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予定に無い衝突

レディーナ視点

「レディーナ様、劇を観に行けなくて残念でしたね…」

下校する為玄関までの廊下を、一緒に歩くマリアさんが心配そうに私を見て言った。

「マリアさん、ごめんなさい…私からお誘いしたのに」

私の眉尻も下がる。

だって、今回のフォンダン様の演劇は私がずっと楽しみにしていた物だったから。


私は幼い頃から演劇が大好きで、特にフォンダン様演出の演劇が大好きだった。

フォンダン様が演出されると、会場と演者と音楽が一体となり煌びやかで、まるで夢の中にいる様な心地にさせてくれるのだ。

しかしお父様は、そんなのは時間の無駄だ…。と苦い顔で切り捨て、見に行く事をなかなか許してくれないのである。


(せっかくアルバートが誘ってくれていたのに)

お父様もアルバートの誘いなら…と許してくれる事が多く、公演が決まった半年前からアルバートと二人で今日の事を計画していたのだ。

大好きな物を大好きな人達と共有したくてマリアさんにも声を掛けた。


『折角お誘い頂いたのに申し訳ないんですけれど…』

最初お誘いした時、マリアさんには断られた。

マリアさんは庶民である為、ご実家の手伝いで毎日忙しい。

『私がご両親を説得いたします!だからどうか、是非一緒に!』

私は切実にお願いした。

大人気のフォンダン様の劇なのだ、次の公演は卒業後となってもおかしくない。

『え!?そんな、…分かりました。一度、両親と話してみます。』

眉を下げながらもマリアさんは笑ってくれた。

それから数日後ようやく良い返事を貰えたのだ。

(そう、やっと貰えたのよ。それなのに…)


こんな事が無ければ今日は素敵な思い出になったはずだ。

期待していただけに落胆も激しく、気付けば涙で視界が歪んだ。


「レディーナ様…」

そっとマリアさんが背中をさすってくれた。

その優しさに止めていた涙が溢れ零れてしまった。そんな時…

「泣く程行きたいなら、行けば良いのに…バカみたい。」

そんな何処か冷たく、それなのに愛らしい声が聞こえて私は顔を上げた。


「貴女は…」

目の前には午前中階段でぶつかった少女、ディーが立っていた。

「貴女、失礼よ!」

少し強い声でマリアさんがディーを窘めてくれた。

「あら、ごめんなさい。思った事を素直に言っただけですわ。」

ほぼ初対面なはずなのに喧嘩を売るかの様な言葉と態度に、私もマリアさんも言葉を失ってしまう。

その場に居合わせた生徒がザワザワと騒ぎ始め、何事かと教室から生徒達が出てくる。


「どうした?レディーナ、何があった?」

後ろの方から聞き慣れたアルバートの声が上がった。

「アルバート!」

私は振り返って首を左右に振った。

(来ちゃダメ!ディーに会っちゃダメ!)

そう思いを込めたつもりだったが、アルバートは眉をひそめると歩調を速めてしまった。

周りの生徒が道を開けると、アルバートは難なく私のそばまで来てしまう。


アルバートが固く口を結んだ私を見て、次いで隣にいるマリアさんを見る。

「何かあったのか?」

私が口を開かない事を悟ったアルバートはマリアさんに聞く事にした様だ。

「えっと…それは。」

マリアさんが窺う様にそっと私を見たけど、私は俯く事しかできなかった。

「実は先程…ってあら?」

マリアさんの疑問の声に顔を上げ、視線を追う。視線の先はディーが居た場所。

しかし、ディーどころかそこには誰も居なかった。


(良かった…)


真っ先に浮かんだのはその安堵だった。

アルバートとディーが出会わずに済んだ事に安堵した。

「先程いた女生徒が、レディーナ様に…」

マリアさんがアルバートに説明している声を聞き流し、私は別の事を考えていた。

(こんな映像なかった…)

未来視で見たのはこの後の演劇鑑賞後の夕方の出来事だけ。


(でも、もしここで、今二人が出会っていたとしたら、どうなっていただろう。)

例えこの後、演劇鑑賞後出会えずとも同じ学園内、いくらでも二人が顔を合わせる機会はあるのだろう。

(二人が出会う事は避けられない?)

一目惚れに特別なイベントは必要ない。

アルバートとディー、二人が恋に落ちるのに必要なのは、瞳が絡まるその瞬間だけだ。

なんだか、それって、まるで…

(まるで…運命。)


そう感じた私の思考に私の心が落ち込んだ。


「レディーナ、演劇見に行きたい?」

その時、アルバートの優しい声が降ってきた。

アルバートの瞳を見つめる。

(この綺麗なガーネットの瞳が写すのは私だけじゃダメなの?)

胸が、心が苦しい。


「レディーナ…?」

「…い、きたい」

優しい声色に促され漏れ出たのは、私の本音。


「うん、分かった。一緒に行こう」

少しだけ心配そうな顔をした後アルバートは、にっこりと笑って私の手を暖かな手の平で包んでくれた。

(いつかこの手は去ってしまう…)

暖かな優しさが今、とても辛い。

私は心を締め付けるこの愛しさを閉じ込める様に瞳を閉じた。


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