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短編小説

辿り着く場所

作者: 広越 遼


「目的地に到着するのは20日後だそうだ」

 ヘイルが目的地とぼかして言う気持ちが、ミナにはよく分かった。またヘイルも同じ気持ちだと知って、少し安心した。

「そう。ヘイルはその間にしたいことはあるの?」

「いや。したいことはこの1年で全部してきた。10日ずつ昔話でもするかい?」

「ふふ、とても10日じゃ語れないわ」

「それもそうだ」

 2人はどう見ても20そこそこだが、10日で語れないというのは真面目な話のようだ。

「しかし何だな。ミナとはもっと早くに知り合いたかったよ。きっと仲のいい友人になれたと思うんだ」

「あら、男の人はこんな時にも口説き文句を考えるのね」

 言ってから、ミナは「こんな時」と言ってしまったことを後悔した。しかしヘイルに気にした素振りはなく、目をつむって肩を竦めた。

「おやおや、これはつれないね」

 その仕草がミナにはとても面白く、本当にもっと早く知り合いたかったと思った。

「ねえ、遊戯室に行かない? スポーツは何かしてた? 世界中のありとあらゆるスポーツができるそうよ」

「へぇ、隣の部屋の奴は、世界中のありとあらゆるポルノビデオがあって、とても見切れないって嘆いていたな」

「はあ、男の人っていくつになってもそうなのね」

 ミナは大きなため息を吐いてみせる。

「まあ、人それぞれさ。君の部屋の遊戯室でいいかい?」

 二人は交流室から出て、ミナが先導し自分の部屋に向かっていった。無機質な白い天井と白い床が50mほど続いた。左右の壁もやはり白いが、そちらには等間隔で赤いランプが点いている。その一つ一つが部屋になっていて、個々人の声紋認証で、見えないドアが開くのだ。

 いくつか角を曲がると、ミナの目には緑に見える、ヘイルの目には赤く見えるはずのランプの前に着いた。

 そこでミナは後ろを向いてヘイルに言った。

「少し耳を塞いでてもらえないかしら」

「おや、そんなに恥ずかしい合言葉にしたのかい?」

 茶化して言うヘイルを、ミナはじとりと睨んでやった。また肩を竦めるヘイルは、素直に両耳を塞いだ。それを確認したミナはランプのほうに目をやり、一度ヘイルを振り返る。ちゃんと耳を塞いでいるか確かめたのだ。ヘイルは耳を塞いだ状態で器用に肩を竦めて見せる。ミナはかすかに笑ってランプに目を戻す。

「イキタイ」

 ミナの合言葉に反応して、ただの壁だった場所に、四角い穴が現れた。二人はその穴の中、つまりミナにあてがわれた部屋に入っていった。

 ヘイルが何も軽口を言わなかったことから、合言葉を聞いていたのだとミナは気付いた。別に恥ずかしかったのではなく、こういう神妙な空気になるのが嫌だったのだ。

 部屋はまるで監獄のように、白いベッドが一台置かれているだけだった。と言っても、トイレや風呂場、遊戯室に繋がるドアがあるので、本当に監獄と言うわけではない。ミナは遊戯室に繋がるドアを開いた。

 食事の時間まで二人はテニスをして汗をかいた。ヘイルは初めてだと言っていたがなかなか様になっていた。ミナがとんでもない所にボールを飛ばしてしまっても、難なく対応して見せた。

 食事は交流室に取りに行く。自動機械からベーコンの入ったスープとパンが出てくる。その食事は楽しむためのものではなく、ただ体調を管理するためだけのものだった。

「とても心配りがある食事とは言えないわね」

「その様だね。ところでミナはテニスをやっていたのかい? なかなか気の利いた位置に返球が来ていたけど」

 必要以上にヘイルの言葉は遠回しだ。しかしすでにミナは開き直っていた。

「じっくり見学したことはないわね」

 ヘイルは楽しそうに笑った。ミナもまた、暗いことを意識しないわけではなかったが、なるべく明るく笑って見せた。


 約200年前、その数年前に老いを克服していた人間は、ついには死をも超越した。

 たとえその人間が亡くなろうと、脳に大きな損傷がなければ、蘇生ができるようになったのだ。

 一度死んで蘇った人たちは、死んでいる間の記憶がなく、死後の世界が存在しないことが知れた。それ故に人は余計に死を恐れるようになった。

 そしてその蘇生技術が確立するにあたり、人口増加が懸念されることとなった。そのため、ある世界共通法が擁立された。

 200歳皆葬法。

 それは200歳を迎えた年の暮れに、強制的にその人の葬式を行うというものだ。

 各国共通の法律にするため、様々な問題があった。特に問題になったのは、文化や宗教の違いからなる葬式の方法だった。最初葬式の方法は墓所不足の問題もあり、宇宙葬が提案された。しかし多くの信仰が墓標を必要としたため、宇宙葬は却下された。やはり墓には明確な場所が必要だったのだ。

 最終的に葬儀は太陽葬で行われることとなった。毎年の暮れ太陽に向け、その年200歳を迎えた人たちを乗せた棺桶スペースシャトルを打ち上げるのだ。

 その法律が実行されてから、人々は故人を思うとき、太陽に向けて手を合わせるようになった。


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