長期連休の過ごし方―レディーナの場合―
鏡を前にニコニコと笑っているレディーナを見て、髪結いの侍女であるリーナがくすりと笑みを零した。
レディーナがそれに気付き、首を傾げる。
「申し訳ありません、レディーナ様が本当に嬉しそうで…つい。」
そう言われレディーナはかぁっと頬を赤らめた。
「ごめんなさい。お兄様が帰ってくると思うと嬉しくて。」
連休に入ってすぐ、街の安全を守る国営騎士団の警備騎士として王家に仕えている兄『アレク』からレディーナ宛てに手紙が届いた。手紙の内容はこうである。
『可愛いレディーナ、笑顔で過ごせているかな?
こちらの業務が少し落ち着いて、まとまった休みが取れたので近々帰るよ。
お土産、楽しみにまっておいで。 アレク』
そして今日は、待ちに待った兄、アレクが帰ってくるその日であった。
「良かったですね。御髪、きちんと編み込んでしまって大丈夫ですか?」
鏡越しにそう聞きながら、リーナが慣れた手付きでレディーナの髪に櫛を通す。
「ええ、お願い。いつもありがとう。リーナ」
ニコッとお互いに笑みを贈りあう。
リーナが流れる様な手付きですいすいと髪を掬い上げ、くるくると手を動かせば、あっという間に完成である。最後の仕上げに、と編み込まれた髪の間、左耳の上にピンクの可愛いらしい花が添えられた。
「今朝、クロエがレディーナ様に、と。」
「そうなの。とっても可愛い。嬉しいわ」
後でクロエにもお礼を言わなくちゃね。と零しながら、レディーナは鏡に映る髪型を右から左から眺めた。
多少動いても崩れないその髪型は、レディーナにとって久しぶりの姿であった。
以前はよく結って貰っていた髪型であったが、アルバートが事ある毎に、髪飾りを取ってしまうので、最近では左右に軽く流すか、緩く編んでもらうかのどちらかになっていた。
「レディーナ様、お支度整いましたか?」
レナが扉から顔を出と、上から下までレディーナを眺め、満面の笑顔で頷いた。
「そろそろ、アレク様がご到着されるそうですよ。」
それを聞き顔を綻ばせたレディーナにレナとリーナが目尻を下げた。
「お兄様!おかえりなさい。」
玄関で父親に帰宅の挨拶をした後、レディーナに柔らかな眼差しを向けたアレクを満面の笑みでレディーナが迎えた。
「ただいま、僕の天使。」
「ふふ。そんな事言うの、お兄様かアルバート位だわ。」
その言葉にアレクが嫌そうに顔を歪めた。
それを見てくすくすとレディーナが笑う。
お茶の準備が整いました、とレナに促され二人、中庭に面したテラスに移動する。
目の前に爽やかな香りの紅茶とバター香るクッキーが置かれ、アレクが優雅に口を付ける。
「レナ、ありがとう」
そう言ってレディーナも口付けた紅茶からは、爽快なハーブの香りがした。
「お兄様が帰ってきて下さって嬉しいです。」
「僕も、久しぶりに可愛いレディーナに会えて嬉しいよ。学園は楽しい?」
「はい!先日から生徒会のお手伝いもやらせて貰っているんです。」
「成程、それは楽しそうだ。」
くすくすとテラスに明るい笑い声が響く。
「…ところで、レディーナ。成績が落ちてしまったんだって?」
そこで零された兄の言葉に、兄の本当の帰宅理由を知ったレディーナが顔をしかめた。
「まったく、お父様ったら。」
「はは。レディーナの事だから心配無いとは思ったんだけど、一応ね。」
アレクがレディーナにウィンクを贈る。
「この前の順位は、生徒会の手伝いと重なってしまっただけで…」
「そうか。でも、もしレディーナが良ければいつでも教えるよ。」
チラッとレディーナが兄の顔を窺う。ニコッと笑みを浮かべたアレクが頷いてそれに応えた。
「では、宜しくお願いします。」
先日手を付け始めたばかりの宿題を思い出してレディーナが小さく呟き、頭を下げた。
「お兄様、いつまで居られますの?」
「ひと月位かな。」
そう、と気落ちしたレディーナにごめんね。とアレクが苦笑いする。
「今日の午後は挨拶回りがあるけど、それまでの時間、沢山話そう。」
そう言ってアレクがひょいっと口にクッキーを放り込んだ。
「ええ!沢山話したい事がありますの。手紙には書ききれなくて。」
「僕もだよ。アルバートの事も話したいな。」
「はい、もちろん!」
二人の楽しそうな話し声は、なかなか昼食に現れない事を心配した父親がゴホンッと咳払いで邪魔するまで続いた。




