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仕える者の幸せ

セバスチャン視点


今話は少し遡った話。

69話『私に必要なもの』と70話『子犬系男子』の間にあった出来事です。

「また受け取って貰えなかった。」

今朝方、有名菓子店をいくつか回って購入したプリンを手に彼が気落ちして帰ってきた。日が沈みはじめた夕方の事である。

まぁ、そうなるだろう。と思っていたので特別驚きはしない。


「料理長に言って、後で夕食にでも出して貰いましょう。」

と侍女頭の女性が彼の手からプリンを預かる。

そんなに日持ちするだろうか、と購入したプリンの数を思い出す。

彼女が喜ぶだろう、と購入した黄色だけでなく色鮮やかな様々な種類のプリンの数は50個。

後で箱を開けた料理長が頭を悩ませるだろうが、それは後で対処しよう。


まずは、目の前で項垂れている彼、アルバート様をどうにかしなくては。


彼の自室へ促し、歩きながら顔色を窺う。

(大丈夫そうだ。)

約2週間前、顔面蒼白、意気消沈で帰ってきた彼に比べたら、随分明るい顔色に取り敢えず一安心する。


あの日、レディーナ様と雨乞花鑑賞に出かけた彼がご機嫌で帰ってくるだろうから、と用意した苦みの強い珈琲は、誰の舌にも触れる事無く廃棄する事となった。

『レディーナを傷づけてしまった。泣かせてしまった…』

と後悔を滲ませながら零す独白に、久方ぶりに意図せず勝手に眉根が寄った。


『…何が、あったんです?』

彼が彼女を大切に守ってきた事は傍で控えている者なら誰でも分かる事だった。

そんな彼が、彼女を傷付け、泣かせる等、何かあったに違いない。そう思って問えば一言。

『目先の欲に囚われてしまった』と。


その後、レディーナ様のお宅へ謝りに伺っては同じ様な顔をして帰ってくる彼を2週間程、毎日迎える事となった。


その顔がやっと和らいだのは先日の事。

その日も謝りに出かけたかと思えば、案の定すぐに帰ってきた彼がいつもと違ったのは、夕方またしても出かけたのである。

一言、城下町の広場に馬車の手配を頼む。とわたくしに残して。


そして夕方遅く、手配した馬車に揺られて帰宅した彼の顔色にほっと胸を撫で下ろした。

「仲直り、されたのですね?」そう問えば。

「そう…なるのか?」と微妙な答え。

しかし顔を窺えば、久方ぶりに零された微かな笑顔に安心したものだ。


しかし、その騒動に一番気を揉んでいたのは他でもない家内で働く侍女達だった。

彼女たちの心情を思えば、無理もないと思う。


わたくし達仕える者に、家を選ぶ事は出来ても主人を選ぶ事は出来ない。


旦那様や、彼の様に誠実な主人に仕える事が出来ても、迎えた奥様が酷い人だったという噂はこの業界、少なくないのだ。

執事であるわたくしと違って、彼女達侍女は女主人と共にする事が多い。

迎える女性次第で、酷い仕打ちを受ける事もあれば、家畜の様な扱いを受ける事もありえるのだ。


その点、レディーナ様は噂に違わず気遣いと優しさを持ち合わせた御人である。

もし、彼の様に誠実で、彼女の様に優しい主人が持てたなら、それはわたくし達の幸いにして誇りだ。


だからこそ、仲直りされた翌日、上機嫌で帰ってきたアルバート様の姿に侍女達は安堵の声を漏らした。

そこまでは良かった。


「女性は誰しも、キラキラ輝く光物が大好きですわ。」

「確かレディーナ様は甘いものに目がない、とか…」

「お花もお好きでしたよね!?」

侍女数名が話すそれは、もちろんアルバート様の耳へ届いた。

というか聞かせる為に大声で話していたのだろう。


レディーナ様は物よりも心を好みます。と言うわたくしの的確なアドバイスは無視され、昨日早速宝石商の所でプレゼントを購入し、見事レディーナ様にフラれた。

(だから申し上げましたのに。)


物よりも言葉を差し上げたら如何でしょう?と言うわたくしの最もなアドバイスを無視し、本日購入した50個のプリンは、予想通りレディーナ様に拒否された。

(そろそろ分かって頂けましたか?)


「後は確か…花だったな。」

「…アルバート様?」

「よし、今から買いに行って来る。」

「アルバート様!」

「なんだ?」

自室に入ったばかりなのに、すぐにでも飛び出して行きそうな彼を呼び止める。

隠す事もなく目が「邪魔するな」と言っている。


「花は鮮度が命。購入されるのでしたら、明日の朝が宜しいかと」

「なるほど、そうだな。」

(レディーナ様にとことん呆れられて、とことん怒られた方が良い。)

彼の暴走はわたくし達では止められないだろうから。


その翌日、まさかわたくしも購入に付き合わされ、花に埋もれる事になろうとは、この時露程も思わなかった。

そしてその日、レディーナ様がアルバート様をちゃんと叱ってくれた事に感謝し。


やはりこの方を主に持てたら幸せな事だな。と改めて実感した。

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