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Episode046 ヤヴェール盗賊団



「な、なんだおまえ!! 一般人がなぜここに!?」


「あぁもう、邪魔ね!!」


 ここまでの道のりで、レベッカは三人もの盗賊を蹴散らしていた。

 彼女の強さに驚くとともに、ベルティスはある違和感を覚える。昇降盤職員スタッフの姿が見えないのだ。レベッカに聞けば、一般人と職員はホールに集められて身動きを封じられているのだという。盗賊団が動き始めたのと同時、レベッカは見つからないように隠れていたらしい。


 盗賊団が狙っているのはモドリーヌという商人が取り扱う装飾品の類。皇国でも値段がつきやすく、逃走の邪魔にならないのが理由。


「この扉の向こうが貨物置き場よ。ここまで見回りの盗賊はすべて倒したから、やつらの本陣がここね。ここで金品を奪って、そのまま大型搬入口から脱出するつもりよ」


「ここは昇降路だよ。……まさか飛び降りる気?」


 地上から数百メートル上空にある昇降盤から? 正気の沙汰ではない。


「あなたは皇国民だから知らないんだろうけど、王国の盗賊団ってもっと狡猾で賢いのよ。昇降盤を狙った犯行なら、運搬用に何頭かの飛竜を用意してるの。……彼らの中に竜の里の出身者がいるんだわ」


 だから貨物置き場なのか。ここなら飛竜が活動する充分な広さと高さ、離着陸に必要な大型搬入口がある。スムーズな脱出はここしかない。


「中に入るわよ」


 突入するレベッカ。予想通りとてつもなく大きなフロアで、天井は見上げるほど高い。

 積み上げられた貨物の向こう側に男がいる。かなり質の良い服を着ているが、拘束されて地面に膝をつけている。彼は大商人か何かだろうか? 気になったのは、竜のツメの形をしたピンバッジをつけていることだ。

 ベルティスがエクスタリア王国に来た口実の一つは、竜卿公爵家が頼んできたとある犯罪組織の壊滅である。あの男は、組織の重鎮としてリスト入りしていた……


 ──モドリーヌ卿か?


 エクスタリア王国とフィネアネス皇国をまたにかける大商人、モドリーヌ。

 グリが要注意人物として名前を挙げた男が、こんなところで盗賊団に拘束されていようとは。


「儂に指一本でも触れてみろ、王国中の貴族を敵に回すことになるんじゃぞ!!」


「黙ってろクソじじい」


 モドリーヌの体を倒して背中に足を乗せたのは、顔に傷のある大柄な男。おそらく盗賊団のリーダーは彼だろう。

 てっきり、貴族や金持ちが嫌いな盗賊団なので、すぐモドリーヌを殺すものだと思っていたが、意外にも別の目的があるらしい。リーダーは忙しなく辺りを見回しており、チラチラと手もとの腕輪を気にしていた。


「……連絡用の法具だな」


「あんた、いい眼してるじゃない。そうよ、仲間と連絡をとる法具。さっきあたしが倒した奴らも同じのをつけていたわ」


「自由に動き回ってる人間がいること、もうバレてるんじゃないか?」


「そうね、もうバレてると思う。でもいいの、これからあたしがあの男を倒すから」


「……ちなみに聞くけど、あの男に勝てる策でもあるのかい?」


「期待してもらってるとこ悪いけど、あいにくと無策・・よ!」


 どやぁ。

 ……残念ながらベルティスは、この状況でツッコめるほど空気が読める人間ではない。むしろ頭が痛くて額を押さえてしまう。


 ──考えるより先に体が動いてしまうタイプか。


 何もできず震えているよりかはマシかもしれないが、状況を打開できるとは思えない無謀ぶりだ。このまま彼女は、無策であのリーダーに勝負を挑むだろう。


「……分かった。僕は、君が()()()()()()()()()()から、行っておいで」


「あんたホントに何もしないの? まあいいけど、あたしだって弱い男に邪魔されたくないし」


 付与冰術を付加エンチャント

 対象はレベッカ、効果は攻撃力大幅向上、持続時間は三分。

 ──付加完了。


「ごめんね、弱い男で。僕も一応武術は嗜んでるんだけど、腰が引けちゃってさ」


 小さく笑いながらレベッカを送り出す。

 レベッカはやや呆れた顔のまま貨物の物陰から飛び出し、盗賊団二人の眼前にその身を晒した。


「誰だおまえは」


「今すぐその人を解放しなさい、この悪党ども!」


 本当に声を挙げて真正面から突っ込んでいった……。真っ先に反応したのは、モドリーヌを押さえているひょろっとした男。


「どうします、リーダー。相手は女一人ですぜ、なんならオレがこの女を……」


「待て。──職員共はナイフ見せただけで震えあがるし、金持ちはみーんな自分の命惜しさに金品を投げて寄越すし、正直上手く行き過ぎて面白味がねぇと思ってたところだ。いいねェ、威勢のいい女は嫌いじゃねェ。女、名前は!」


「あたしの名前はレベッカよ。あなたたちの思いはよーく分かるわ! あたしだって、金持ちの男から金品を盗んで豪遊したいと思ったことは、十回もニ十回でもあるものよ!!」


「この女バカなのですかい?」


「黙って聞け」


「は、はいぃ!!」


「でも盗みはいけないことよ。お父さんお母さんから教わらなかったのかしら、泥棒したら首をちょん切られるって。……命を大事になさい!」


「……やっぱりこの女ってバカ──あぁあすいやせん!」


 茶々を入れる男を、リーダーが一睨みで黙らせる。

 意外にもこの口撃にリーダーは感じ入るものがあるようだ。よもや感動の幕引きで事態が収拾するかと思われたまさにそのとき、ついにリーダーが動きをみせた。


「おまえら、逃げる準備をしておけ。外でのびてる仲間も叩き起こせ」


「り、リーダー!? 逃げるんですか!? ま、まだモドリーヌから【竜の鱗】も取り返してないんですよ!?」


「ハズレだ、この昇降盤に竜の鱗は積まれていない、俺達は襲撃する日を間違えたんだ!」


「まさか!?」


「分かったらさっさと行け! この女…………ものすごく強いぞ。俺一人で止めてみせるから、おまえらは竜に乗れ!!」


「は、はい!!」


 連絡用の法具を手下に投げ、自身は一歩ずつ前へ進み出るリーダー。

 レベッカも不敵な笑みで応じる。


「一目見てあたしの実力を見破ってくるとは、中々のものね。悪党なのに気に入ったわ、あなた名前は?」


「ヤヴェール。俺が盗賊団のボスだ」


「覚えておくわ。……これから捕まえる悪党の名前をね!」


「言ってくれるなァ女!!」


 その瞬間から、男と女の壮絶な格闘技が繰り広げられた。

 付与冰術のかかったレベッカが強いのはもちろんだが、対応するヤヴェールの強さもなかなかのものだ。彼はスキル『身体強化』で鋼の体を作ることに成功している。


 ──それより、盗賊団が狙っている竜の鱗か……。


 今回、ベルティスに与えられている仕事は二つだ。

 一つ、モドリーヌが密接な関係を持っている竜の密売組織を壊滅させること。そのさい、必ずモドリーヌを重要参考人として皇国に連れていける証拠を揃えておくこと。

 二つ目、モドリーヌがコレクションにしている竜の品を差し押さえること。


 盗賊団が狙っている竜の鱗も、差し押さえなければならない竜の品の一つだろう。


 ──盗賊団を泳がせておけば竜の品を見つけられる……?


 エクスタリア王国に来た第二の理由はビーチェを探すことなので、ベルティスもこちらの仕事ばかり時間をかけていられない。彼らが竜の品を見つけ、さらにモドリーヌを連行するための証拠か何かを掴んでくれれば、こちらとて楽ができる。


「……まぁ、ものは試しだ」


 モドリーヌに張り付いておけばヤヴェール盗賊団と再会する可能性がある。

 いま行動を起こす必要はない。

 

 ──と。


「あんた、なかなかやるわね」


「そっちこそ」


 自分達の世界にどっぷり浸っていたヤヴェールとレベッカは、そのとき、互いの武闘を称えるような笑みをみせていた。


 ──レベッカ楽しんでるな……。


「楽しい時間はもう終わりだ」


「あら、そうなの? それは残念」


「ああ。なぜなら、──俺も逃げるからだ」


「……!? しまった!」


 突如、二人の視界を奪う白い煙幕が発生した。もうもうと立ち込める煙に、思わずむせ込むレベッカ。そのあいだにヤヴェールは大型搬入口を開け、外へ飛び出す。


 煙幕が搬入口の外へ流れ出たときには、すでにヤヴェールの姿がなかった。

 

「あぁあ逃げられたぁああ!」

 

 レベッカは、搬入口の淵から昇降路シャフトの闇を見おろしていた。







 

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