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変わりたい

レディーナ視点

最後の授業も終わり、教師から明日の連絡事項等の話を聞き終え、皆が帰りの支度を始める。

私も早速。と、使う予定の教科書とノートを詰め込んだ鞄を掴んで教室を出た。

向かうはアルバートの教室。今朝同様、胸がドッキンドッキンと鳴っているが私の表情は今朝とちょっと違う。

くいっと勝手に上がってしまう口端を必死に抑え廊下を歩いていると調度アルバートが教室から出てきた。


「あれ?もしかして迎えに来てくれた?」

「ええ。お迎えに上がりました。」

にっこり笑顔に私もにっこり笑顔で応えた。

「ありがとう。でも、折角来てくれたのにごめんね。ちょっとビートに頼まれ事されちゃったから、教室で待ってて。すぐ迎えに行くよ。」

ええ、分かったわ。と答えて教室へ戻ろうと足を踏み出し、止めた。

(ここで帰って待つのはいつもの私。今日から私は変わると決めたんだ。)

「あ、えっと。やっぱり、もし、迷惑じゃなかったら、一緒に行っても良いかしら?お邪魔じゃなければ…だけど。」

私の言葉にアルバートは驚いた表情を一瞬だけ見せてから、笑って頷いてくれた。

「勿論、レディーナ。お手をどうぞ。」

からかわれたのでちょっとだけ睨んでから、差し出された手に手を乗せた。


ビートの頼まれ事は職員室への届け物だった。

一緒に職員室まで行ってから、そのまま小校舎へ向かう。

「レディーナ様…、アルバート様…。」

アルバートと図書室までの階段を登り終えると顔に困惑の表情を乗せたマリアさんが立っていた。

マリアさんは、ちょっと用事が。と最後の授業を欠席した為、図書室内で待ち合わせしていたのだ。


「マリアさん?どうし…あら?何事かしら?」

室内で待つ事無く、隠れるように身を縮めたマリアさんに、事情を聞こうとして図書室の前が騒々しい事に気付き視線を向ける。と、15人位の女生徒達が集まって中を覗いていた。

「何かあったのかしら?」

こんな小校舎の外れの方にある図書室を利用するのは良くて2~3人位だ。それが15人も集まっているとなれば何かあったのだろうか?とマリアさんとアルバートへ問いかけた。


「勉強会をするんだって?」

とその時、今登ってきた階段から聞き覚えのある声がかかった。

「「「ビート(さん)」」」

やぁ、と右手を上げながら現れた人物の名を三人で呼ぶ。

「どうしてここに?」

アルバートが不思議そうに問えば、マリアから聞いて。と笑顔と共に返事が返ってきた。

自然、マリアさんへ私達の視線が移ると更に背を丸め、マリアさんが俯いた。


「あ!レディーナ様とアルバート様だわ!」

先程まで図書室前で中を覗いていた女生徒達がこちらに気付いて足早に歩み寄ってくる。

「みんな今日はどうしてここへ?」

一歩前へ進み出てアルバートが優しい笑顔と共に聞く。それを見た女生徒全員がポッと顔を赤く染めた。

「あの…私達、お二人が今日ここで勉強会を開いてくださると聞いて…参加しても宜しいですか?」

「え!?」

その答えに思わず大きな声が出てしまった。


確かに、勉強会をする予定ではあった。あったけれど…

(私達だけでやる予定だったのに。)

「ご迷惑でしたか?」

感情が正直に顔に出てしまったのだろう、女生徒の中で一番前にいた子が心配そうに私の顔を覗き込む。

(うぅ…)

『ダメ』なんて言えない。けれど、『良い』とも言いたくない。


その時、ふぅ。と諦めたかの様なアルバートのため息が聞こえて思考が止まった。

「良いよ。みんなで勉強しようか。」

(あ…またやってしまった。)

私が返事出来ないのを見抜いたアルバートが代わりに応えてくれたのだと分かった。

さぁ、みんな中に入って。とアルバートが促し、ぞろぞろと皆が図書室へ入っていく中、私は動けずにいた。


自分が嫌われたくないと言葉を選んだせいで、また大切な人を傷付けてしまった。

またアルバートを裏切ってしまった。

今朝決めたのに。好かれる努力をしようと。変わろうと…変わるんだと。

自分の優柔不断さに不甲斐なさに、項垂れ視界が落ちる。


丸まった背中に優しい温かさを感じ、温かさの元を探る。

見上げればアルバートが背に手を当てて、固まって動けない私を促してくれていた。

(変わらなくちゃ)

諦めるのはまだ早い。今日から新しくなるって決めたんだ。

気持ちをもう一度改めようと、一度ギュッと強く目と拳を握って顔を上げ私も図書室の中へ急いだ。

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