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ジーク邸にて

アルバートの実家、ジーク邸の庭先で優雅に紅茶に口を付けながらレディーナが、何十枚とある封筒を仕分けていた。

「若奥様、ディー様がお見えになりました、お通ししても宜しいですか?」

「あら、もうそんな時間?ありがとう、セバスチャン。こちらの封筒だけアルバートに渡して下さい。残りはこちらで対応します。」

レディーナが数枚の封筒をセバスチャンに渡すと後ろを振り返る。

「リーナ、珈琲の準備をお願いね。」

「畏まりました。」

バレンティン家で髪結いの侍女だったリーナは、レナではもう歳だし、クロエでは若すぎると言う理由と、本人の強い希望もあり、嫁ぐレディーナの為にジーク邸に仕える事となった。

今ではすっかり、レディーナのお世話にも手慣れたものだ。


レディーナがジーク家に嫁入りして早3年。

アルバートの妻として、ジーク家の若奥様としての役割もすっかり板についてきた。

毎朝ジーク家に届けられる手紙を廃棄、自分で対応、アルバートの指示待ちに分けるのはレディーナの女主人としての朝の日課である。


「レディーナ、おはよう。」

「ディー!久しぶりね。おはよう」

そして午前中の残った時間はお茶の時間である。

一件優雅そうなお茶の時間であるが、アルバートの上司の奥様をお呼びして接待したり、近所の奥様方を招待してもてなしたり、妻としての大切なお仕事の一つである。

その中で月に一度だけ、ツバサかマリアが遊びに来てくれるのが、レディーナにとって楽しみな時間となっている。


「これ、マリアから。試飲お願いします。だって。」

ツバサがマリアからの手紙と共にいくつかの茶葉を渡す。

マリアは卒業後、実家の茶葉専門店を手伝っている。最近仕入を担当する様になり、度々レディーナに試飲と称して珍しく美味しい茶葉を届けてくれる様になった。

「ありがとう、いただきます。そう言えば、来年ビートは教育者試験ね。」

「うん。寝る間も惜しんで勉強してるみたい。マリアが会えないって愚痴ってた。」

ビートは卒業する事無く、学園の教育学科に進み教師になる為の資格取得で猛勉強中だ。

そして晴れて、庶民が通うストレイジ児童園の教師になった暁には、マリアにプロポーズするのだと目下、目論見中である。


「あと、わたしからは新作のお菓子。」

「まぁ!執事喫茶の?」

ツバサは前世の記憶を生かし、実家の飲食店を改装し、執事喫茶を開店した。

「美味しかったら教えてね。」

「また、御令嬢御用達って付けるの?」

ツバサはあざとい事に、執事喫茶で出す紅茶とお菓子に『とある御令嬢御用達』と宣伝文句を付けた。

とある御令嬢…とは、勿論レディーナの事であるが、その事は特に明記していない。にも関わらず、庶民のお嬢さん方には本場の味だと大変人気で、今城下町の一番の繁盛店となっている。

ちなみに出している紅茶もマリアの家から仕入れた物なので、虚偽はしていない。


「レディーナも一度来てみてよ。執事はイケメンな上にセバスチャンのお墨付きよ。」

執事喫茶で働く執事こと、従業員は全てセバスチャンが指導したので、その所作は完璧だ。

裏でツバサが、ラッセルとの婚約披露救出作戦の恩を盾に、アルバートとセバスチャンにそれを強要したのであるが、それをレディーナは知らない。

その上、セバスチャンと違い若くてイケメンばかりである。平日でも満席、長蛇の列になるのも頷ける。


「アルバートが、一緒じゃなくちゃ駄目だって。」

勿論、そんな所にレディーナが行く事をアルバートが許す訳がない。

「秘密にすればバレないんじゃない?」

「そう、かな…?」

「駄目ですよ。」

ツバサの誘惑に頷きかけたレディーナを、どこで聞いていたのかセバスチャンが止めた。


「ディー様、若奥様を誘惑するのはお止め下さい。」

「いつからいたの!?」

「若旦那様より、ディー様には十分注意するように、と伺っております故。」

驚いたツバサに淡々と答えたセバスチャンが言う若旦那とは勿論、アルバートの事だ。

その言葉にちぇっと口を尖らせたツバサをレディーナが笑った。

アルバートは王都の北で働いている。本当は父の下である王都中央で働くのが通例であったのを、婚約破棄させられた事を未だ根に持つアルバートはそれを断り、現在に至っている。


「そう言えば、ロビンさんはどう?無事、王家直属騎士になれそう?」

卒業後、ロビンはツバサに『一生、お前の面倒見てやるよ。』とプロポーズっぽい事を言ったのだが、『え?自分の面倒くらい、自分でみるし。』と、執事喫茶が軌道に乗り始めた事もあり、あっさりツバサは断った。


「知らない。」

「知らないって、…王家直属騎士になれたら結婚するんじゃないの?」

「そんな約束してないし。」

レディーナがあんぐりと口を開けたのも無理はない。

『俺の何が駄目なんだよっ!』と詰め寄るロビンに『え、だって貴族って面倒』とツバサが告げた翌日からロビンは、必死に自分の両親を説得し家督を長女に譲る事でようやく貴族のしがらみから抜け、身一つで生計を立てる為に、持ち前の剣術を生かし王家直属騎士を目指しているのだ。

これも、それも、全て、全部、ツバサの為である。


「何だか、ロビンさんが…可哀想だわ。」

「大丈夫よ、この前会った時元気だったもの。」

会ったの?とレディーナが驚く。会ったよ。と何でも無い風にツバサが答えた。

聞けば、月に何度か顔を見に執事喫茶に来ていると言う。

「落ちたなら、顔見れば分かるわよ。」

そう。と零したレディーナがこっそりと笑った。

意地っ張りな親友は認めないけれど確かに、ツバサとロビンの間に他人には分からない繋がる物があるのだと、確信した笑みだった。


「何ニヤニヤしてんのよ」

隠せてると思っていたのはレディーナの思い込みだった様だ。

見れば呆れ顔のツバサと困り顔のセバスチャンがレディーナを見ていた。

「それにしても…」

ゴホンッと一つ咳払いをしてレディーナが表情を整えた。

「それにしても、私が見た未来視って、何だったのかしら…。」

それに対してもツバサは顔色一つ変える事無く、さぁね。と答えた。

「わたし達の行動の結果なのか、又は登場人物が同じの別世界、パラレルワールドだったのか…。」

ツバサの言葉にレディーナが、ぱられるわぁるど?と首を傾げた。


「とにかく、わたしが知ってるビートはドSじゃ無かったし、マリアなんて存在しなかったし、ロビンはあんなに馬鹿じゃないし、アルバートは怖く無かった。」

「もう、アルバートは怖くないったら!」

レディーナにとって一番優しいはずのアルバートが、ツバサにとっては恐怖の対象らしい。

レディーナにはね。とツバサが笑うと、セバスチャンが同意するように大きく頷いた。

「でも、わたしの知ってるエンディングより、今の方がずっと良い。」

でしょ?とツバサがレディーナに同意を求めた。

レディーナの隣にはアルバートがいて、ツバサと親友になれて、マリアとビートは変わらぬ友人で…。

「そうね。」

レディーナも大いに同意して首を上下した。


「若奥様、そろそろお食事の時間の様です。」

侍女がこちらに向かって合図するのを目視して、セバスチャンが頭を下げた。

「あら!ディーご飯食べて行って。」

「いいの?」

「勿論、ついでにゆっくりして行って。今日はアルバート、付き合いのパーティーで遅いの。」

「じゃあ、お言葉に甘えようかなー」

学生時代と変わらぬ二人の姿に、セバスチャンはそっと笑みを零した。

パラレルワールドでした。

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