ダンスのお誘い
レディーナ視点
その日からアルバートとディーが話しているのを良く見かける様になった。
そんなつもりは無いのに、その様子をついじっと眺めてしまう。
「レディーナ様…」
マリアさんに声を掛けられて、今日もまた凝視していた事に気付かされた。
「心配いりませんわ。アルバート様は誰よりもレディーナ様を好いていらっしゃいますもの。」
マリアさんの優しい気遣いの言葉と笑顔は少しだけ私の心を和らげた。
(そうよ、私は友情エンドを目指すんだもの。)
それでも笑顔で話し合うディーとアルバートを見る度に心にチクッと棘が刺さった。
・・・・・・・・・・
「それではこれから来月末に行われるダンステストの詳細を説明致します。」
教師がいつもより大きく声を張り上げている訳は、ここがいつもの授業より広い場所であるのと、生徒の人数が多い為だ。と言うか、全校生徒の前だからだ。
来月5月末のダンステスト、模擬舞踏会はクラス単位ではなく学校全体で行われる行事である為、1年から6年までの全生徒が講堂に集まっている。
今回が初めての1年生は不安と期待とを滲ませ、毎年の恒例行事となった私達6年生は聞き飽きたと、流す様に先生の説明に耳を傾けた。
「今回も会場は学園の大ホールで行います。約20組で1曲ずつ、順に踊っていただきます。踊っていただく順番などを決めるので、パートナーが決まった生徒は私か、担当の教師にお知らせください。」
その教師の言葉に、講堂内がザワザワと騒ぎ始めたが、お静かに!の一言で、一瞬にしてピンッと張りつめた空気に戻った。
「もっと詳しく知りたい方や、困った事がありましたら、遠慮なくお聞きください。」
最後ににっこり笑って淑女の礼を見せ、教師が檀上から降りた。
すると一気に講堂内がわぁっと騒々しくなった。
「レディーナ様は勿論、アルバート様ですよね?」
「…、どうかしら?」
私はマリアさんに笑って見せるだけで精一杯だった。
「ひどいな。」
笑いを含んだ声が後ろから掛かって驚いて振り返る。
「僕はフラれてしまうのかな?」
「アルバート!?」
居るはず無いと思っていた人を見つけ、少しだけ声が大きくなる。
アルバートは隣のクラスだから、席が離れていたはずだった。
「誰か先約でも?」
そう言って笑みを湛えたまま、私の前に回り込んだアルバートが、左手を私の前に差し出す。
この手を取れば、私はダンスの誘いを受けたことになる。
(先約があるのはアルバートの方でしょ!?)
アルバートをちょっとだけ睨んで見せる。
「…?」
相変わらず笑顔のまま、アルバートが首を傾げて私を見つめる。
(私が、アルバートに逆らえるはずがないのよ…)
「…宜しく、お願い致しまっひゃあ!」
アルバートの手の上に手を乗せると、キュッと握られ腕を引かれ立たされた。
(!?!?)
そして私を見つめたままアルバートが、品良く上がっている口元に私の指先を近付け
ちゅっ
と小さな音を立てた。
その音に私は顔を一気に赤らめた。