表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/148

59話 フェルパのひととなり

「ゆっくりだ、ゆっくり」


 階段の下に立ち、誘導の声を上げるのはフェルパ。その声にあわせて握るロープを下へ下へと送っていく。

 今、我々がいるのは地下二階と三階をつなぐ階段だ。

 荷台に板を張り、ソリの要領で滑らせている。

 しかし、手を離すと、一気に下まで滑り落ちてしまう。だからこうしてロープでゆっくりと降ろしているわけだ。


「けっこう大変だね」

「階段の先が通路になっていれば楽なんだろうがな」


 通路ならば一気に滑り落ちても問題ない。

 荷台はそのまま進んでいき、どこかで止まる。

 しかし、この下は小部屋だ。壁に衝突すれば荷台がこわれてしまう。


「よ~し、もういいぞ」


 荷台はぶじ地下三階へと到着したようだ。

 ロープを巻き取りながら我らも向かう。


「バカ(じから)がいると楽だな。ふつうはもっと時間がかかるんだけどな」


 フェルパがなかなか失礼なことを言ってくる。

 雰囲気を明るくするための軽口なのか、それとも、もともとこんな性格か。

 いまひとつ掴みどころのない男ではある。


「バカは余計だ。つぎの階段はお前にやってもらう。初めて見る本気のフェルパを楽しみにしてるよ」

「おいおいおい、ウソだろ。つぎの階段は二個分じゃねえか。やっぱ最後ぐらいみんなでやろうぜ」


 つぎの下り階段は地下五階まで直通だ。そのぶん、長くなる。

 しかし、調子のよい男だなフェルパは。おまけに頭も切れる。

 (あん)に、お前はまだ戦いで本気を出していない、わかってるぞ、との牽制であったが、なにひとつ動揺を見せず軽口で返してきた。

 したたかだよ、まったく。


「ねえ、フェルパって騎士なんだよね。じゃあ、ヒラヒラがついたヨロイで馬に乗ってハイヤーって言ってたの?」


 アッシュの質問だ。なかなか面白い。

 アッシュの中の騎士は、白馬に乗ってお姫様を助けに行くような存在なんだろう。

 ここにいれば騎士なんて物語でしか見聞きできないからムリもない。


「ああ、ちゃんと馬に乗ってたぜ。ヒラヒラもついてないしハイヤーとも言わないけどな」

「ふ~ん」


 案外まともにフェルパは答えていた。にもかかわらず、アッシュは気のない返事だ。

 聞いておきながらこの態度! まあ、アッシュらしいといえばアッシュらしいが。


「まあ騎士っつってもいろいろだからな。うちのところはけっこうドロ臭い仕事が多かった。荒くれもののフリして潜入捜査とかな」

「え! なにそれ? 聞きたい」


 たしかにそれは興味ある。


「続きは今度にしてくれないかしら? はい、開いたわよ」


 そんな中、リンは淡々と仕事をこなしていた。

 吸盤を使って慣れた手つきで隠しトビラを開くと、壁際により足で押さえて荷台が通りやすくする。


「ほ~、そんなところに隠し扉があったとはなあ」


 フェルパは驚いくような素振りで言っていたが、どこまで本当やら。


「なあ、大将。地下四階には行かなくていいのか? そのアシューテってのが地下五階より先にいるとは限らないんだろう?」


 フェルパによると地下四階への階段は、入り組んだ通路をかなり南へ進んだ場所にあるらしい。


「いや、必要ない。こんな所をうろついているようでは、いまごろ干物になっているさ」


 街の物資なくして迷宮での生存は不可能だ。

 人は水や食料がないと生きていけない。

 生存の可能性があるとしたら、土があり空があり、死んだ生き物が消えない地下五階より先しかない。


「たしかにそうだな。つまらんことを言った。忘れてくれ」


 隠し扉を抜け通路を進んでいく。

 やがて、地下五階への長い下り階段へと辿り着いた。


「うわ~、オーガ思いだしちゃった。アニキに目つぶされて、ものすごい顔してあそこから手を伸ばしてたんだよなあ」

「そいつはざぞ恨まれてるだろうな。しかし、逆に考えれば俺たちゃ安全かもな。真っ先に狙われるのが大将ってことだから」


 フェルパおまえ……。

 まあ、私に狙いが絞られるなら、それはそれで戦いやすくていいがな。

 多少の不利なら私は跳ね返せる。狙われた誰かを守ろうと、動きが制限されるよりはるかに楽だ。


「いずれにせよ偵察してからだ。ゴブリンの数と家の数。どう考えても合っていない」


 私の言葉にみなうなずいた。

 前回、集落に来たとき出会ったのはゴブリンが五匹。うち四匹をしとめた。

 残すは一匹……とはならない。小屋の数が十個以上あったからだ。


 小屋に家族単位で住んでいると仮定すると、もっとゴブリンの数は多いはずだ。なにかしらの理由で大半が留守にしていたと考えるのが自然だろう。

 このことは、すでに皆に伝えている。だから、偵察は不可欠だ。

 問題はその偵察を誰がするかってことだ。


「フェルパ、頼めるか?」

「ええ!?」


 フェルパは、なにやら本気で驚いていた。

 そんな驚くような話ではないが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ