表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/95

Episode010 ご褒美とヤキモチ



 セシリアの試練が終わった。

 そこで調達したラフマニノフのツノは、鍛冶屋に持っていって加工してもらった。お金はたくさんあったので、売ることはしない。

 鍛冶屋に持っていった理由は、ツノの効果を保持しながらパウダー状に磨り潰してもらうため。

 ただ砕くだけならベルティスでも簡単だが、ラフマニノフほどの大物となると失敗はしたくない。ここはちゃんとプロに任せる。大賢者でも他人の力は借りるものだ。


 数日後、ラフマニノフの粉が完成した。

 

 セシリアに与えた白い普通の剣に、これと冰術を練り込む。あの白い剣は本当にただの剣で、ただ装飾が美しいだけの代物なのだが、セシリアは初めて貰ったプレゼントということで違う剣を嫌がった。

 

 なので、白い普通の剣を冰剣にすることにした。

 ラフマニノフの粉を冰術と一緒に剣に練り込む。いわゆる『付与エンチャント』というやつだ。

 冰剣を作るのは初めてだったが、セシリアのためだから失敗はできない。


 慎重に、彼女の力量と剣の耐久性能を考えて冰術を練ること、わずか十分足らずで完成した。

 さっそく『魔眼』で鑑定してみる。



《──開眼──》


 名称・ツヴァリスの冰剣

 耐久数値 15万3800

 攻撃力  A⁺

 重さ   D⁻

 スキル  武装効果向上

      斬鉄

     『大賢者の祝福付与』

       即死攻撃無効

       大賢者との念話可


《──閉眼──》

 

 

 最初、セシリアに冰剣は早いと思っていた。

 しかしセシリアは『武装』を使ってラフマニノフを倒したのだ。

 武装とは、自分以外のものに冰力を与えてその武器の性能を限界突破させること。今回の場合は剣士の常態スキルである。もちろん固有スキルではないので、この半年間の頑張りでいつのまにか会得していたことになる。

 

 教えていない。


 セシリアはあの土壇場でスキルを発動させ、見事にラフマニノフを倒したのだ。


 今日はそのツヴァリスと、たくさんのお土産を持ってセシリアの部屋の前で待機。お土産はセシリアが好きな甘い物を、ベルティスが懸命に考えて調達した。 

 朝早くから並ばないと手に入れられない絶品シュークリーム。可愛い飾り付けが施されたケーキ。さらに菓子パンや飴玉などなと。

 とにかくセシリアが喜びそうなものを袋につめて、ベルティスはセシリアが部屋から出てくるのを待っている。しかも朝から。


「マスター……いくらセシリアが可愛いからといって、甘いものをあげすぎるのは栄養が偏ってよくありません」


 忠犬のごとくセシリアが部屋から出てくるまで待っているベルティスに、ローレンティアがあきれ顔を寄越す。


「いつも料理を作っているわたくしのことも考えていただかないと」


「たまにくらい大丈夫だよ。それにセシリアがものを食べるときの顔は格別に可愛いんだ」


 思い出しただけでも頬の筋肉が緩む。

 しかしこの家の家事担当であるローレンティアは、お気に召さない様子である。


「たまにはわたくしのことも可愛がってくださいませ。あなたときたら、最近セシリアにべったりではありませんか」


「分かった。また日と時間を空けておくよ」


「明日はダメなんですか?」


「明日は一日中セシリアの稽古を付き合う」


「その次の日は?」


「セシリアの稽古を付き合ってから読書をする」


「そのまた次の日は?」


「セシリアと打ち合いをする。そして冰術の研究をする」


「空ける気あります?」


「……。うん……」


 ローレンティアの機嫌がどんどん悪くなっていく……。

 あまりやらかすと、しまいには家を破壊してしまう。彼女の怪力は山一個吹っ飛ばすものなので、ベルティスの小さな屋敷など塵になってしまうだろう。


 セシリアを大事にしていきたい、最強にしたい気持ちはベルティスのなかでとても大きい。

 けれど、ローレンティアは前世からの長い付き合いだ。

 この屋敷で暮らし始めてからも、彼女にはいろいろな迷惑をかけている。

 

「しかたない。これから出かけよう、ローレンティア」


「ほんとですか!?」


 大人びた女性だが、笑顔はとても可愛らしい。

 セシリアには置手紙だけ書き残し、さっそくベルティスはローレンティアと出かけることにした。ただし、ローレンティアが行くところといえば決まって指定危険エリアだ。それも、超高難度で皇国からの特別許可証が必要な場所。

 賢者とは名乗っていないとはいえ、ベルティスはそれなりに顔が広い。一時期騎士団に所属していたこともあり、その実力はその高難度エリアの許可証でもって証明している。


 宮殿、390階層。

 宮殿の指定危険エリアは、下層に行けば行くほど魔獣との遭遇率が上昇する。たいてい、魔獣には二種類いて、塔の外から塔内に侵入してくるタイプと、塔の中で勝手に生まれてくるタイプだ。

 390階層は塔内で自然繁殖するタイプ。

 ベルティスやローレンティアからすれば大したことはない。塔内共通の冒険者ランクで示せば、確かAランク程度だっただろうか……。四皇帝魔獣以上のクラスしか興味ないので覚えていない。


 ともかくそこでは、ローレンティアがとにかく活き活きと魔獣と佪獣を屠った。満面笑顔だった。今まで自分がセシリアに付きっ切りだったのを、そんなにヤキモキしていたのだろうか。彼女のストレス発散のために屠られてく魔獣たちが、むしろ可哀想に思えたくらいである。


 余談だが、四皇帝魔獣の一人であるローレンティアは、同族である魔獣を屠ることも厭わない。彼女もベルティスと同じ快楽至上主義者だ。同族でも弱い魔獣には興味がないのだという。


 今日一日で、セシリアを購入した金額の十分の一を稼いで、ベルティスは家に帰還。

 セシリアが、ふくれっ面でナイフとフォークを持って玄関で待っていた。聞けばお腹が空いたのだという。そういえば置手紙は置いていたが、朝食は用意していなかった。

 だからとりあえず抱きしめておいた。

 そのあと、ヤキモチをやいたローレンティアに抱きしめられた。

 

 ……そんなヤキモチを妬くほどのことだろうか。


 というか、彼女は胸が大きいので抱きしめられると非常に苦しいのだが……。

 

 

いいね、ブクマ、お星様での応援ありがとうございます。

よろしければ、下記のお星様で応援していただければ嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ