探り合い
レディーナ視点
そのまま私はアルバートに手を引かれ、近くに立っていた担当の教師にペアの報告をした。
あれから2週間。未だにアルバートのパートナーは私である。
(大丈夫なの…?)
今日は休日、場所はバレンティン邸宅のテラス。
出された紅茶を優雅に口つけるアルバートを横目で見上げる。
私の視線に気付いたのか、アルバートが庭園から私へ視線を移した。
「ドレスの色は決まったか?」
「え!?えっと…」
つい、視線を彷徨わせると、アルバートの嘆息が聞こえた。
ペアになった男女はドレスにタキシードを合わせるのが普通だ。
なので私のドレスの色が決まらないことには、アルバートの衣装の色も決まらないのである。
「あの…アルバートはダンスの相手、私で良いの?」
「はぁあ!?」
(だって…)
舞踏会でアルバートはディーと踊るのだ。
(今衣装を決めてしまったら、後でまた作り直しになってしまうのに。)
「今更パートナーを辞めるとか言うんじゃないだろうな!?」
「ち、ちがうっ!」
少しアルバートの声が怖くなったので慌てて訂正する。
「じゃあ、何だ…」
少し呆れた顔でアルバートが私を見る。そっと頬に手が伸ばされて優しく撫でられた。
アルバートの綺麗なガーネットの瞳に囚われる。
そのままアルバートの瞳に写る私の顔が近づき、頬に…
「そ、そういえば!」
(あぶなかった!)
雰囲気にのまれてしまう所だった!
アルバートの舌打ちが聞こえた様な気がするが気のせいだ。
「で?なんだっ?」
ふいっ、と私から顔を反らしたアルバートの声は何処か投げやりな感じに聞こえた。
「えっと…、ディーさんダンスの経験が無いから困っているみたいね?」
私が探ろうとしているのが分かったのか、その言葉を聞きアルバートが目を細めて視線を私へ戻した。
その瞳に浮かぶ感情は読み取る事が出来なかった。
「そうらしいな。パートナーが見付からないから練習が出来なくて余計に困っていると言っていた。」
アルバートは目を細めたまま私を捉え、逃さない。
「そ、そう…。大変ね」
探り合いになれば私の負けだ。降参、と私は視線をアルバートから庭園へ移した。
風が頬を撫でる。様々な彩りがそこかしこで咲き誇っている。
気持ちの良い春の香りを胸一杯に吸い込む。
「私、ドレスの色決めたわ。」
「そうか…」
アルバートの声色はいつもの優しさに戻っていた。
私の頭を乱雑に撫でるアルバートの微笑みに私は見惚れて胸を熱くした。