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127話 塔のひみつ

 ドンと爆発音がした。

 かまえた盾にバラバラと金属片が当たる。

 金属の巨人が落とした爆発物は、巨人自身をバラバラにしたのだ。


「トドメだ」


 もっとも大きな破片、半分ほどになってしまった巨人の上半身に渾身の一撃を振り下ろすのだった。



「まったく、全部一人でやりやがって」


 不満をこぼすのはフェルパだ。

 そう言われてもな。一気にしとめねば逆にこちらが危なかった。

 光の矢に爆発物、どれも一撃でわれらの命を刈り取る。


「ちゃんと助けが必要なときはお願いするさ。どうもこの塔にいる敵はこれまでと違うようだからな」


 わたし一人では対処できない。そうなるのも時間の問題な気がする。


「まあ、いいじゃん。アニキが最前線に立つのはいつものことなんだし」


 いつものことなのはアッシュの能天気さだとも思ったが、言わないでおいた。

 せっかくのフォローだ。じゃますることもあるまい。


「しかし、こいつら仲間割れかね? それならそれで助かるんだけど」


 シャナが指さすのはゴブリンの死体だ。

 金属の巨人に胸を撃ち抜かれて絶命している。


「仲間といった概念すらないのかもな。この巨人は目にうつるもの全てを片っ端から攻撃するようにできていそうだ」


 侵入者には死を。

 それほどここは重要な場所なのかもしれない。

 単なる迷宮の通路以上のなにかを感じる。


「ねえ、パリト。このゴブリンちょっと変じゃない?」


 ゴブリンの手を指さすのはリンだ。

 そこには指の間に水かきのようなものがある。


「ああ、これまで見たゴブリンとは別物だな」


 水かきは足にもあった。

 陸上と水中、外見は似ていても生態はまるで違う。

 さらには色だ。これまで見たゴブリンよりも明らかに黒い。


「興味深いわね」

「そうだな。しかし、まあ話はこのぐらいにておこうか。誰かが爆発音におびきよせられてもメンドウだ」


 そう言うとその場をあとにする。

 向かう先は三つあった。西、北、東。そのうち東を選択した。

 ゴブリンと金属の巨人が来た方角だ。


「危険じゃない?」

「いや、どのみち避けては通れない」


 アシューテが心配するも、そのまま道を進んでいった。

 たしかに敵が来た方角は、新たな敵に遭遇する可能性が高い。

 しかし、だからこそ、なにかがあるのだとも言えた。


 そうして進むことしばらく、通路の側面に扉のようなものを発見した。


「とびら……だよね?」

「たぶんな」


 というのも、壁についているのは扉と思わしき四角い枠だ。取っ手はない。

 これでは開くことができない。

 いつぞやの隠し扉のように吸盤で引くのだろうか?


 いや、なんとなく違う気がする。

 腰の高さの位置にあるのは、手のひらほどの黒く塗られた長方形の枠。

 ……これは以前見たな。

 たしか、地下五階の廃墟となった巨大都市、治療装置のある部屋の扉もこれだった。


 あのときはどうした?

 そうだ。フェルパが持っていたカギをかざした。


「こうか?」


 セキュリティーカードを長方形の枠に押しつけてみた。

 ビコリと音がして、扉は横に開くのだった。



「暗いな」


 中は部屋になっていた。

 ただ、通路と違って天井の明かりはなく、奥にぼんやり光る緑が唯一の光源である。


 ランタンに火を灯す。

 正面には背の高い金属製の棚がいくつも並んでいた。

 反対側の壁際には、同じく金属製の机やイスもある。

 机にはそれぞれ黒く塗られた金属の板があり、軽く触れると堆積したホコリ指についた。


「誰かの部屋か?」


 生活感だ。これまでなかった生きていた人のなごりのようなものが見える。


「ながく使われていなかったみたいね」


 だが、アシューテの言う通り、誰かがいたとしても、そうとう昔だ。

 何十年、何百年、いや、もっとか。


「奥にも道があるみたい」


 リンが気づいた。ズラリと並ぶ金属製の棚、グルリとまわって向こうにいけるようだ。

 緑色の光は、どうやらそこから漏れている。


「行くか」


 奥へ進むと、壁際、棚側ともに円筒形の容器がいくつも並んでいた。

 容器の高さはわたしの倍ほど、幅はわたしが両手を広げたより少し小さい。

 材質はガラスであろうか? 中を満たす淡い緑色の液体がよく見えた。


「光っているのは中の液体か?」


 液体はほのかに光っており、それが周囲をぼんやり緑に染めていたのだ。


「割れているやつがあるな」

「ああ」


 円筒形の容器はいくつも割れており、緑の液体が床に広くこぼれていた。

 だが、どこかで排水されているのか液体の量はさほど多くなく、足裏をわずかに濡らすのみである。


「これ触れても大丈夫なの?」

「さあな」


 リンのもっともな指摘だが、どうすることもできない。

 まあ、体に直接触れていないからヨシとするか。


「オイ! 大将。これを見ろ!!」


 フェルパが大きな声をだした。

 なんであろうか、少し興奮している。

 彼が指さすのは、円筒形の容器の一つだ。


 なるほど、コイツは……。

 中にいたのはゴブリンだった。緑の液体にプカリと浮いていた。


「死んでるの?」

「いや……」

 

 よく見るとゴブリンの体はわずかに動いている。

 寝ているのか? 水の中で?

 ゴブリンの手足には水掻きがあった。だから水中でも呼吸を?


「こっちにもあるぜ」


 フェルパがまた見つけた。

 容器に浮かぶゴブリンだ。


「え? なにこれ? 腕が……」

 

 リンが驚くのもムリはない。

 容器の中のゴブリンには腕が四本あったのだ。


 なるほど。そうか、少し読めてきた。

 四本腕のゴブリンには水かきはない。ならばあれは水の中では呼吸ができない。

 どうなっているのか分からないが、あの液体の中では呼吸ができるのだ。


 つまり彼らは育てられている。

 ここは繁殖場だ。彼らにとってあの容器は子宮なのだ。

 しかも、ただ育てるだけじゃない。種の改良まで行われている。


 ……もしや、ジャンタールにでてくる魔物はここで作られているのか?


「わわっ!」

「なんだいこりゃあ」


 アッシュとシャナが騒ぐ。

 どうした? また何か見つけたか。


 彼らが見つめる円筒形の容器に近づいていく。


「ヒッ!」

「コイツぁ……」


 リンは悲鳴を上げ、フェルパは言葉につまった。

 そして、私も似たような気持ちだった。


 なぜなら、容器の中に浮かんでいるのは私自身だったのだから。

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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