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134話 老朽化と階段

 階段をのぼった先にあるのは無数の石階段だった。

 上って下ってまた上る。数段上って行き止まり。上り下りを繰り返し、べつの階段へとつながるなど、さながら迷路のようだった。


「なんだこりゃあ?」


 石の階段は床だけでなく壁や天井にもついていた。

 重力を無視した上ることのできない階段。それがまたこの部屋の異常さをかもしだしていた。


「どこいきゃいいんだ?」


 フェルパはしかめっ面だ。

 階段のいくつかは穴の中へと消えていた。その先はおそらく別の部屋。

 しかし、どの穴を選べばいいか分からない。


「とりあえずあれにするか」


 正面うえ、天井へ開いた穴を指さす。

 行ってみないと始まらない。とにかく行かねば。


「大将、あれっつったって、どう行きゃいいんだ?」


 そうなのだ。行く先を決めたはいいが、そこへつながる階段を探さなきゃならない。

 ムダに上り下りや分岐する階段を目で追っていくものの、途中で何がなにやら分からなくなる。


「わたしの魔法で飛ぶかい?」


 シャナがたずねてくる。

 浮遊の魔法か……。


「いや、やめておこう」


 シャナの魔法で運べるのは一人だけ。

 手間がかかりすぎるし、飛んでいる間は無防備になる。

 けっきょくルートを割り出し、ムダとも思える上り下りを繰り返して一つの穴に入っていくのだった。



――――――



「やっぱりそう来たか」


 穴へと続く階段を上った先に待っていたのは、また無数の階段だった。

 折り重なるように配置されている。


「部屋じゃねえな、こりゃあ」

「ああ」


 どうやら思い違いをしていたようだ。

 部屋に階段があるのではなく、無数の階段を組み合わせでできた建築物なのだ、ここは。

 上り階段、下り階段、平坦な道、それらのパーツを組み上げていく。その際、できた隙間が今いる場所だ。

 木工細工みたいなものか。


「なぜこんなことを?」

「さあな、建築家の遊び心ってやつかもな」


 建築家? 幼児の間違いではないのか?

 フェルパの答えに苦笑いで返すと、周囲を見渡す。

 やはり階段のいくつかはここから見えぬ奥へと続いており、そのうちのどれかを選ぶ必要があった。


「さて、次はどれを選ぶかだが……」

「とにかく上に行けばいいんじゃないの?」


 アッシュはなんとも軽いノリである。

 お気楽だな。だが、たしかにそうか。

 階段の目的は上の階と下の階をつなぐことだ。横へと続くのなら階段である必要はない。

 それに塔である以上、向かうべきは上だ。

 もし進んでいる階段が途中で途切れていたとしても、他の上へと続く階段に飛び移ればいいだけじゃないか、魔法で。

 シャナの魔法ではたしかに時間はかかるが、引き返すよりは、はるかにマシだ。


「いいだろう。ではアッシュ。どの階段がいい? お前が選べ」

「俺? う~ん、じゃあ、あれ」


 アッシュが指さしたのは一番奥の階段。

 壁伝いに大きく右へと曲がり、われらの頭上へとつながっていた。


「行くか」

「だな」


 また階段を上りはじめるのだった。

 そうして、上ることしばらく。景色が微妙に変わってきた。

 無数の階段で組み合わされた構造はおなじなれど、割れや欠けが目立つようになる。

 中には階段が途中で崩れてしまっており、強度を保つための鉄骨がむき出しになっているものさえある。


「なんかボロくなってきてない?」

「ああ、長い年月を経て風化してきている」


 素材のせいだろうか、下の階では見られなかった現象だ。

 それとも他になにか意味があるのか。


「コンクリートか」

「ああ」


 フェルパの指摘通りこの石階段はコンクリートだ。

 自然の石を切り出したのではなく、鉄骨の上に素材を流して固めたコンクリート。

 もとが液体のため造形がしやすい。


「コンクリート?」


 アッシュが何それといった表情で尋ねてくる。


「コンクリートっつーのはな……」

「待て。静かに!」


 フェルパの言葉を遮った。

 なにかいる。

 姿は見えぬが近くに気配を感じる。


 セオドアか?

 ――いや。


 不意になにかが宙に浮いた。

 それはわたしの背より少し短いぐらいの鉄の棒。

 先端は鋭利に削られており、さながらヤリのようだった。


 なんだ? あれは。

 金属製のヤリ。それはいい。

 問題はそのヤリがひとりでに浮いていることだ。


 ヤリはゆっくり回転すると、鋭利な先端をこちらに向ける。

 マズイ。


「回避!」


 わたしがそう叫ぶと同時に、ヤリがものすごい勢いで飛んできた。

 狙いはわたし。

 いつもながらクジ運がいい。


 まあ、この程度でどうなるものでもないがね。

 後ろにいる者のことを考え、盾で受けようとする。


 ――が、ここで驚いた。

 腕が動かない。強い力で誰かに押さえつけられているみたいだ。


 グ!

 腕に目を向けるもそこには何もない。

 つかむ者など存在しない。


「ガ!」


 そうしているうちにヤリが到達。

 わたしの左肩をえぐっていった。


「パリト!」

「大丈夫だ」


 なんとか身を捻ってかわせた。

 えぐられたのは流体金属のヨロイだけだ。


 しかし、誰だ。

 いったい誰がこのようなマネを。


 周囲に目を凝らす。

 すると、見えたのは地面に落ちるいくつもの鉄ヤリ。

 それは音もなく浮かび上がると、先端をこちらに向けるのだった。

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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