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41話 袋小路

 バリバリバリ。


 金属を噛み砕く音が響く。とつじょ壁に出現した巨大な口が、私のナイフを食べているのだ。

 やがてそいつはゴクリと全部たいらげると、赤くぬらぬらした長い舌で口の周りをデロリと舐めた。

 私のナイフを絡め取ったのはコイツの舌だったか。


 ミシッと音がした。

 口のついた壁は体全体を小刻みに震わすと、ズズ、ズズと重そうな音を立ててこちらにせり出して来た。


 冗談だろ。

 口のついた壁は突進してくる。

 通路いっぱいだ。隙間などない。


「逃げるぞ、アッシュ!」

「逃げるったってどこへ!?」


 前方にはコボルドの群れ。

 背後には迫る壁だ。逃げ場などない。


「強行突破だ。コボルドどもを蹴散らして進む」

「うそ~」


 やらなきゃ死ぬ。つべこべ言ってないで走るんだ。

 スローイングナイフを投擲。立ちふさがるコボルドの喉をつらぬく。


「わわっ!」


 アッシュに飛びかかろうとしたコボルドを剣で斬る。

 胴体を二分した。


「止まるな! 道は私が切り開く」


 私が先頭。そのうしろをアッシュとロバがピタリとついてくる。

 なんとしてでも曲がり角まで辿り着かねばならない。


 つぎつぎと襲いかかってくるコボルドを足を止めずに斬っていく。

 こいつら正気か? 自分たちも壁にはさまれて死ぬぞ。


「うわ!」


 アッシュの足にコボルドが噛みつこうとした。

 しかし、寸前に投げた私のスローイングナイフが目に刺さる。

 それをアッシュがメイスでぶったたく。

 いいぞ。その調子だ。


 コボルドは私の足元も狙ってきた。

 残念、私のブーツは鉄板入りだ。そのままコボルドを蹴とばし走る。


 もう少しだ。

 もう少しで曲がり角へとたどりつく。


「ヒン!」


 ロバが声を上げた。

 振り返るとロバの足に、あの長い舌が巻き付いていた。

 クソ! やってくれる!!


 舌を伸ばしたまま壁は、ものすごい勢いで迫ってくる。

 足をつかまれたロバは身動きがとれず、その手綱を引くアッシュの足も止まる。


「ちょ、まっ――」

「まかせろ!」


 反転すると、二歩三歩と踏み込んで剣を振るう。

 壁から伸びる長い舌を切り飛ばした。


「走れ!」


 ふたたび走り出す。

 しかし、コボルドどもがアッシュの進路をふさぐ。


 スローイングナイフを投擲。

 一匹の胸をつらぬく。

 もう一丁! さらにナイフを投擲。アッシュの目前に迫っていたコボルドの眉間に命中した。

 

「アッシュ、右だ!」


 選択できる道は右か左。私は右へ曲がるように指示する。

 そちらは我らが通ってきた道だ。


「でもコボルドが!」


 コボルドは道をふさぐように待ちかまえている。

 その数は明らかに右のほうが多い。

 いかにもだな。左へ行けと誘導しているのだ。


「関係ない! 飛び込め!!」


 背後には壁がすぐそこまで迫っていた。

 悩んでいるヒマはないぞ!


 どけ! 犬ども!!

 剣を振るいながら右へと飛び込む。

 私のあとにアッシュとロバも続く。


 ずうううん。

 大きな音を響かせて壁と壁が衝突した。

 数匹のコボルドが間に挟まれ見えなくなった。


「ウォ~ン」


 コボルドの遠吠えがした。

 見れば通路の先の曲がり角、白いコボルドがこちらを見ていた。


 あのヤロウ。自分は安全な位置で指示をだしていやがったか。

 コボルドどもが引いていく。

 あの遠吠えは撤退の合図だったか。


「アッシュ。呆けているヒマはない。あとを追うぞ」


 壁にはさまれたコボルドはペチャンコだろうな。もう少しで自分たちもそうなるところだったとアッシュは身震いしているのだろう。

 だが、まだ終わっていないぞ。なぜコボルドどもが左に誘導しようとしたか考えろ。


「え? あの白いのを仕留めるの?」

「バカ、逃げるんだよ」


 ズズ、ズズ。

 動く壁はこちらに向きを変え始める。


「ゲゲ!」

「アッシュ。本気の鬼ごっこだ。つかまったら死ぬぞ」


 つぎの角まで、また走るのだった。



――――――



「あれ、なんだったの?」

「さあな」


 部屋へと逃げ込んだら、動く壁は追ってこれなかった。

 あのサイズじゃ扉はくぐれない。ひとまず安心といったところか。

 あいつは、おそらく壁の形をした魔物だろうな。ピッタリと通路を塞いでいたから行き止まりに見えたんだ。

 しかし、アッシュも知らない魔物か。私といると強い魔物が出てくる。その話に信憑性がでてしまった。

 

 私がなにか仕出(しで)かしてしまったのか?

 まったく、身に覚えがないが。

 まあいい。迷宮のご機嫌を取って探索などできない。どうせ我らは宝を盗もうとする侵入者でしかないのだから。


「アッシュ、迂回ルートを探していこう。あの場所に戻る道が必ずあるはずだ」

「わかった」


 こうして、地図をたよりに丁字路まで戻ってきた。床にはコボルドが残したジェムがいくつも転がっていた。


「ハンマーは、やはりないか」

「ないね」


 ジェムもいずれ消えるかもしれないが、少なくとも故意に置いたものより長い時間残されていそうだ。

 なんとも不思議な話だな。


「地図は合っていたか」

「ちゃんと扉がある」


 先ほど行き止まりだった場所には扉があった。

 やはり予想通り、壁に擬態した魔物がふさいでいたのだろう。


 そして、丁字路。

 逃げ込むのを避けた左の道。確認したところ行き止まりであった。


「あっぶなー」


 陰湿だな。白いコボルドはここに我らを追い込もうとしていたのか。

 まったく、やっかいなヤツに目をつけられたもんだ。


「なにか対策を考えないとな」

「対策なんてあんの?」


 アッシュの指摘に苦笑いがもれる。

 コボルドはどうにかなるかもしれんが、問題は壁の方だな。

 地図は狂うし、倒し方も不明。なんともやっかいな相手だ。


「まあ、なんとかなるさ」

「ほんとに?」


 だからこそ、正確な地図を描くことが大切だ。

 おかしなところがあれば、分かるようになる。


「今度こそ帰ろう。スローイングナイフがもうない」

「うん。さすがにもう疲れたよ」


 その後は大した敵に会わず、いくつかジェムを増やして出口へとたどり着いた。

 アッシュは疲労困憊といった様子。

 なんとか戦利品をジェムに換金、物資の補充までは付き合ってはいたものの、食事もとらずに彼は先に寝てしまった。


 よく頑張ったなアッシュ。

 いい働きだった。

 探索は困難を極めるが、よき仲間に出会えたことに感謝するのだった。



※壁の魔物。

 迷宮の掃除屋。普段は姿を見せない。

 ゴミを残し、壁にラクガキをしたから腹を立てたのかもしれない。

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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