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Episode058 イヤな匂い


 モドリーヌ卿の別荘は、一言で言えば広大で豪華絢爛だった。

 牧場経営でもできそうなほど巨大な中庭、挙式をするための教会、モドリーヌ親子が避暑地として活用する屋敷に至るまで、すべてに職人の手が行き届いている。

 

「すごいねー……」


「集まってる人の顔ぶれも豪勢だ。各界の著名人たちがたくさんいる」


「毛むくじゃらの人がいっぱい……。冬とかあったかそー」


「立派なおひげを蓄えた紳士たち、と言いなさいリア。彼らの眉間に皺が寄るぞ」


「はぁーい」


 個性的なひげを蓄えた文学人、音楽人、商人、そのほか何か分からない研究成果を挙げた成功人間たちが、立派な礼服を身に着けて次々と幕の向こうへ消えていく。その手前、とても外用の受付中テーブルとは思えない場所に、受付嬢と思わしき人たちがいた。こっちの姿に気付いたようだ。


「ちょっとあそこ……」


「子ども二人に男のひと一人……? あれはもしかして……」


「もしかししなくとも……」


「「奥さんに出ていかれたクチね」」


 ……お兄ちゃんの娘? お兄ちゃんの娘にみえている? リアが? 今まで会ってきた人の多くはリアとお兄ちゃんを兄妹としか見なかった。お兄ちゃんは22歳くらい(たぶん)、リアは14歳。娘にしてはこっちの年齢が高すぎる! それがいま、このお姉さんたちには親子にみられている!?


「そうです! ローレンさん(ママ)は(竜の品を回収する仕事で)出ていきました!! だから今日はパパと一緒に他人の幸せな結婚式を見るんです!!」


「リア、ガッツポーズ+どや顔で答えてるとこ悪いけどあんまり変な知見を広めないでほしいかな僕個人として」


「すっごい若いパパでしょう!? リアの自慢のパパなんです!! でもママは一人で出ていっちゃったんです!!」


 荒い鼻息。


「そうなのね、可哀想なお嬢さんたち。私たちただの結婚式会場の受付嬢だけれど、同情するわ……」


「撫でてあげるわ……」


 セシリアの頭に、美人な受付嬢二人の手が伸ばされる。ナデナデされて悪い気など起こらない。


「おっといけない、仕事中だったわ。それでは改めて、私どもは本日のアミラーズお嬢様とジェームズ様の結婚披露宴の受付嬢をしております。お若いパパさん……じゃなかった、お客様は招待状をお持ちでしょうか?」


 仕切り直しのようにベルティスは咳ばらいを一回。


「招待状はありません。でも、ベルティスという名前を言えば大丈夫だと伺っております」


「なるほど、レベッカ様の付き添いの方ですね」


「正確にはその場に偶然居合わせただけですがね」


「確認いたしました。それではどうぞ、結婚式は今からちょうど四十分後に、教会の中で執り行われる予定ですので、それまでは中庭の博覧会をどうぞお楽しみに」


 促されるまま中へ。

 中庭は仕切り幕によってエリアが作られている。有名楽団の演奏、熱い鉄板の上で料理ショーをするシェフ、丸テーブルで談笑する貴婦人の姿などなど。はてや竜の装飾品の博覧まで、仕切り幕のなかはモドリーヌ家のお祝いムード全開だ。


「あら?」


 セシリア達に、いち早く気付いたのは一人の女性。ただしセシリアは知らない人物だった。


「可愛らしいお嬢様ですこと。それにとってもイイ匂い……お日様と草原……そして竜の匂いがいたしますわ」


「!?」


 いきなり顔を近づけられ、首あたりをスンスン嗅がれる。まるでラミアナみたいな行動だが、相手は大人の女性。香水の匂いでくらくらする。


「すみません、どちら様ですか?」


 ベルティスが怪訝そうな顔をすると、女性はドレスの裾をつかみ、うやうやしく頭を下げた。


「私の名前はルワンダ。モドリーヌ卿の護衛を務めさせております」


「ああ、モドリーヌ卿が雇うって言っていた一人ですね。盗賊団が昇降盤を襲ったから、護衛を雇うと決めたそうで」


「物騒な世の中ですからね。……まぁ、私はかねてよりモドリーヌ卿に仕えていた人間です。これでも屋敷一の武人であると自負していますわ」


 確かに、ルワンダからは並々ならぬ気配を感じる。こんな強そうな女性が傍にいるんだから、自分はいらないかも? セシリアはチラッとベルティスを見上げたが、彼はまっすぐルワンダを見ていた。


「ぜひそのお手並みを見てみたいものです。……冰力使いですよね」


「ええ、よく分かりましたね。もしかして、あなたも冰力使いですか?」


「まぁ一応は。そうですか、ルワンダさんは冰力使いで……」


 ルワンダは懐中時計を確認し「あっ」と声を挙げる


「ではこれで失礼します。バイバイ、小さな淑女(リトルレディ)たち」


 軽く会釈して去っていくルワンダ。おそらくモドリーヌ卿のところに行ったのだろう。……そういえば、自分はいつモドリーヌ卿のもとで目を光らせておけばいいのだろうか?

 

「せっかくお兄ちゃんに期待されてるんだから、しっかりあの人を守って──」


「ぐぅるるる……」


 ラミアナが、ルワンダに対して唸っている?

 今まで大人しかった。ここに来るまでも、受付嬢にナデナデされたときも怒ることはなく、むしろ嬉しそうにしていた。


 ──どうして今になって……。


「あの女……」


「ラミー?」


「……イヤな匂い…………気を付けたほうがいい」


「そう? ラミーがそう言うなら、一応気を付けてみるね」



 ◇



 屋敷で密書を探すと言っていたベルティスと別れ、ラミアナと二人きりになったセシリア。どうやらベルティスは結婚式には参列しないようだ。密書を探すためとはいえ、そもそも興味がないのだという。


「でもリアは気になるなぁ……だってウエディングドレス!」


「そうよねぇ、大事よねウエディングドレス」


「れ、れ、レベッカさん!?」


 茶目っ気のある笑みで「やっほー」と答えたのはレベッカ本人だ。赤いドレスを着ており、赤い髪を巻き上げている。首からさげている笛のかたちをした骨細工は、首飾りなのだろうか? なんにせよ綺麗だ。


「へぇ、セシリアちゃんがいるってことは、やっぱ弱腰男来ちゃったのか。あれだけ来なくていいって言ったのにね」


「来なくていい……?」


「ううんこっちの話。それよりセシリアちゃん、弱腰男は?」


「お兄ちゃんは屋敷のなかです」


「ふぅん……ってことは結婚式は見ないんだね。あの男は乙女の夢ってものには興味ないんだろうねぇ」


「だってお兄ちゃんですから……」


 乙女の夢といえば……。


「そういえばレベッカさんって、ビーチェさんのことが好きなんですか?」


「へ!? な、な、ななななな何を言ってるのよ!?」


 あ、これは図星だ。







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