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冷と重

レディーナ視点

一度、応接室へ私達を通したレナは、セバスチャンに後を任せ瞬く間もなく玄関へと戻って行った。

先程の花々を選定し、ちゃんと活ける為だろう。

後を任されたセバスチャンが慣れた優雅な手付きで紅茶を淹れる。

今日レナが準備してくれた紅茶はドライフルーツ入りだった様で、部屋に甘い果物の香りが広がった。


どうぞ、と優雅な笑みで差し出された紅茶に口を付ける。僅かだが、ほっとする甘さが広がる。

「美味しいわ。ありがとう。セバスチャン」

柔らかく顔を崩したセバスチャンが、同じものを対面に座るアルバートにも差し出した。

紅茶も美味しいけれど、彼が淹れるコーヒーも美味しいのだと前にアルバートが言っていた。


カチャリッと扉が静かに開いて、顔が覗いた。


「まぁ、お兄様!?」

「アルバートが来てると聞いてね。」

立ち上がろうとする私を制したお兄様が、私の横に座って足を組んだ。

「やぁ、アルバート。先日はレディーナが世話になったそうだね。」

(お兄様でも、睨む事があるんだ!)

お兄様の冷たく刺す様な目なんて初めて見た。


その言葉にバッとアルバートが立ちあがり、深い礼をしようと腰を曲げ…るのを、お兄様が手を上げて止める。「許す気はないから、謝らなくて良いよ」の言葉付きだ。

あまりの威圧に、ゴクリッと私とアルバートの喉が動いた。

(似てないと思っていたけど、お父様そっくり)


「お、お兄様!お時間宜しいの?もう騎士団へお戻りの時間なのでしょう?」

冷える様な空気を払う為に、意識して普段より明るい声を出した。

「そうだね。挨拶に寄っただけだから。名残惜しいけど、もう行くよ。」

頬に贈られる『親愛』のキス。

お兄様の目元がちゃんと和らいだのを確認して、私も『親愛』のキスを贈った。


「アルバート、じゃあ、また後で。」

すっと軽く手を上げアルバートへも別れの合図を送ったお兄様が立ちあがり、扉へと足を進める。


「はい、剣術大会でお会いしましょう」

「剣術大会?」

初めて聞く単語に首を傾げると、お兄様へ下げた頭はそのままに、アルバートが笑顔を貼り付けたまま、顔をこちらに向けた。

私の顔を見、目元を鋭く細めると、次いで顔を上げ、お兄様の背中へ向ける。

「アレク様?」

アルバートが普段より低い、お腹に響く様な声を出す。

応接室の空気が一気に重苦しい空気に変わった。


「いやー、忘れてた、忘れてた。」

ははは。と乾いた笑いを浮かべて、お兄様が私の元へ戻って来た。

ポンポンッと肩を叩かれる。

「来月、9月の3週目の末日は空けておくよーに。」


私の肩に手を置いたままお兄様がアルバートへニコッと笑みを向ける。

その笑顔を受けて、アルバートが更にニコッと笑みを強めた。


冷たく、重苦しい雰囲気に息が詰まる。


「く、9月の3週末ね。」

張り付く様な喉の渇きを覚え、コクリと冷めきった紅茶で潤す。


「勝利をレディーナに捧げるよ」

アルバートの甘いはずのそのセリフは、今は私の背筋を凍らせるだけだった。

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