希望の光
ディー視点
「卒業、発表会?…台本?」
レディーナが扉の下から差し込んだのは台本だった。
表紙には“卒業発表会、演劇『聖女の祈り』”とあった。
聞き覚えのないそれらに首を傾け、パラリと表紙を捲る。
最初の見開き1ページ目に配役が書かれていた。
英雄 アルバート・ジーク
聖女 レディーナ・バレンティン
(そうか…)
そこまで目に入れ、一つ思い当った。
今は10月であるが、公演は11月。
これは、11月に行われるアルバートイベントだ。
『貴女さえ居なければ!!この泥棒猫!!』
レディーナがディーに向かって手を振り上げた瞬間、それをアルバートが掴んで止めた。
『君には失望した…』
『アルバートッ!』
ディーを背に庇う様にアルバートがレディーナの前に立つ。
『怪我してない?大丈夫?』
緊迫した場面にそぐわぬ優しい眼差しで問われ、ディーは頷く。
『何故、貴方がそちらに立つの?』
レディーナは鋭くアルバートを睨み据える。
『もう、こんな事、止めにしないか?』
『何を…?』
『君が今まで彼女にして来た仕打ちを、僕が知らないと思うかい?知ってた。全て見てたよ。それでも、婚約者だからと我慢していた。許してきた…。でも、それも限界だ。』
『何をっ!?』
『これ以上、君の事を嫌いにさせないでくれ。』
その言葉が決定打となった。
何故、と崩れる様にレディーナが床に膝を付く。貴方は私の婚約者でしょう?とアルバートへレディーナが縋った。
『それも、…今日までだ。』
その日、公演の2週間前と言う差し迫った時期に、アルバートとレディーナの婚約は破棄され、レディーナはヒロイン役を降ろされる事となった。
そして、ヒロインの代役としてディーが選ばれる。
アルバートの練習に付き合っていたディーが、セリフを粗方覚えていたから、という理由で。
公演当日、テレビの画面では何の演目か不明だが、無事ヒロイン役をやりきったディーに沢山の拍手が送られた。もちろん、隣には優しく笑むアルバートが立っていた。
イベント内容を思い出しつつ台本のページを捲る。
劇と言うよりもミュージカルに近いようで、セリフよりも歌が多い印象だ。
少ないセリフの中の更に少ない聖女のセリフに赤インクで印が付いている。
「寂しい。寂しい、と心が叫ぶのです。」
赤い印を指で撫で、その箇所のセリフを口にする。
『貴女は気付いていないだけ。皆が貴女を必要としています。』
歌の後に続く英雄、アルバートのセリフを目で追う。
「いいえ、わたしはただ一人の心が欲しいのです。」
聖女のセリフがあるここは、言うなればクライマックス。
今迄口を閉ざし、ただ祈りを捧げていた聖女が口にする初めての言葉は愛を乞うものだった。
それも、ただ一人だけの心を。
「わたしは、貴方の心が欲しい。」
『聖女様…』
二人の想いが重なるのは束の間。
英雄はその後戦地へ赴き、戦死を遂げる。
その後聖女は『英雄を愛した心』を支えに生き、そしてエンディング。
沢山の人達に見守られながら、息絶える瞬間。
切ないバラードの歌が終わると呟かれる聖女のセリフ。
「わたしの幸せは、…ここにあった。」
聖女は最後に希望の光を見つけた。
わたしの希望の光はどこにあるんだろう。




