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70話 川沿いをくだる

 ゴブリンは蛇に襲われることもなく無事水汲みを終えた。

 岸まで出てまで襲わないのか、それとも運が良かっただけか、いずれにせよ蛇は姿を見せなかった。


 その後もゴブリンは毒見に見張りと問題なく任務をこなし、一定時間経過の後、土へと返った。

 やはり予想した通り、召喚は任務と時間いずれかを満たしたとき効果が切れる。

 よほどのことがない限り、任務を限定して召喚しないほうがいいだろう。


「ニューンて伸びてる」

「なんか背が高くなったみたい」


 いまは川に沿って南下しているところだ。もうすぐ太陽は西の地平線へと姿を隠そうとしている。

 その太陽が我らの影を長く伸ばしているのだ。

 アッシュもリンもその様子を不思議そうに眺めている。


「影だな。もうすぐ日没だ」


 我らにとっては当たり前の光景だが、ジャンタール生まれの彼らにとってはそうではない。

 むろん、光があれば影ができるのだから、影が伸びる現象じたいは彼らも知っている。

 それでもやっぱり、太陽が自身の影を長く伸ばす様は奇妙に見えるものだ。


「キラキラ輝いてきれい」

「あんまり見るなよ。目が焼ける」


 太陽に乱反射する水面も同じだ。沈む太陽に横から照らされ、さまざまな輝きを見せている。


「のんきなもんだな。ボヤッとしてると魔物に食べられちまうぞ」


 そんな彼らに水を差すのはフェルパだ。

 意外だな。コイツの性格ならむしろ乗ってきそうなのに。


「ちゃんと気をつけてるよ」

「ねえ」


 アッシュとリンはまともにとりあっていない。

 油断しすぎだ。だが、たまにはこんなのもいい。ずっと緊張続きでは糸がすり切れてしまう。

 とくにリンにはオーガのこともある。伸びた影に反応しなかっただけ逆に安心だ。

 油断の穴はわれら年長者が埋めればいいさ。

 大丈夫、いつも以上に私は神経を研ぎ澄まして周囲の警戒をしている。

 今は大丈夫。今はな。

 

「フェルパのことは気にするな。好奇心を失った時から老いが始まるんだ」

「いちばん年寄りのアンタに言われたくねえよ」


 わたしは三十を超えたばかりだ。フェルパはおそらく二十台後半。

 たしかに、もっともわたしが年長者だな。


「そういえば腰が痛くなってきたな。おんぶしてくれるか? フェルパ」

「いいぜ、途中で川に落としちまうかもだけどな」


 などと話していると、なにやら奇妙なものが見えてきた。

 木だ。周囲と比べても、ひときわ巨大な木があった。

 奇妙なのは生えている場所。

 沿って歩いてきた大きな川、ちょうど、その川をまたぐように生えているのだ。


 コイツは……。

 いくつもの木が混じりあっているのか?

 対岸から生えた木が川の上空でひとつにまとまり巨木と化していた。

 なぜ、あのような場所でそんな形をしているのかまるで分からない。


「おもしろい形。あれによじ登ったら向こう岸へ行けたりして」

「正解だ。あれが俺が言っていた橋だよ」


 橋? あれが橋か?

 たしかに向こう岸へ通じているが、とても渡れたもんじゃない。

 いや、幹になにか打ちつければ行けなくもないか。


「あれ? ちょっと待って。なんか動いてるよ」


 アッシュの言葉に目を凝らす。

 すると、木の表面がわずかに波打っているように見えた。

 なんだ? なにかがくっついているのか?


 あれはもしや……。


「精霊か?」


 フェルパに問う。


「そうだ。蛇に食われた精霊がいただろう。あれが何十万、何百万と集まって一本の木になってやがるのさ」




――――――




 木ではなく、あれがすべて精霊?

 ならば尋常じゃない数だ。数十万も数百万も、おおげさな表現ではない。


「あそこにゃ確かに橋があったんだ。だが、どういうわけか精霊どもが集まり始めてな。集まって集まって、気づいたら大きな木の形になっていたってわけだ」


 橋じたいはあったのか?

 木の根元を見る。

 埋もれてしまって見えずらいが、吊り橋の一部らしきものがわずかに見えた。

 どうやらフェルパはウソは言っていないようだ。


「なるほど、あれじゃあ渡れないな」

「そうだ。だから今は使えない」


 フェルパが言いそびれたのはこれだったのか。

 戦うなと言った理由も分かった。これだけの数を敵に回せばタダではすむまい。


「迂回するか」


 橋を渡るのは諦める。

 ずっと南に下って丘を越えよう。


「それがいい。だが大将、そろそろ野営の準備をしよう。暗闇で歩き回るのは自殺行為だ」


 そうだな。得体のしれないバケモノだけじゃなく、ひとつ間違えれば地形すらも命を奪う要因となる。


「少し戻ったところによさそうな場所があった。そこまで引きかえそう」


 あるていどスペースがあって地面が平ら。それでいて川に近すぎない場所ってのは案外難しい。

 生き物ってのは水に集まる。目立ちにくいように遮蔽物もほしいところだ。


「あいつらは?」


 アッシュが精霊の塊を指さし言った。


「ここまで距離があるから多分大丈夫だ。それに刺激しなきゃ襲ってこないはずだ」


 フェルパの言葉に一抹の不安を感じたが、ほかに選択肢はない。

 夜、ウロチョロするほうが何倍も危ない。

 敵は精霊だけではないのだから。

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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