表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/95

Episode029 元老院での決定



 冰結宮殿、フィネアネス皇国領。

 世界の政を司る機関・元老院が本部を置く《ラペンツェーの祭儀場》にて。


「まことに遺憾である」

 

 重々しく声を絞り出したのは、青い覆面男。

 元老院最高責任者の一人、ジースリクト・バウア・ルークス。三大公爵家の一つ《魔貴公爵家ルークス》出身の出で、御年64歳の年長者である。


「四皇帝魔獣《黄金喰らいの王》は、千年前……かの大賢者によってエクスタリア王国領内、430階層の遺跡奥深くに封印されたはずである。しかし真実は違った。黄金喰らいの王はそこに存在せず、実際には612階層の《旧ディドルト古墳群》に存在していたのだ」


 これに対し、うむ、と頷いたのは緑色の覆面男。

 三大公爵家の一つ《竜卿公爵家リースフリート》出身の、グリ・アル・リースフリート。おそらく一番の若年者だ。


「《騎士公爵家》のディアノゴスが、《冰魔の剣姫》と呼ばれるエルフ族の娘に封印を解かせたという。これは前代未聞の大事件だ」


「アレはディアノゴスが勝手にやったことですわ。さらにいえば、ヤツはエルリアの手によって殺処分されています。我々の手で心臓もくり抜きました」


 答えたのは、赤い覆面の淑女。最後の三大公爵《騎士公爵家エンベルト》であるレスミー・リリア・エンベルトだ。


「三か月まえ《聖剣闘技会ラステナフラス》の優勝賞品となっていたあの結晶石こそが、ヤツの心の臓。なにも問題などございません」


 612階層から黄金喰らいの王(ラミアナ)の体を運び出し、冰魔の剣姫(エルリア)に殺させた。そのあと解体し、結晶石を取り出したのだ。

 《魔貴公爵家》《竜卿公爵家》はともに、四皇帝魔獣を外に出したことを良く思っていない。四皇帝魔獣は、かの大賢者すら苦戦させられた最強の魔獣だ。本当に殺処分できたのか、それを不安視している。


 ただでさえ、四皇帝魔獣の一角がこの世界に放たれて、行方不明になっているのだ。

黒血の狂戦士ローレンティア》は自ら封印を破り、どこかに身をひそめている。

 この情報が露出すれば、世界中がパニックになるだろう。


「結晶石の回収を求める」


「今さら優勝賞品を回収しろと!? ジースリクトよ、あなたは我が騎士公爵家に泥を塗るおつもりですか!?」


「よく調べもせず優勝賞品にしたのは騎士公爵家の責任。それに、優勝したのは貴族でもないエルフの娘だと耳にした。……回収した話を外部に漏らさなければ、泥を塗るようなことはあるまい」


 魔獣を解体する際、命を吹き返す原因にもなりかねない結晶石は、必ず鑑定士の目が通される。もちろん騎士公爵家は上級鑑定士を使って調べさせた。なのに四皇帝魔獣だと分からなかったのは、そのクラスの結晶石を鑑定したことがなかったからだ。


「……ムリだと言っておきますわ」


「なぜだ? エルフ族の娘一人などすぐに見つかるだろう?」


「その優勝したエルフの娘……名をセシリアと言いましてね。彼女の保護者である人間と、交渉して勝てる人間がエンベール家には存在しませんの」


 二つの公爵家が顔を見合わせる。


「誰だ?」


「ジースリクトであればご存じのはず。

 ────ベルティス・レオルト・エルマリアです」


「702階層の男か?」


「あの男ほど文武両道の人間は存在しないでしょう。騎士団長が自ら、是非騎士団にとスカウトした実力の持ち主ですわ。現在の肩書は、騎士団の特別顧問士官」


「特別顧問だと? 騎士団の人間でもないのにそのような役職が務まるわけなかろう」


「半年間だけ在籍経験がありましたわ。そのあいだに挙げた実績で特別顧問に任命されています。内容は、Sランク相当の魔獣を82匹、単独討伐に成功」


 ざわつく場。

 Sランク相当の魔獣といえば、一匹だけでも騎士数人がかりで討伐にあたらなければならない。とりわけ強い騎士でも、82匹もの魔獣を討伐しようと思えば数年かかるだろう。

 それを、たった半年?

 冗談にしては騎士公爵レスミーの顔が険しいものだ。


「彼は騎士団内部との付き合い方も非常に良く、話術にも長けておりましたわ」


「騎士公爵家にしては弱気な発言だな。だから回収できないだと? 馬鹿馬鹿しい、それを何とかしてみせて騎士公爵家だろう」


 確かに、弱気な発言だったとレスミーは感じ入る。けれど、それは本当のことなのだ。あの男に結晶石を返して欲しいと言うものならば、いったいどんな要求をされるだろうか?

 あの男と会話した者なら誰でも理解できるだろう。

 彼は、自分にとって有利な手を常に考えて行動できる男だ。ヤツの思惑通りにされず、かつこちらが損害を出さない程度で結晶石を取り戻すには……。


 ──エルリアはセシリアの姉だ。


 そうだ、なぜ忘れていたのだろう。

 騎士公爵家が雇い、将来の騎士団長にと有望視している《冰魔の剣姫》は、あの男が保護するエルフ少女の姉ではないか。幸い、彼は自分の奴隷をかなり大事にしている節がある。そこに付け込めば、簡単に結晶石が取り戻せるかもしれない。


「分かりましたわ、ジースリクト。エンベルト家は結晶石を取り戻すことに尽力致しましょう」


 手始めにエルリアを702階層に向かわせよう。





   ◇◇





「──と、いうわけですわ。行ってくれますね、エルリア」


 元老院で話された内容を、レスミーはエルリア本人に直接伝えていた。頭を垂れる銀髪エルフの少女は、自分の話す内容を真剣に聞いてくれている。

 彼女のステータスの高さを一番の理由に購入した奴隷だが、家の人間は誰も彼女を奴隷だと思っていない。エルリアは強く美しく、そして賢い。自分の意思をちゃんと持つエルフで、彼女の性格に好意を持つ人間はかなり多かった。


 レスミーもかなり気に入っている。


「どうしたの?」


 エルリアは、頭を垂れたまま動かなかった。


「この口実を使えば、私は何度でもセシリアに会いに行ける……それはとても嬉しいことでございます」


 例え姉妹とはいえ、エルリアは騎士公爵、セシリアはエルマリアという男に買われてしまっている。勝手にセシリアのもとへ会いに行くのは、エルリアの性格上できるものではなかった。

 そのため、今回の話は最愛の妹に会いに行ける絶好の口実ともいえる。


 ただ。


「レスミー様は……その、エルマリアという男と私が会ったとき、……その男と決闘したいと言ったら、許可をくださいますか?」


「け、決闘? あなたはエルマリアと決闘がしたいの?」


「……完全な私情でございます、レスミー様。私は妹と引きはがされたと悟った瞬間、ひどく悲しい思いがいたしました。それと同時に、強い憤りを覚えました」


「もしかして、メイドの噂を気にして……?」


「完全な私情でございます。しかし、私はレスミー様に雇われた身です。許可が下りなければ、そんなこと致しません」


 しばらくレスミーは考えていた。

 

「……結晶石を取り戻してから、なら許可しますね」


「ありがとうございます」


 決闘で癇癪を起すような男ではないことは分かっているが、それでも念のためだ。

 

「このエルリア、レスミー様のために、結晶石を取り戻してきます」


「ありがとうエルリア。詳しい方法は後で伝えるわ」 

 


 

 

特別顧問士官(非常勤)なのでベルティスはほとんど働いてません笑

ただたくさん来るスカウトを、この肩書で黙殺できるからそのままにしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ