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52話 隠し扉

 二階への階段を探し始める。

 扉をいくつか開き、右へ左へと通路を折れていく。

 いまのところ、一本道だ。魔物にも遭遇していない。


「ねえ、アニキ。あのまま戦ってたらアイツに勝てた?」


 ふいにアッシュがたずねてきた。


「アイツってのは巨人のことか?」

「うん、そう」


 巨人か。

 どうかな。勝てぬ相手ではなさそうだが、剣がもつかは怪しいところだ。

 あのあと確認したところ、剣は刃こぼれしていた。

 それほどまでに巨人の骨は固い。もちろん、皮膚、筋肉もそうとうなものだ。


「まさか本当にいるとはね……」


 そう言ったのはリンだ。

 彼女はうわさで聞いていたものの、信じていなかったらしい。


「大げさに言ってるのかと思ってたの。あれじゃあ迷宮の天井に頭つくじゃない」


 そこまでではないが。

 この迷宮の通路も部屋も、あの巨人以上に高い。

 だが、まあ確かに、扉も階段も通れないような大きさの魔物がいるとは想像しづらいものがあるからな。


「やっぱりアニキでも無理かな?」


 ん? 巨人に勝てるかって話か?

 アッシュのやつ、やけにこだわるな。


「わからんな。だが、ムリに戦う必要もないだろう。彼らはあそこで生活している。迷宮と違って迂回すればいい話だからな」


 せまい迷宮ならいざしらず、あんなだだっ広いところで危険をおかして突っ込む必要がどこにある。


「でもさ、迷宮で会ったらどうすんの?」

「もちろん、戦うさ」


 挨拶して通してくれるなら、それでいいんだがな。

 迂回できない、襲ってくるのならば、戦うより他はないだろう。


「私の目的は、知人を助け迷宮を抜けることだ。戦うために来たわけじゃない」


 邪魔になれば殺す。そこにためらいはない。

 だが、危険な敵に好き好んで挑むものか。


「でもさ……アニキ笑ってたよ。今回だけじゃなくて、戦いの時いつも嬉しそうにしてる」


 ……痛い所突いてくるなコイツ。

 自身の矛盾を自覚する私は、アッシュに何も言い返せなかった。



 長い通路は終わりを迎かえ、一つの扉へと辿り着いた。

 慎重に扉を開く。

 するとそこは正方形の部屋になっており、扉が三つ。そして……上へと向かう階段があった。


「ここは――うん、たぶん知っている場所」


 地図を見ながらリンが言った。

 どうやら、落とし穴に落ちる前、目指していた地下二階と三階をつなぐ階段がここのようだ。

 たしかに、座標から考えても一致する。


 だが、疑問がある。

 それなら、なぜリンは下へ向かう階段を見つけていなかったのだ?

 ここからそこまで、さほど離れていない。

 とうの昔に見つけてなければおかしいのではないか。


 その答えはすぐにでた。

 手で押さえていた扉を見ると、こちら側のドアノブがなかったからだ。


「ちょっと離してみて」


 私は一度閉じこめられた経験から、先のようすがある程度判明するまで扉を閉めぬよう心がけている。

 リンはそれを離せと言うのだ。


「いいのか?」


 リンに聞き返した。

 この扉は、たぶん引かねば開かない。

 向こうからは押して、こちらからは引く形だ。

 だから、手を離せばもう開けられない。ふたたびあの階段を使おうと思えば、別のルートを探すか、また落とし穴に落ちなければならないだろう。


「もちろん」


 しかし、リンはかまわないと言う。

 まあ、ずっとおさえているわけにもいかないしな。それに、なにかで閉まらぬよう挟んでおくこともできない。

 迷宮に置いたものは消える。それが、ここのルールなのだから。


 私が手を離すと、ドアはぴったりと閉まる。

 継ぎ目すら見えない。完全な壁だ。

 なるほどなあ、これでは見つけられないわけだ。


 念のため、扉があったであろう場所を押してみた。

 ビクともしない。やはり引かねば開かない扉だ。


「こういうときはね、これを使うの」


 そう言ってリンが取り出したのは、手のひらサイズの丸い何かだ。

 彼女はそれを壁に押しつける。

 すると、その何かは壁にペタリと張りつくのだった。


吸盤(きゅうばん)か!」

「正解!!」


 リンが吸盤を引く。

 すると、扉は簡単に開くのだった。



――――――



 街へと帰ってきた。

 あれからいくつか戦闘をしたが、なんの苦労もなく倒せていた。

 魔物が残したジェムも青色ばかりで、武器防具もない。

 帰りの儲けは、微々たるものだった。


 そろそろ武器防具を新調するべきだろうか?

 ジャンタールにあるものは総じて品質が高い。あの階段の先がなんであれ、稼いだジェムの使い時は今のような気がする。


 まずは武器屋へと向かう。

 店主と軽く挨拶を交わし、戦利品の武器防具を換金箱に放り込む。

 表示された金額は234ジェム。武器を持った魔物とあまり遭遇しなかったため、まあこんなもんだろう。


 だが今回の目玉はコイツだ。

 唯一分けておいた武器、ネルガルの鎌をロバの背荷物から取り出した。


「鑑定をたのむ」


 店主のいるカウンターへと置いた。

 値段も気になるが、どのような効果があるかまずは確かめたい。


「何だそいつは? ずいぶんとデカイな。それに、なんだって包帯なんか巻いてるんだ?」


 ネルガルの鎌は包帯でグルグル巻きにしてある。

 おかしな声が聞こえるため、おこなった処置だが、たしかに疑問を持って当たり前か。


「これはね、ネルガルの鎌よ」

「ネ……嘘だろ?」


 自慢げに横から口を挟むリンと、言葉を詰まらせる店主。

 それほどまでの存在か。まあ確かに尋常ではない強さだった。

 自分で言うのもなんだが、あれを倒せるものがそういるとは思えない。


「ネルガルかどうかは知らん。自分で名乗ったわけではないからな。だからこそ、鑑定をしてもらいたいのだ」


 名前はどうでもいい。知りたいのはこの鎌の価値だ。


「手にとっていいか?」


 店主は緊張した面持ちでたずねてくる。


「当たり前だ。そのために置いたんだ。だが、気をつけろ。そいつを握ると誰かの首を()ねたくて仕方がなくなる。強い気持ちを持ってから手にとってくれ」

「オイオイ、そんなもん渡そうとするな。俺を殺人鬼にするつもりか」


 店主は伸ばした手を、サッと引いた。


「大丈夫だ。殺人鬼になる前に死体になる。そこは安心してもらっていい」


 そう言って、私は剣の柄に手をかけた。


「オイ! ふざけんな!! そんなもん、とっとと換金箱に放り込んじまえ」


 ちょっとした冗談だったが、店主はそう思わなかったようだ。

 まあ、殺人鬼になる可能性があるのも、殺人鬼になる前に殺すつもりなのも事実ではあるのだが。


「では、鑑定はどうする?」

「ネルガルの鎌なんて見たってわからねえよ。倒した奴なんていないんだ」


 そうか。そうだったな。

 換金箱に表示した金額と武器の金額を照らし合わせて、秘められた力が分かるって話だった。

 ネルガルの鎌じたいの値段が分からなければ、秘められた力も分かりようがないのだ。


「金額を聞いたことは?」

「ないね」


 伝聞すらないか。なら仕方がないな。

 素直に換金箱に放り込むか。

 どのような力を持っているかだけでも知りたかったんだがな。


 ネルガルの鎌を換金箱に入れた。

 緊張の瞬間だ。青いボタンを押す。


「え?」

「うわ!」

「マジかよ……」


 みな驚いていた。

 それもそうだろう。表示された金額は42000ジェムだったのだから。

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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