婚約者、アルバート
レディーナ視点
保健室のベッドから這い出し、残りの午前授業を終えたお昼、マリアさんと一緒に食事を取ろうと食堂へやってきた。
(大好きなハンバーグランチは…我慢しよう!)
今朝乗った体重計がプラスを示していた事を思い出し、泣く泣く白身魚のソテーランチを手に取った。
「レディーナ様、私ハンバーグランチにするので一口交換しませんか?」
「本当?嬉しい!マリアさんありがとう」
マリアさんの心遣いに、感極まってガシッとマリアさんの手を握った。
「マリアさん、良かったら私のプリンもお裾分けするわ」
『キャーっ!』
そんなやり取りとしていると後ろの方で歓声が上がった。
何事?と振り返ると一人の男性が優しい笑みを浮かべながら私達の方へ歩いてくるところだった。
「やぁ、僕のお姫様。今夜の観劇の約束、忘れてないかな?マリアもだったよね?」
「アルバート…」
艶やかな黒髪に見上げる程の長身、甘いマスクに微笑みを湛えやってきた彼の名は『アルバート・ジーク』私の幼馴染兼、婚約者だ。
そして何を隠そう彼こそ、私が恋を自覚している相手なのである。
(やっぱりディーもアルバートを好きになるだろうか)
先程見た映像が本当ならばそうなる。
(だとしたら、今夜の観劇は断りたい…会わせたくない)
「…?どうかした?何かあった?」
俯く私を心配そうにアルバートの美しく赤にも黒にも見えるガーネットの様な瞳が覗き込む。
「あの…私…、体調が良くなくて…」
嘘と分かってしまわぬ様、その瞳から逃れる様に私は更に俯いた。
………。
暫くの間食堂内に重い沈黙が漂う。
「あの…レディーナ様は先程まで保健室で休まれていたんです」
その重い空気の中、助け舟を出してくれたのはマリアさんだった。
その言葉を聞き、ふぅ。とアルバートの息が漏れた。
「教えてくれたら良かったのに。もう大丈夫なの?無理しちゃダメだよ?」
少し咎める様な声色ではあったが、アルバートが優しく頬を撫でてくれた。
「ごめん…なさい。」
それでも、私は罪悪感から顔を上げる事は出来なかった。






