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【完結】失われた都市ジャンタール ―出口のない街―  作者: ウツロ
五章 揃い始めたパズルの欠片
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87話 ゴブリンの大群

 ドドドという音が響く。

 ゴブリンの群れが押し合いへし合い、門へとなだれ込んでくるのだ。


 馬鹿な! ここまで接近されるまで気づかぬとは!!


「じゃあな、俺たちはフケさせてもらう」


 レオルはそう言うと、背を向け走りだしてしまった。

 その前方には、一足早く逃げ出しているセオドアの姿もある。


 チッ、わたしが振り向いたスキに逃げていたか。


「ちょ、すごい数!」

「アニキやべえ、はやく逃げないと!」

「建物のなかへ!」

「建物はだめだ! 追い詰められるだけだ! 俺たちもセオドアの後を追ったほうがいい」


 みな明らかに狼狽している。

 ムリもない。ゴブリンの数は数百、数千だ。

 つかまればまず助からない。


 逃げるべきだ。しかしフェルパの言うように建物の中に入るのは悪手だ。立てこもろうと飢えて死ぬだけ。

 とはいえ、セオドアの後を追うのも危険だ。

 どのようなワナを仕掛けているか分かったものではない。

 普通の追跡ならまだしも、追われていればワナの確認などしていられない。


「セオドアはどこに!?」

「おそらく地下四階の階段だ。ここからそう遠くない場所にある」


 聞いたのはリン、答えたのはフェルパだ。

 たしかに迷宮ならばゴブリンも一度に入ってこれない。

 道がいくつも分岐しているため追跡をかわせるだろう。

 いや、だからこそセオドアがワナを張っていそうなのだ。

 ウソつきの手を組みたいとの言葉を、なぜ信用できるというのか。


 それに……。


「アニキなにやってんの? はやく行こうよ!」


 焦る彼らを尻目に考える。

 どうにも違和感がぬぐえないのだ。


 あのゴブリンどもはどこから来た?

 ほんとうに廃坑から来たのか?

 なぜ私は気づけなかった?


 会話に夢中で見逃したとは思えない。

 それにセオドアたちの気配も察知しそこなった。どうにも納得がいかない。


 ゴブリンどもが迫ってくる。

 その姿は鮮明で、大地を揺さぶるような音も、激しさを増す一方である。

 だが、どうにも違和感を覚えるのだ。


 ……大地を揺さぶる。

 ――まてよ。


 そうか、振動だ!

 あれほどの数が大地を踏み鳴らせば、大地は揺れる。

 だが、その振動がまるで伝わってこないのだ。


 それにロバだ。

 廃坑では不安がる様子を見せていた。だが、いまはその様子がない。

 

 コイツは……。


 瞳を閉じる。目や耳でなく、肌と感覚に問いかける。

 本当にいるのか? そこにゴブリンは。

 わたしの肉体は死の危険を本当に感じ取っているのか?


 ふぅと一呼吸し、瞳を開いた。

 するとそこには、あれだけごった返していたゴブリンたちの姿も、やかましかった足音も、きれいさっぱりなくなっていた。


 幻、いや、魔法か?


「止まれ!」


 みなを呼びとめた。


「ええ? なんで!?」

「オイオイ、死ぬ気か?」


 どうやら幻が解けたのは私だけのようだ。

 みな、私の行動が信じられないといった様子で見てくる。


「落ち着け。魔法だ。ゴブリンなんかいない。いやしないんだ」


 幻はおそらく、セオドアが見せた魔法だ。

 みなの視線がレオルに集まったとき、ひそかに呪文を唱えていたんだ。


 あの魔法は幻だけじゃない、自身の姿も隠せるのだろう。

 だから違和感を覚えつつも、セオドアたちの姿を見つけられなかった。


「え、あれが魔法?」

「地面に触れてみろ、振動が伝わってこないハズだ」


 みずから地面に手を触れて、おかしな点を指摘する。


「ほんとだ」

「消えた……」


 納得した者から幻は消えていった。

 幻影魔法、それがセオドアの奥の手だったか。




――――――




「チクショー、あのヤロー」


 セオドアにはまんまと逃げられてしまった。

 やつとて口約束など信用していなかったのだ。


 ただ、あの瞬間、わたしがためらえばいい。

 自分を守るカードを一枚でも増やしたかったのだ。


「おかしいと思ったんだよ。あんなゴミがパリトと手を組もうだなんて」

「だな、セオドアと大将は水と油だ。とてもじゃないが混じるはずもない」


 シャナとフェルパから見て、私とセオドアは対極にあるようだ。

 見た目や行動ではなく、おそらく本質の話だろう。

 はたから見たらどちらもゴロツキであることに違いはない。


「アイツ根っからのウソつきね」

「アシューテさんがゴブリンのところにいるっていうのも、やっぱウソ?」


 どうだろうか?

 アシューテの件に関しては真実のような気もする。

 でなければ、わざわざ姿を見せて伝えた理由を説明できない。


「どう思う? 大将」


 フェルパの問いに、答えるのを一瞬だけためらった。

 なぜなら真実の可能性を告げれば、つぎの目的地が決まる。

 危険な戦いに、みなを巻き込むからだ。


 ――フ、いまさらだな。


「おそらく、事実だろう」


 ハッキリと答えた。行くべき道を私が迷ってはいけない。

 たとえエゴだろうと、ブレない道を示すのが私の役目だ。


「俺もそう思う」


 フェルパの見立ても同じか。

 たしかに真実味を感じるだけの何かがあった。

 とはいえ、真実だとして、なぜセオドアが私に伝えたのかという疑問が残る。


 セオドアにとってどのようなメリットがある?

 手を組みたいにしてはイタズラが過ぎる。反感を買うだけで逆効果のはず。

 ほんとうに何がしたいんだ?

 

「メンドウな相手だ」

「アンタもたいがいだけどな」


 おっと、フェルパのやつが急に刺してきた。

 さすがにあの男ほど、私はヒドくないと思うが。


「敵に好かれるよりはいいさ」

「フハ! 違いねえ」


 フェルパは心底おかしそうに笑っていた。

 しかし、フェルパ。お前だって似たようなものだがな。


「大将、ゴブリンの王国に向かうのか?」

「ああ、向かう。だが、いったん街へ戻る。休息と物資の補充は必要だ」


 アシューテが心配だが、それぐらいの猶予はあるだろう。

 なければ、どの道助かる命じゃない。


「そうか。だが、どちらにせよ水は汲んどかないとな」

「ああ、行こう」


 手持ちの水が完全に底をついた。

 今度こそ予定通り、給水ポイントへ向かうとするか。

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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