人外のお嬢様は吸血鬼
【作者より】
拙作はあかし瑞穂さま主催の「人×人外ラブ企画」に参加させていただいた作品です。
グダグダかもしれませんが、ご覧いただけると幸いです。
ここは異世界のカルロスにある屋敷に住む者のお話である。
金髪碧眼で燕尾服をきっちりと着こなした青年がある部屋の前に立っていた。
「本日はリーンお嬢様の許婚のマリオ様がみえるので、その時だけでもキッチリと人間らしくしていただけなければ……」
彼はふぅ……と深呼吸をし、その部屋の扉を軽くノックし、返事が返ってくるのを待つ。
しかし、部屋の中からは返事や物音すら聞こえない。
彼は部屋の扉をそっと開いた。
「これはこれは……まだ、お嬢様はまだ眠っていらっしゃるのですね……無理矢理でも叩き起こさなければなりませんね……」
視界に入ってきたのは天蓋ベッドですやすや眠っている銀髪の少女のリーンがいた。
「……お嬢様……リーンお嬢様……」
「むぅ……レント、もう少し静かに起こせないのかしら?」
レントと呼ばれた青年が彼女の身体を揺すったりして何度も起こそうと試みるが、リーンは機嫌が悪そうに目を覚ます。
「いつもより静かに起こさせていただきましたが……ところで、本日はなんの日か覚えていらっしゃいますか?」
「えっと……今日はマリオがこちらにくるのよね?」
「ええ、左様でございます。朝食の準備ができました」
「早いわね。それよりもわたくしはあなたの血をいただきたいの」
「は、はい。畏まりました」
レントはリーンに背を向けるように跪き、首筋を見せる。
「いただきます」
「ゆっくりと召し上がってください」
彼女は彼の首筋に向けて八重歯を突き刺し、とても美味しそうに血を吸い始めていた。
レントは週に一回から二回くらい、リーンに血を求められる。
執事である彼と許婚のマリオは人間だ。
しかし、彼女は人間ではなく、人外である吸血鬼。
レントはリーンが吸血鬼であることを隠さなければならないのだ。
「もういいわ。本日もとても美味でした」
彼女は満足したように舌を出す。
一方の彼は「それはどうも」とリーンに医療用の絆創膏みたいなものを手渡し、首筋に貼ってもらった。
「ありがとうございます。ところで、リーンお嬢様。本日はくれぐれも人間らしくお過ごしくださいね」
「……はーい……」
「声が小さいですよ」
「はーい!」
「ならば、急いで身支度を整えていきましょう」
*
朝食と身支度を終えたリーンはマリオがくるまで、客室で家族と談笑をしていた時に来客がきたことを知らせる屋敷のベルが鳴り響く。
「わたくしが出ますわ!」
リーンは興奮したかのように玄関に向かった。
レントは「リーンお嬢様!」と呼んだが、彼女の姿は見当たらないため、すでに玄関に着いているのだろう。
「レント君、うちのリーンは許婚のマリオと会うことを楽しみにしていたのだから、たまには彼女に出迎えてもらってもいいのでは?」
「そうよ。レント君はいつまでもリーンと一緒じゃないこともあるのだから」
「そうですね。私はお茶の準備をさせていただきましょう」
リーンの両親にこのように言われ、彼はリーンがマリオを連れてそこに戻ってくるまでにお茶の準備を済ませる。
「マリオ、こちらですわよ!」
「分かってるよー」
彼女らが客室にやってきた。
その微笑ましい光景にレントとリーンの両親の頬が緩む。
「こんにちは。お邪魔します」
マリオは今までリーンに連れ回されていたせいか、栗色の髪がボサボサになっていた。
手土産を気にしながら、髪を大まかに整えている。
「「マリオ、いらっしゃい」」
「みなさま、お久しぶりです。レントさんも」
「マリオ様こそ、わざわざ遠くからきていただきありがとうございました」
「いえいえ。レントさんもお元気そうで何よりです。こちらはみなさまで召し上がってください」
「ありがとうございます」
あれから、マリオとリーンは社交ダンスを踊ったり、レントが淹れた紅茶で一息をつけたりして楽しそうに過ごす。
その時、レントはそんな彼女らを見て、「リーンお嬢様が今日だけ人間らしく過ごしていただけたので、よかった」と安堵の表情を浮かべたのであった。