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【完結】失われた都市ジャンタール ―出口のない街―  作者: ウツロ
五章 揃い始めたパズルの欠片
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112話 三つ目のワナ

 二つ目のワナを抜け、通路を進んでいく。

 次のワナまで少し間隔があるようだ。通路もいくつか曲がり、今は北に向かっている。


 ガシャン、ガシャン。

 なにやら聞こえてきた。

 金属がすれるような、ぶつかるような音だ。こいつが三つ目のワナだろう。


 通路を曲がると、姿が見えてきた。

 金属製の扉が開いたり閉じたりを繰り返している。


「気をつけろよ。挟まれたら命はねえぞ」


 左右の壁から重厚な金属の板がせりだし、通路の中央でぶつかり合う。

 その速度と衝突音からして、フェルパの言うように挟まれれば命にかかわるだろう。


 扉は一枚ではなく、ずっと奥に続いている。

 いくつも扉を抜け、レバーを引けば解除されるわけか。


「いち、にい、さん」


 扉の開け閉めは規則正しく行われているように見える。

 開いて閉まるまで三の時がある。

 一見余裕がありそうだが、さて。


「大将、アンタなら大丈夫だろうが、コイツは意外にめんどくさいぞ。意地が悪いつーか、裏をかいてくるつーか……」

「ほう?」


 扉に近づいてみた。すると今まで規則正しく開け閉めを繰り返していた扉は、ピタリと動きを止めた。大きく開いた状態で、どうぞ通ってくださいと誘っているかのようだ。


 なるほどな。たしかに意地が悪い。

 通ろうとした瞬間にコイツは閉まるな。


 それに……。


 ヒョイと首をひねった。

 そこを炎の玉が通過していく。


「障害物ありか」

「ああ、そいつは魔法の炎らしく、食らったらなかなか火が消えねえぞ」


 炎は背後の壁にぶつかりブスブスと燃え続けている。

 たしかにコイツは食らいたくないな。

 

「ほかに特徴は?」

「知る限り障害物は火の玉だけだ。あと、開閉は不規則になるときもあるが、開いてから三拍の間は閉まることがねえ。だから通るのは開いた瞬間だ。空き続けているときは絶対に通るな」


 なるほど。

 そこさえ押さえとけば問題なさそうだな。

 いざとなればヤリをつっかえ棒にすれば一瞬の猶予になりそうだ。

 あとはどのていどの距離があるかだが……。


「扉の数は?」

「10だ」


 10ね。まあ、そんなもんだろう。

 100とか言われなくて良かったよ。

 途中でアキて寝てしまうからな。


「では、さっそく行くか」

「待って!」


 先に進もうとすると、リンが待ったをかけた。

 どうした?

 なにか気になることでも?


「私に行かせて」


 なんと、リンは自分が行くという。

 わたしにばかりさせて気がとがめたか、斥候としての責任感か。

 それとも、わたしの身を案じてか。


 先ほどの件があるからな。心配するのは当然と言えば当然か。

 だが、それはわたしも同じなのだがな……。


「わかった、たのむ」


 やや考えたのちに結論を出した。

 仲間を信じねばと思い直したからだ。

 それは離反や裏切りだけでなく、実力を信じることにおいても。


 わたしは少々、気負いすぎていたかもしれない。

 仲間に託さねばこの先、攻略は難しい。それは分かっている。


「じゃあ、行ってくるわね」

「ああ」


 リンはわたしに軽く口づけをすると、扉へと向かっていった。



 扉の前に立つリン。その肩は上下に揺れている。

 緊張しているのだろうか、それとも扉の開閉に呼吸を合わせているのか。


 ガシャンガシャンと扉は音を立てている。

 フッ、フッ、フッと短く吐くリンの息づかいが大きくなっていく。

 

 ……つぎあたり行くか?

 そう予測した瞬間、リンの体が沈み込んだ。

 炎の玉だ。

 扉が開いたと同時に炎の玉が飛んできたのだ。


 いやらしいタイミングだな。いままさに行こうとしたとき飛んでくるとは。

 炎は前からやってくる。扉が閉まっている間はその炎が見えない。

 思う以上にあれはかわしずらいのだ。


 だが、扉が閉まったときにはリンの姿はなかった。

 炎をかわすと同時にくぐりぬけたのだ。


 ひるまない。行くと決めたら行く、その芯の強さが彼女の強さだ。


 ガシャン、ガシャン、ガシャン。

 扉は開閉を続けている。

 あと九枚。もう我らは祈ることしかできない。


 ……


 一瞬が永遠にも感じた。

 扉が開くたびにリンの背が見える。

 だが、それも時間とともに遠く、そして、見えなくなっていく。


 ……


 いま、何枚目だ?

 リンの姿はもう見えない。扉がジャマで見通しがきかないのだ。

 扉の開くタイミングは同じではない。

 抜けた扉の数が多ければ多いほど、その姿を確認するのは難しくなっていくのだ。


「ゲブッ!!」


 とつじょ、なにかがひき潰れたような声がした。

 まさかリンか? 扉にはさまれたのか?


 だれも声を発さない。

 ただ、互いに顔を見合わすのみだ。


 ガシャン、ガシャン、ガシャ――。

 しばらくして音がやんだ。

 全ての扉が動きを止めたのだ。


「解除したわ! 早く来て!!」


 扉が一斉に開いていった。

 リンの声がここまで真っすぐ届いてきた。


「距離があるぞ。いそげ」


 みなで走ってリンのもとへと向かう。

 十の呼吸はこの距離だと決して長くはない。


「リン!」

「大丈夫よ」


 彼女は無事であった。

 みごと扉のワナを全て抜けたのだ。


 チラリと背後を振り向く。

 目が異常に飛び出た鳥の頭部が地面に転がっていた。


「九枚目の扉を抜けた先にそいつがいたの」


 扉には血がついていた。

 それと鳥の毛やら、肉片のようなものも。

 リンが蹴り飛ばしたのだろう。そこをはさまれた。

 あの声はコイツがだしたものだったか。


「無事で何よりだ」

「フフフ、心配した?」


「あたりまえだ」


 障害物は炎だけではないと思っていたが、魔物も配置するとはな。

 ワナを設計したやつは、よほど性格がひねくれていると見える。


 さ、進むか。


「炎には気をつけろよ」


 前方の壁には、石でできたジャガーの頭が五つついており、炎はそこから出ているようだった。

 ワナがふたたび作動し始めた今、炎もまた飛び始めるのだ。


「しかし、いったい俺たちになんの恨みがあんのかね?」


 たしかに。

 まるで恨みでもあるような底意地の悪いワナたちだ。

 フェルパの言葉にみな苦笑いするのだった。

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殺人鬼がパンデミックの謎にせまる物語です 殺人鬼アダムと狂人都市
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