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貴女とダンスを―上―

「センセー、さようなら~」

「さようなら。また明日」

迎えに来た保護者に手を引かれ、振り返りながら子供達が手を振る。同じ様に手を振ってビートは応えた。

きゃっきゃっと響く子供の笑い声は、まだ迎えが来ていない子供達の物だ。各々遊びながら迎えを待っている。


去年、無事教育資格を取得し半年の研修期間を終えたビートは現在、見習いの教育者として『ストレイジ児童園』で働いている。

「センセー、おままごと、しよう?」

ビートの手を引いたのはまだまだ遊びたい盛りの幼い子供達だ。現在ビートが受け持っている4歳~6歳までの生徒達。

「いいよ。でも、先生もお仕事が残ってるから、少しだけね?」

「うん!」

元気よく頷くと、子供達がぐいぐいとビートの手を引いた。


校庭の一角で暫く子供達のままごとに付き合い、ビートがペットの犬役を演じていた時、生徒の一人が声を上げた。

「マリアおねーちゃんだ!!」

そう言って指を差すと、楽しそうにぴょんぴょん跳ねる。

ん?とビートが顔を上げると確かに、校門に困り顔のマリアが顔を覗かせていた。

「あ、あの…お邪魔、だった?」

四つん這いのビートにマリアは困惑して首を傾げた。

「全然。」

ビートは四つん這いのまま首を振った。


「おねーちゃんも、あそぼう!!」

手をぐいぐい引っ張って、校門からマリアを連れて来た子は得意気に笑った。

え?あの…。と困惑するマリアにビートは、調度良かった。と笑った。

「先生、お仕事片付けてくるから、皆はマリアお姉ちゃんと遊んでてね。」

そう言うと、宜しく。と告げビートが室内に戻ってしまった。

そんな…。とビートの背中を目で追い、子供達のキラキラ輝く目を見て、マリアは肩を落とした。


ビートに残され、肩を落としたマリアに子供達が無邪気に、何してあそぶー?と笑う。

マリアは、そうね…。と暫し悩むと、ぽんっと手を叩いた。

「クイズしましょう!」

「くいずぅー!?」

マリアの提案に子供達が更に瞳をキラキラと輝かせた。

「みんなは、ビート先生に計算って習ってるよね?」

「しってるー!!」

きゃっきゃっとはしゃぎ子供達は、僕も、私も。と手を上げる。


「じゃあねー、これは分かるかしら?」

近くにあった手頃な枝を手に取ると、マリアはスラスラと地面を撫でた。

「マリアおねーちゃん、これ、変だよ?」

マリアが地面に描いたのは、3+□=8。という式だった。

「そう?じゃあ、正しい形に直せる?」

子供達は、うん!と大きく頷くと、銘々ぶつぶつと呟きだした。

「ここが、8になるんだから…」

「3の数字に、えっと…」

それぞれ、指や小石、ノート等を取り出し、必死に数えている。


「わかった!」

一人の男の子が手を上げると周りの子供達が、えぇー!と驚きの声を上げた。

「ほんと?じゃぁ、おねーちゃんにだけ内緒で教えて?」

マリアが身を屈めて髪を耳に掛けると、その子供がえへへと笑いながらトコトコと近寄った。

えっとねー、こたえはー。と少しだけ勿体ぶって告げられた答えにマリアが、正解です。と微笑む。

すると固唾を飲んで見守っていた子供達から、えー!と言う驚きの声と、いいなー。と言う羨望の声が上がった。

「さ、みんなも考えてみて。貴方は分からない子に教えてあげてね。」

マリアが促すと皆はやるぞー!活気付き、答えが分かった男の子はうん!と得意気に笑った。


それから暫く、マリアが穴抜け問題を出しては子供達が解く。と言うクイズを続けた。

子供達はいつも習うのとは一味違う問題が楽しくて、次は?次は?と強請った。

マリアは引き算にしてみたり、二桁の数字にしたり、足し算と引き算を合わせたりして、少しずつ難しくしながら問題を出した。


「つぎは?マリアおねーちゃん、つぎは?」

「えっとね、じゃあ、次は…。」

スラスラスラとマリアが地面に新たな穴抜けの式を描く。

「穴抜け問題か…。懐かしいな。」

するとマリアの背後からビートが式を覗き込んで、声を掛けた。

慌ててマリアが足でザッと先程描いた式を消すと、あー!!と子供達から非難の声が上がった。

マリアおねーちゃんは行儀が悪いな。とビートが子供達に笑い掛ける。


「まだ、答えてないのにー!もう一回、かいて。」

「も、もう、ダメ」

「えー!もう一回、もう一回だけー。」

子供達が口を尖らせてマリアにお願いすると、ビートがパンパンと手を叩いた。

「さぁ、皆。お迎えが来てるぞー。続きは、また今度だ。」

渋る子供達を促し、ビートが保護者へ引き渡す。子供達がしゅんと振り返りつつ、またね。と手を振る。


また明日。と手を振るビートの隣で、マリアは薄く笑う事しか出来なかった。

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