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【完結】失われた都市ジャンタール ―出口のない街―  作者: ウツロ
五章 揃い始めたパズルの欠片
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116話 石の女王

 嫌な予感がする。

 ただの石像ではない、これまでの経験がそう語っている。


 ……壊しておくか。

 ヤリの石突で石像の足を突いた。

 パキリと音がして膝から下が折れる。ゴブリンの石像は横倒しになった。


 あんがいモロい。

 首筋を踏むと、ゴリリと小さい音がして首がモゲた。


 ふむ、動きだすかとも思ったが、そうでもないようだ。

 少し神経質になりすぎか?

 いや、たとえ間違っていたとしても、可能性をつふすことに意味がある。


 像に背を向け進んでいく。

 ときおり透明の壁に道を阻まれて、迂回を余儀なくされた。


「アニキ、またあったよ……」

「ああ」


 道中、石像をいくつか見つけた。

 そのたびに破壊していたが、先へ進めば進むほど、その数が増えてきたのだ。

 全部を壊していられない、途中でもうムシしていこうと決めた。


 また、像はゴブリンだけでなかった。

 二本足で立つ牛や、やけに巨大な羊、小さい鳥や巨大なクモにアリやサソリ、そして……人間だ。


「大将、コイツぁ」

「おとぎ話か」

 

 ただの彫刻とは思えない。

 ローレライ、アルラウネときて、新たなおとぎ話、見た者を石に変えるバケモノの話だ。

 そいつの名は――


 カッ!!


 乾いた音がした。

 目をむけると、柱に深く突きささった一本の矢がある。

 敵か!? しかも、この硬い石の柱を貫いた!?

 こいつは危険だ。流体金属のヨロイだろうが、おそらく簡単に貫通する。


「柱の陰へ!」


 幸い、ここは柱が多い。

 身を隠すには好都合だ。


「直視はするなよ」


 矢を射った者を確認したいが、それも難しい。

 見ることこそが危険なのだ。

 神話の通りなら、おそらく――


「ギャ!」


 とつじょゴブリンが声を上げた。

 召喚した最後の一体。見れば矢の飛んできた方角を見つめ、足を止めていた。


 なんだ? 様子がおかしい。

 緑がかったゴブリンの体が、急速に灰色に変わっていく。


 ゴブリンは逃げようとしているが、その動きはどんどん遅くなっていく。

 足から膝、膝から胴体。灰色は足元からどんどん上がってきて、全身が灰色に変わったときには、石像のように全く動かなくなった。

 その顔には恐怖がはりついている。


 やはり!

 ここまで目にした石像は本物。

 石に変えられてしまった、魔物や人間だ!!


「ちょ、ちょ、なにこれ!?」

「敵を見るな! 絶対に!」


 そうは言ったものの、敵を見ずしてどう倒せばいいのか。

 ひとまず床に焦点を当て、ぼやけた視界の隅で敵を探す。


 ――いた!


 シュルシュルと巻きつくように柱を登っていく。

 あれはヘビか? いや、上半身は人間だ。

 しかも、胸のふくらみがある。女か!

 やはりあれはメデューサ!!

 上半身は女で、下半身はヘビ。

 その目を見ると石に変えられてしまうのだ。


 カッ!

 また柱に矢が刺さった。


「ひえ!」


 それはアッシュの隠れていた柱に当たったようで、彼は思わず声をあげていた。


「絶対に目を合わせるんじゃないぞ」


 コイツはまいったな。

 石に変えられるだけでなく、矢まで射ってくるとは。


「ええ! それじゃあどうやって倒すのさ」

「視界の隅にとらえろ。ぼんやりうつる影を狙うんだ」


 そう言いながらスローイングナイフを放った。

 残念、当たらなかったようだ。

 柱に巻きついた影は、さらに上へ登っていった。


「大将! どうする? とっとと逃げちまうか?」

「いや、ムリだ。相手の方が早い」


 周囲には落とし穴もあれば、透明な壁もある。

 相手はおそらく柱から柱へ飛び移って移動するはずだ。

 透明の壁の位置も熟知しているだろう。

 逃げた背を矢で貫かれるのがオチだ。


 相手は矢を何本持っている?

 ちらりと見えた背には矢筒があった。使いきるまでネバるのはムリだな。


 みなクロスボウを撃った。

 だが、手ごたえはない。

 メデューサは松明の光が届かないほど上へ逃げてしまった。


 これではクロスボウで狙うのは難しいか。

 やみくもに撃って当たるはずもない。

 敵の姿が見えないため石になるのは避けられるが、こちらは見えずあちらは見える。いい(まと)だよ、まったく。 


「九時の方向に飛んだぞ!」


 気配をたよりに敵の居所を探る。

 気配のみで標的をとらえられるのはどうやら私だけみたいだ。

 ちくいち指示をだしていかねばならない。


「クソ! 当たんないよ」


 射撃が得意なアッシュだったが、さすがに見えない敵には当たらない。

 メデューサは次の柱へとまた飛び移っていった。


「二時の方向の柱だ。先ほどより低い。すばやく撃て」


 当たらなくとも射るだけでいい。

 相手に弓を使わせないのが重要だ。


 背後でつぶやきが聞こえる。

 アシューテだ。彼女はすでに呪文の詠唱に入っている。

 あの暴風の魔法なら、柱にへばりついたアイツを落とせる。


「クソ! これなら!」


 アッシュはクロスボウを投げ捨てると、杖に持ち替えた。

 炎か。それなら矢より大きいぶん当たる可能性が高いか。


 ……炎? いや、マズイ。今それを使ってはならない。


「アッシュ、ま――」


 間に合わなかった。

 アッシュの杖から炎の玉がほとばしる。

 それはメデューサがいるであろう方向に向かっていく。


 炎があたりを照らしていく。

 私はとっさに顔をそらした。


「ヒッ!」


 だが、多くの者は違った。見てしまったようだ。

 そして、運悪くメデューサの正面に立っていたのはシャナだった。

 彼女は引きつったような声を出すと、その場で足を止めてしまった。


「シャナ!」

「パ、パリ……」


 シャナの足は灰色に変色していた。それは、みるみる上半身へ広がっていく。

 彼女はこちらに手を伸ばしたかっこうのまま、石像となってしまった。

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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