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【完結】失われた都市ジャンタール ―出口のない街―  作者: ウツロ
五章 揃い始めたパズルの欠片
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91話 消えたセオドア

 牢屋の横を抜けると、広間に出た。

 アッシュの言葉どおり、たくさんのテーブルとイスが並んでいる。

 多くの者がイスに腰かけ食事をとっていた。なかには座りきれず、床に座って食べる者さえいた。


「あれ? なんか……」

「そうね」

「ああ、様子が変だ」


 アッシュ、リン、フェルパが口をそろえて言う。

 彼らが言うように、たしかに違和感があった。

 抑圧された者、特有の雰囲気がないのだ。


 食事をとる者の中には剣を帯びている者もいる。

 戦いを諦めた者には到底見えない。


「おい、セオドアはどこだ?」


 その中の一人にフェルパが語りかけた。


「セオドア? ここにゃあ、もういねーよ」


 十代後半ぐらいの男はぶっきらぼうにそう返事をすると、また食事に戻った。

 食べるジャマをするなと言わんばかりだ。


 いない? 

 いまの口調だと、ただの留守ってわけではなさそうだ。

 まさか、ここを引き払ったのか?


「いないって、どこへ?」


 それでもフェルパは男に問いかける。

 肩を掴んでムリヤリこちらを向かせようとする。


「うるせえな、俺だってわかんねえよ。ここを管理してる仲間もろともいなくなったんだとよ。だから、いまは自由にメシが食える。ジャマするんじゃねえ」


 男はフェルパの手を払いのけると、また食べ始めた。

 あっけにとられるフェルパ。

 われらも互いに顔を見合わす。


 どういうことだ?

 私に狙われると予想して早めに逃げた?


 いや、そこまでするものなのか?

 タダで食料を得られ箱など、金のなる木だ。

 おいそれと手放すはずがない。


 たしかに金で命は買えないが、そもそも私にチョッカイを出さなければ済む話だ。

 それか他に理由があるのか?

 金より立場より優先すべきなにかが。




――――――




「まさかアジトまで畳んじまうとはなぁ」


 フェルパの言葉に頷く。

 あの後『PRISON』だけでなく、街の目ぼしい所も捜索した。

 だが、セオドアは、その姿はおろか、持ち物さえ残していなかった。


 アジトにいない、それは予想していた。

 しかし、こうも痕跡を消していくとは。


 話を聞いて回ったところ、アジトを引き払ったのは少し前。

 つまり引き払ったのち、地下五階で私を待ちかまえていたわけだ。


 なんのためにそんなことを?

 それでどんなメリットが?


 もうセオドアから何かを聞きだすのは難しいだろう。

 しばらく姿を見せそうにない。


 これでゴブリンの王国へは、ゴブリンだけでなくヤツを気にしつつ向かわねばならなくなった。

 チッ、メンドウなことだ。


「なにがしたいのかしら?」


 リンの言うように、セオドアの意図が読めない。

 理解できない行動をとる者は一定数いるが、目的すら分からない者はそうはいない。


 セオドアは私をハメるためにゴブリンの王国へ誘い込もうとしている。

 その可能性はずっと考えていた。

 だが、それだけでは説明がつかない。


 私をゴブリンの王国へ行かせたければ、ただ身を隠せばいいだけだ。アジトを引き払う必要などない。

 アシューテを見つけること、セオドアを探すこと、私がどちらを優先するかは火を見るより明らかだろう。

 

「なんとも不気味だな」


 スッキリしないまま、この日は宿で休むこととなった。



 翌日、魔法屋へと向かう。

 壊れた杖の修理と魔法書の解読、手にいれた触媒の売却である。


「あら、いらっしゃい」


 ラノーラが迎えてくれた。

 挨拶もそこそこに、まずは壊れた杖を見せる。

 修理が可能であればいいが、ムリなら売るか捨てるかだ。


「へえ、珍しい。火炎の杖ね。どこでこれを?」

「ゴブリンから手にいれた。やつらの集落を襲ったときにな」


「集落?」


 ここでラノーラが聞き返してきた。集落の言葉に引っかかったようだ。

 地下四階までは集落など存在しえない。とうぜんの疑問と言える。


「地下五階だ」


 あえて短く答えるにとどめた。

 ラノーラが地下五階がどのようなものか知っていたか気になったからだ。


「地下五……」

「スゲーんだぜ、地下五階は広くってさ。空ってやつ? なんか明るい球が右から左へ流れてて」


 アッシュが割り込んできた。邪魔だな。

 そういやコイツ、ラノーラに気があったな。

 明らかに鼻の下を伸ばしている。まあいいさ、明日はどうなるかわからないんだ、いまを楽しむのもよい。


「そう、五階……もうそんなところまで」

「へへ、スゲーだろ」


 アッシュと話すラノーラをジッと観察する。

 どうやら地下五階が外のようになっていたのは知っていたらしい。

 彼女がそう言ったわけではないが、態度からそう感じた。


「それで修理は可能か?」


 ラノーラに問う。

 加工業の発達していないこの都市で、果たして直せるものなのだろうか。


「ええ、大丈夫よ。問題なくできるはず」


 そうか、それは助かる。

 せっかく手にした貴重な品を、私は一撃で壊してしまったからな。

 命の対価としてはべつに高いとも思っていないが、アッシュの悲しそうな目を見ると、どうしてもな。


「それで、金額と時間だが……」


 払える金額ならばいいが。


「ちょっと待ってて」


 ラノーラはそう言うと、杖を持ち部屋の奥へと消えていった。

 そして、すぐに帰ってくると「100ジェムよ」と告げた。


 100ジェム?

 想像したより安いな。

 これはありがたい。


「では修理をたのむ。それで、時間なんだが」

「すぐよ」


 私が100ジェム支払うと、ラノーラは再び奥へと消えていった。

 そして、その奥から、小さくチンと音が鳴る。


 あの音は、たしか……。


 すぐにラノーラが杖を持って現れた。

 受け取って確認したところ、亀裂はきれいさっぱりなくなっていた。


「早いな」

「ええ」


 そうか、箱だ。

 買取りどうよう、修理するための箱があるのだ。

 そこへ品物を入れ、表示された金額を投入する。

 すると、新品同様となって戻ってくるのだ。そういうカラクリだ。


「やった! これでまた活躍できる!!」


 アッシュは大喜びだ。

 活躍……、そうか、そういうことか。


「頼りにしてるぞ」


 アッシュの肩をポンと叩いた。

 ほんとうはそんなものなくったって十分活躍していると言いたいところだが、本人の納得の問題だ。

 それに、アッシュには現状で満足せず、もっともっと学んでほしいからな。


「アッシュ、魔法書を」

「あ、うん。そうだね」


 杖のつぎは魔法書だ。

 今回手にいれた書は二冊。

 はてさて、どんな魔法であろうか。


「……すごいわね。あれからそんなに経っていないのに、もう」

「へへへ」


 アッシュは鼻高々だ。

 下が伸びたり尖ったりとなかなかに忙しい。


 まあ、魔法書を持って帰ってこられたのはアッシュの働きが大きい。

 ゴブリンの集落で見つけたのもアッシュだったし、荷台を置いて逃げるときにすかさず持ち出したのも彼だ。


「じゃあ、中を確認するわね」

「うん!」

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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