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Episode042 《壁面調査》 黄金喰らいの王、回収


 冰結宮殿、702階層。

 シャフト内高さ三百メートル付近にて、五十匹の《働き蜂エールズ》を従えた女王と、《竜卿公爵家グリ》率いる竜騎士十四名がしのぎを削っている。

 一個体あたりBランク相当のエールズ達が連携し、女王を守る壁の役割をしている。竜を女王に近づけられず、これといった有効打がないまま膠着状態が続いていた。

 

「まさか、後ろのルチエールが成虫になるまで仕掛けてこない気か」


 三千六百匹はすでに討伐済みだが、残り四百匹ほどのルチエールが壁面に張り付いている状態。蛹化が進行しており、いつ殻を破って成虫になってもおかしくない。

 

「危険なのは覚悟の上だ。援護してくれ、俺が乗り込む」


 精悍な顔つきをこの上なく険しくした竜卿公爵家グリが、手下の竜騎士に指示を飛ばした。応えた四頭の飛竜が一直線にエールズ達に突っ込み──直後、二手に分かれた。エールズ達は近くにいた飛竜に視線と毒針を発射し、絶対に「壁」を崩そうとしない。


 そのときを狙い、真下から急上昇してきた二頭の竜が攻撃を仕掛ける。背に乗った竜騎士は各々に炎と氷の冰術を発射すると、エールズ達は寄り集まって女王の足元に「壁」を作った。

 

「今だ!」


 誰かの掛け声とともに、女王を取り囲む四頭の竜から分厚い矢が発射。女王とエールズの意識が、少しばかり真上・・から逸れたところを見計らって。


 女王の頭頂部めがけて、巨大な剣が振り下ろされた。


『ぐ、ギャァ?』


 なぜ、いつ、どこから?

 そんな疑問を持ちながら、女王は自らの体が真っ二つに切断されているのを見た。


「──両手剣武装奥義……《狩人の薪割り(サルベット・アイゼン)》」


 巨大な人間が、まるで大きな薪を割るように。

 見事なまでの一刀両断技。

 これが、精霊竜の牙より作り上げられた剣による、竜卿公爵家グリの単発奥義である。


「放火せよ!!」


 直後、女王、エールズ、ルチエールに浴びせられる大量の炎。これでルチエールの掃討は完了だ。あとは現状被害を確認し、壁面補修にあたれば……──

 その瞬間グリは、真下からの襲来を悟った。


「なにかくる?」


 あれは、なんだろう。照明灯ライトが必死にその姿を捉えようとしているが、照らされた範囲内にソレが入ってくれない。まるで光を恐れているように、ライトをかいくぐっている。


 ──…………人か……?


 驚くべきことに、そのコンマ三秒後には昇降路内で爆音が響いていた。壁面に巨大なハンマーが打ち込まれたような衝撃が拡散し、それがあと三回も繰り返される。ようやく事態の展開に追いついたライトが、その原因と思わしきものを捉えた。


「二人……いるのか?」


 だがしかし、姿が消えてしまう。

 上にいったのか? だとすれば、こちらにも姿が見えるはずだ。近くを通れば気配で分かる。下だ。彼らは下に降りたのだ。


 ──……今のはなんだったのだ。


 最初に登って来た人間も気になるが、その人間を壁に打ち付けた人物も気になる。

 片方の人間の髪色が白色・・に見えたのは、こちらの気のせいだろうか?



 ◇



 浮遊冰術で飛行を続け、ようやくベルティスはラミアナに追いつくことができた。


「捕まえた」

 

 ラミアナの後ろ首を掴み、昇降路の壁面に叩き付ける。

 ハンマーで叩いたような重低音の衝撃。それでも暴れようともがいたので、一度離してから壁に頭を殴りつける。

 場所が場所なのでベルティスは手加減している、この程度のお仕置きでは相手も気絶しない。


 それよりも、上空の竜卿公爵家がこちらの存在に気付いている。照明灯が忙しくなく動いているのは、自分たちを照らそうとしているから。移動しなければラミアナの存在が露見するだろう。


 四皇帝魔獣が蘇ったなどという情報を公にはできない。これはローレンティアも然りだ。


「ぐぅ、ぐぅ……!!」


「暴れると痛くするよ。いま首輪をつけるから、大人しく……──」


 ガブっ、と腕に噛みついてくる。人の姿をとっているとはいえ、やつの牙には神経毒がある。防御のため腕に意識を向けたとたん、するりとラミアナに脱出された。


 逃げる気だ。よほど首輪が嫌だとみえる。


 昇降路では公爵家の目があるため、派手な冰術は使えない。ならば外に出てもらおう。幸いにも、702階層はほとんどが自然で、人目が少ない。戦闘になったとしても、冰術の自主練習だといえば誤魔化しが利く。

 

 誘導によって、換気口から外に飛び出すラミアナ。

 702階層の森林を眼下にして、再びラミアナの後ろ襟を掴まえたベルティスは、数十メートル下の地面に向かって叩きつけた。衝撃で木がひしゃげ、地面がことごとく割れる。背中から地面に激突したので、少女の骨は数本折れたはずだ。なのにすぐ立ち上がって逃げようとするのは、どういうことなのだろう。


「まだ逃げるんだ……」


 直後、木々が凍り始めた。ベルティスを中心にして大寒波が発生し、同心円状に拡散。凍える冷気が、這うようにラミアナを追いかける。

 凍結する世界──

 ラミアナもようやく動きを止めた。腰からへそにかけて下半身が凍り、彼女の逃亡を阻止している。

 口から流れ出た血が、とめどなくシャツを汚す。もがこうとすればするほど氷が肌を傷つけ、出血を促す。


 しかし少女は、逃亡を諦めていなかった。


「無理に動くと下半身と上半身がさよならする。痛いのが好きなら構わないけどね」


 黄金喰らいの王、ラミアナ。

 見た目年齢は15か16。金髪のショートヘアーの少女。

 花畑で花の冠を作っていそうな儚げな雰囲気があるが、凶暴な顔つきと殺気で台無しだ。

 

「ぐぅるる……」


 ──人の言葉を話さない? これも一度死んでる影響か……。


 とりあえず、彼女の首に封印の冰術をつける。いつ暴走して本来の『狼』の姿になるか分かったものじゃない。


「ラミアナの回収は完了。……問題は山積みかな」


 セシリアに剣を教えさせようと思ったらこれだ。

 まずラミアナには、誰が主人なのか骨の髄まで叩き込み直す必要がある。

 話はそれからだ。

 



  ◇




 事件を起こした犯人の自白により、今回のルチエール事件は収束した。犯人はベルティスの予想通りエブゼーン。自白に追い詰められた理由は、糸にぐるぐる巻きにされて昇降路に投げ捨てられたからだという。知らない女に投げ捨てられたと喚いたらしいが、その女の名前も顔も覚えていないらしい。

 結局、冰石を呑み込んだことによる幻覚症状として場は流れた。


 そしていま、ベルティスはレスミーと別件で話をしていた。


《聖霊剣舞祭》の優勝賞品だった四皇帝魔獣の結晶石を、元老院ではなくベルティスが一人で管理する。不安要素は《魔貴公爵家》と《竜卿公爵家》に無理だと言われることだったが、これは壁面調査での活躍によって、納得させることができた。


「そんなに研究者としての血が騒ぐのですか?」


 おかげで、レスミーには呆れた顔をされている。

 いくらなんでも一人で結晶石を管理するのは危険だと言いたかったのだろう。そこは曖昧に笑って誤魔化しておいた。


「おまえだからこんなことが言えるのですよ。いくら研究者として魔獣の生態観察がしたくとも、くれぐれも妙な真似を起こさないようにしなさい。いつでも見てますよ。分かりましたか、ベルティス」


「……。了解です、レスミーさん」


 まったくもってこの女性、油断も隙もあったものじゃない。

 気高い美人公爵を見つめながら、ベルティスはひっそりと息を吐いていた。









 余談だが、ラミアナの壊した屋敷の屋根は、その現場に居合わせながら脱走を止められなかったフルーラに責任をとらせた。(主にローレンティアが仕向けたらしい)

 フルーラは文句を言いながら屋根の修理をしてくれたが、その有様がまぁヒドイこと。最初から職人に金を出しておけばよかった。

 そういう感じで、さっそくプロの職人に修理をお願いした。ローレンティア曰く「フルーラ様が是が非でも修理代を出したいと仰って聞かないので、ここは好意に甘えさせてもらいました」ので、フルーラが出してくれたそうだ。どうやら、半年以上前にプレゼントした「ロイヤルチップ一万枚」のなかから出してくれたらしい。


 

  




小話を一話挟んで第三部終了です。

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