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58話 ふたたび迷宮へ

 ふたたび迷宮へと向かった。目指すはゴブリンの集落だ。

 ゴブリン召喚の魔法を習得したものの、触媒となるゴブリンの歯がない。

 その歯をいただいちまおうって寸法だ。


「しかし、オーガがいるんだろ? ちょい危険じゃねえか?」


 フェルパの言うように危険はある。

 あの巨人はなかなかにやっかいだ。一対一なら問題ないだろうが、コブリンと連携されると苦しいだろう。

 どう引き離すか考えどころだ。


「多少の危険は承知の上だ。あの集落はツブしておいたほうがいい。階段に近すぎる」


 前回見つけた階段が、地下五階への最短ルートだ。おそらく何度も使う。

 その近くにゴブリンの集落があるのはよろしくない。放置すれば、危険が増す。


「それに、わざわざ寝泊まりできるところを作ってくれたんだ。使わないのはもったいないだろう?」


 地下五階がそれほどまでに広いのならば、基地がいくつかあったほうがいい。

 その一つとして使わせてもらおうじゃないか。


「ヘッ、さすが大将。ちゃっかりしてやがる」



 通路を進んでいく。

 ロバの引く荷台は小型だが雨が凌げる幌がついており、強い日差しもさえぎれるようになっている。

 日差しってのは案外バカにならない。とくにジャンタールで生まれたリンとアッシュは日焼けに慣れていない。致命的となる可能性だってあるのだ。

 交代で休ませる必要もでてくるだろう。迷宮とはまた違った攻略法が求められそうだ。


「アニキ、けっこう買い込んだよね。こんなに使うの?」


 荷台に積む物資は、思いのほか多い。

 ピッケルにロープ、防寒具。迷宮では使わないものばかり増えた。

 これまでは道が平坦、気温が一定、ある意味戦いに集中できるようなつくりと言えよう。

 今後はより生存能力が試されるのかもしれない。


「さあな。だが、持っていく。使わずにすめば、それに越したことはないさ」


 今回、雑貨店で人数分の時計も買った。

 フェルパの言うように、地下五階がそれだけ広大ならば、別行動をとる場合もあるだろう。時刻を合わせられれば戦略の幅が広がる。


「しかし、大将。まさかロバの防具まで買うとはな。アンタ意外に過保護なんだな」


 フェルパが指摘するのは、ロバに装着された青白く輝くプレートだ。

 体の要所要所を守るように取り付けられている。

 材質は流体金属。我らが買ったヨロイと同等のものだ。そのぶん、かなり値は張った。

 おかげで、財布はすっからかんになってしまった。

 だが、後悔はしていない。ロバの代わりはいない。ジェムなんかいつでも稼げる。

 

「金で安全が買えるなら安いものさ」


 金の使い方としては悪くない。金はあくまで道具。目的を果たすために使うのが道理だ。

 そもそも、ジャンタールを出ればジェムなど使えなくなる。

 使い切ったところで、問題などない。


 ちなみに盾も買い足しておいた。前腕に装着する小型のものだが。

 あとは人数分のクロスボウも。離れた位置から一斉射撃すれば、それなりの被害を敵に与えられるだろう。


 ――おっと、おしゃべりはここまでのようだ。

 前方から歩いてくる集団が目に入った。


 筋骨隆々で、目には包帯。両手には巨大なハンマーを持っている。

 狂信者だな。数は五。

 こちらに向かって真っすぐ歩いてくる。


「インプよ!!」


 インプは彼らの目だ。全体を統率しつつ魔法を放ってくる。

 敵としてはやっかいな部類。だが、今の戦力を試すいい相手とも言える。


「……de……」

「放て!」


 呪文など唱えさせるか!

 さっそくクロスボウの出番がきた。インプ目がけて、みなで矢を放つ。


 三本が狂信者の体に遮られた。だが、一本がインプの伸ばした触手に突き刺さった。


「今だ! かかれ!」


 クロスボウを捨てて襲いかかる。

 矢で詠唱が中断されたいまがチャンスなのだ。


 私はヤリを、リンはショートソード、フェルパはレイピアをたずさえ距離をつめていく。


 最初に敵をとらえたのは私だった。

 ハンマーの間合いの外から狂信者の心臓を突いた。

 手ごたえあり。狂信者はゴボリと血を吐いて地面に崩れ落ちた。


 ヤリをひねるように引き抜き、今度はべつの狂信者へ。

 石突きで跳ね上げるように顎を打ち抜くと、狂信者は膝をつく。

 骨が砕けた感触が手に残った。


 次に敵と剣を交えたのはリンだった。

 ハンマーを振りかぶった狂信者の手首をスパリと半分切りさく。


 うまい!

 飛び込みながらの突きで、見事にとらえていた。


 フェルパがすぐそこまで来ている気配を感じた。ならばコイツはまかせよう。

 顎を打ち抜いた狂信者をかわし、インプのとりついた狂信者へと駆ける。


「deg arro――」


 させるか!

 渾身の力を込めたヤリの一撃は、狂信者の喉を貫き、その後ろへ隠れるインプの頭部を串刺しにした。


 終わりか。あっけなかったな。

 残る狂信者は三体。

 一体はリンが交戦中で、顎を砕いた狂信者をふくめた残りの二体はフェルパが相手取っていた。

 さて、お手並み拝見。


 リンはショートソードでうまく牽制すると、背後に回り腰に装着していたナイフで狂信者の首をスパリ。

 鮮やかな手腕だ。


 フェルパの方はというと、レイピアで相手の膝、肩、手と、攻撃の起点となる部分を素早く突いていた。

 いやらしい戦い方だな。

 しかし、強い。二対一でもつけ入るスキを与えていない。


 やがて、レイピアの一撃は心臓、ノドと致命傷となる部分へ移行し、狂信者はなすすべなく倒れていった。


「二人ともいい戦いだった」


 ねぎらいつつ戦利品を集める。

 リンの動きがこれまで以上に鋭かった。

 ヨロイを変えたおかげかもしれない。


「パリト。あなたもいつも以上に速かったわ。ぜんぜん追いつけないもの」


 たしかに体が軽かった。

 このヨロイは動きを阻害せず、それでいて驚くほど軽い。

 これまで鉄板入りのブーツだったこともあって、走る速度が増していると自分でも分かる。


「猛獣かよ」


 フェルパは苦笑いだ。だが、その目の奥は笑っておらず、警戒の色が濃い。

 コイツ、まだ余力を残してるな。

 戦いながらもこちらの動きを観察するような余裕が見られた。

 足が一番遅かったのも、たぶんワザとだ。

 我らがどう戦うか分析していた印象がある。


 周りの状況を見て不足を補うことに長けているのか、それとも、ただ観察していただけか。

 いずれにせよ、そうとう腕が立つのは間違いない。


「アニキ、すげーや!」


 そして、アッシュはいつも通りだ。

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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