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新しい朝

レディーナ視点

『ほら見ろ。毛虫だ!』

男の子が女の子にいたずらを仕掛けていた。

『…』

対する女の子は驚く事も無く無反応で男の子の手の中の毛虫をじっと眺めた。

『けっ、ホントお前ってつまんないよな。』

白けた、と男の子は手の中の毛虫をポイッと捨てる。と、近くに居た侍女が悲鳴を上げた。

それを聞き男の子が満足気に笑っている。


場面は切り替わりとある部屋の中、佇む女の子に男の子が後ろから忍び寄った。


『スキあり!髪飾りいただきー!』

男の子はいたずら成功!とニヤニヤと笑み、相手の反応を楽しそうに覗き込むと、笑みを消した。

『…』

女の子は相変わらず言葉を発しなかったが、目に涙を浮かべていたのだ。

『ご、ごめん!』

慌てた男の子は、慰めようとしたのか女の子の頭をそっと撫でた。

それが気持ち良かったのか女の子は、先程の泣き顔と打って変わって、瞳を閉じた顔に僅かに笑みを浮かべていた。

その表情を見た男の子は顔を真っ赤にしながら、ずっとずっと、頭を撫で続けた。女の子が「もう、いいよ」と止めるまで。


・・・・・・・・・・


目を開けるとまだ薄暗い室内ではあるが、隙間から差し込む光はもう朝だと教えていた。そろそろ侍女が起こしに来る頃だろう。

(懐かしい夢…)

自室のベッドの上で起き上がり、先程見た夢を思い出しくすっと笑いが漏れた。

先程の少年と少女は小さい頃のアルバートと私だ。

お母様の髪飾りを取られて、つい寂しさから泣いてしまったのは、もう遠い昔の事。


(小さい頃アルバートはいたずらっ子だったわね)

幼い頃、されたいたずらを上げればきりがない。虫を見せる他、驚かせたり、怖がらせたり、会う度何かしらされていたので、昔はアルバートがちょっと苦手だった。

でも、頭を撫でてくれる様になってからお互い少しずつ変わって、今では誰よりも安心し信頼できる、愛しい人となった。


「「レディーナ様、おはようございます。」」

部屋のドアから二人の侍女が頭を下げて静かに入ってきた。

「レナ、クロエ、おはよう」

「レディーナ様、お身体の具合はいかがですか?」

その内の一人、こげ茶色の髪に最近白髪が混ざるようになったレナがそそっと私の顔色を窺う。

心配しているのは昨夜、泣き顔を見られたからだろう。

レナは私が小さな頃から身の回りを世話してくれる侍女で、大きくなった今でもその感覚が抜けず、私が心配で堪らないようだ。

申し訳ないと眉を下げながら、もう大丈夫。と笑って見せると安心出来た様で朝の紅茶を淹れはじめた。


昨夜私は、アルバートと向き合っていなかった自分に気付かされ涙した。

一度流れた涙は留まる事を知らず、自宅に着くまで絶える事が無かった。

(懐かしい夢を見たのは昨夜の事があったからかしら?)

泣いている間ずっとアルバートは私の頭を撫でてくれていた。昔と変わらぬ優しいその手で。


アルバートは『俺を見ろ』と言ってくれた。その言葉に勇気と希望を貰えた気がした。

自惚れで無いならアルバートの気持ちはまだ私にあると思えた。

ならば、離れていかない様に努力しよう、努力したい。と、昨夜お風呂に浸かりながら決意した。


「レディーナ様、今日も良いお天気ですよ」

部屋のカーテンを眩しくない様にと足元の方から開けながらクロエが笑顔を見せる。

日の光を浴びてクロエの赤い髪が鮮やかに光り輝くのを眩しく見つめた。


太陽の光を浴びてだんだんと明るく温かくなる部屋、クロエが活けてくれた花瓶の花が白く輝く。

レナが淹れてくれた少し渋めの紅茶を口に含み、一息。

眩しく光り輝く朝の空気を吸い込む。

(新しい朝)


「えぇ、とっても素敵な朝ね」

今日から新しい私に変わるんだ。

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