とシャロンの話を書きつつ、並行して大きくなったセシリアとベルティスの二人のシーンを描写していきたいと思っております。

 

 年末年始は作者多忙につき更新頻度の低下が予想されますが、しっかり最後まで書き上げていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


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