一目惚れ
レディーナ視点
先程映像で見たディーとアルバートの初対面は、今日の夕方であった。
今日公演のフォンダン様演出の演劇鑑賞の後、劇場から私の手を引き階段を降りるアルバートと、たまたま通り掛かかり劇場を見上げたディーの目が合う。
アルバートのガーネット色の瞳とディーのエメラルドグリーンの瞳が絡まり、沈黙。
『あなたの様な方も演劇をご覧になるの?この劇の良さが分かるのかしら?』
クスクスと余裕たっぷりの笑みを浮かべてレディーナはディーを嘲るのだ。
その言葉に俯き去っていくディー、その背中をアルバートの熱い視線が追いかける。
『アルバート、行きますわよ!』
腕を引いてようやくアルバートの視線が私に戻り、私達も帰宅するのである。
(これが良く聞く一目惚れ…てやつかしら?)
とりあえず、対面は回避する事ができたはずである。ほっと胸を撫で下ろした時
「レディーナさん、分かるかしら?」
突然のご指名にビクッと肩が跳ねた。
顔を上げると教壇上で教師が優雅な笑みを浮かべてこちらを見ている。
只今、午後の歴史の授業真っ最中だった。
周りの殆どの貴族は現在夢の中、残りのクラスメイトは期待の眼差しで私を見ている。
焦る心を隠し黒板の文字を見、うろ覚えな今日の授業内容を必死に思い出し、頭をフル回転させた。
「はい、我が国ストレイジの国王、ハルト・グレイシー様のお力により、初めて設立されたのは児童園です。」
その答えを聞いて、教師が満面の笑みを浮かべる。
「ハルト様は国王になられてから特に教育面にご尽力されていますが、その中でも初めて造られたのは庶民の子供達の為の教育施設『ストレイジ児童園』。結構です。良く勉強されていますね。」
教師が頷くと起きているクラスメイト達が拍手を贈ってくれた。
(予習しておいて良かった!)
ストレイジ学園の貴族はただ授業に参加していれば卒業出来る為、午後は寝ている生徒が多い。そんな中、真面目に授業を受けている私は稀であった。
それには理由がある。我が家、バレンティン当主である私の父ジデルから入学の際、「しっかり学び、身につけよ」と鋭い眼光で念を押された。
昔からお父様は自分にも人にも妥協を許さない厳しい人で、卒業出来ようが怠ける事を良しとしない。
受けなくて良いテストも受け、出た点数と順位結果ももちろん毎回お父様に提出している。
ただ、勉強しているからとて現実は甘くなく、順位は平均より少し上と言った所だ…。
ちなみにアルバートも毎回テストを受け、そして何故か順位結果を私のお父様に提出している。
宜しい。と教師から着席を許される。
教師から褒められ、クラスメイトから褒められ、頬を緩めながら晴れやかな気持ちで席に座った。