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対峙

「ま、待ちなさいっ!」

「離してっ!」

一方が逃がすものかときつく腕を掴み、握られた方はその痛みに一瞬顔を歪めた。


「貴女、何をしたの?」

「な、何って、何もしてないっ。あたしは何も知らない。」

ぶんぶんと顔を左右に振り、痛みから逃れる為か必死で腕を離そうともがく。


「嘘。右の男の人はパン屋のレオンだったわ。貴女の幼馴染の。そうよね?ロッテ。」

「やめて!いたい!離して!マリア」

正門方面へ逃げたロッテを追いかけたマリアは数分もしない内にロッテの腕を捕まえた。

はぁはぁ、と息を整えてるマリアに対してロッテはぜぇぜぇと肩で息をしている。


「大体、レディーナ様に怪我が無かったから良かったものの…」

そうマリアが零した時、今まで右に左に腕を振って逃れようともがいていたロッテの動きが止まった。

「いつも…いつも…いつも…」

それは声と言うには小さく、吐息と呼べる程の呟き。

それでも、それは確実にマリアの耳に届いた。

「ロッテ?」


掴まれた腕はそのままにロッテに睨み上げられ、マリアが数歩後ずさった。

「レディーナ様、レディーナ様、レディーナ様って!」

膨らむ怒りを表すかの様に次第に大きくなる声。

その時、ロッテの瞳から水が溢れ、大粒の涙が零れた。


「何で?何で?何で?貴女の一番の友達は、あたしじゃなかったの!?」

「っ!!」

ロッテの鋭く睨む眼光の中に浮かんだ『孤独』。

それに気付いたマリアが包む様にそれでいて力強くぎゅっとロッテを抱きしめた。

震えながらも必死に抵抗する肩を抱き締めながら、マリアは思い出す。


あの頃、レディーナを追いかけるのに必死で、ロッテを蔑にしていた自分を。

自分が話す事に夢中で、ロッテの話を聞かなかった自分を。


ロッテがマリアから離れたのではなかった。

マリアがロッテを置いて行ったのだ。


「ごめんなさい。ロッテ。…ごめんなさい。」

その事に気付いたマリアの目からも沢山の涙が溢れた。

ロッテは、許さない。と抵抗するように首を左右に振ったが、今まで見せていた身体の抵抗は薄れていた。

「ロッテ、ろって。ごめんね、ごめんなさい。」

何度も、何度も左右に首を振るロッテを抱きしめ撫でながら、マリアが何度も、何度も乞う。

次第、ロッテは首を振るのを弱め、ふえぇ。と泣き出し、いつの間にかマリアと泣き声の大合唱となった。


身体を寄せ合いながら、わんわんと泣く二人の背中を後から追いかけたビートが優しく見守っていた。

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