あの日の様に
レディーナ視点
1年と少し前の夜にあったこの場での大切な思い出を、心にしまう様に目を閉じる。
閉じるとまるで昨日の事の様に鮮明に、灯る淡い光とアルバートが浮かんだ。
「レディーナ?」
ツバサに促されてゆっくり目を開けると、そこは青い花が咲き乱れる爽やかな庭園だった。
「私、今でも自分に自信は持てないけど…、アルバートを、信じてる。これからはアルバートがくれる『好き』を沢山、見付けられる人になりたい。って思う。」
自覚したからって、私は私。変わらない。
これからも弱い私は、自分を信じ切れずに不安になる事があるだろう。
でもその度に探すのだ。彼が伝えてくれる愛を。
私は誰よりも、私自身以上に、アルバートを信じてる。
あの日、私を『愛しい』と言ってくれたあの日のアルバートを、ずっと信じ続ける。
「ふーん、なんか、レディーナらしいな。」
ふふ、とツバサが笑った。
「そうかな…。へへ。」
つられて私も笑う。
うふふ。あはは。と何が可笑しいのか、二人で笑い合っていると、ふとツバサが顔を上げた。
「残念、時間切れだ。」
そう零すツバサの視線を追う。
「ディー、そろそろレディーナを返してくれないか?」
後ろを振り返り見上げれば、そこにアルバートが居た。
「アルバート」
「そろそろダンスの時間だ。心の準備は良い?」
あ。と思い出す。
婚姻報告の場で最初にダンスを踊るのは主役の二人。つまり私達。
「うっ…。あまり、心の準備は…」
「僕の奥さん、お手を」
拒否する事を許さない笑みで手が差し出される。
手を乗せると包む様に握られ、優しく引かれる。
「いってらっしゃい、レディーナ。」
後ろからツバサの声が聞こえ、苦笑いで応えた。
導かれる様に引かれ、場を譲る皆の間を縫って、庭園の中央までエスコートされる。
「レディーナ様、頑張って。」
「アルバート、しっかりリードしてやれよ!」
途中、マリアさんとビートが手を振ってくれた。
手は繋いだままに、くるりとアルバートが反転して向き合う。
ぐっと腰元が寄せられ、心臓の音が聞こえるかと思う程、距離が近付く。
「少しは落ち着いたか?」
「全然、緊張で死にそう。」
「はは、それは困ったな。…。なぁ、思い出さないか?」
「?」
「ダンステスト、夜の廊下での事。」
アルバートがそっと耳に言葉を落とすと、ワルツが流れ始めた。
「レディーナ、あの日の様に。」
「…、ふふ。踏んでも良いの?」
「あぁ、いつでもどうぞ?」
ぐいっと寄せられ身体が密着したかと思うと、私を支えたままアルバートがくるりっと回転した。
見ていた招待客がおぉ、と驚きの声を上げ、ざわつく。
「ふふ。みんな驚いてるわ!」
何とか着地してステップを続ける。相変わらずアルバートのステップはめちゃくちゃだ。
「ほっとけ。もう一度回りたいか?」
「…うん!」
今度は腰を掴まれ持ち上げられ、くるりっと回った。
周りからは更に驚きの声が大きく上がる。
「あはは。楽しい!もう一回!」
「仰せのままに。俺のレディーナ。」
私とアルバートは目が回るまで、何度も何度も回り続けた。
これにて完結ですが、未来のお話が後2話続きます。
明日、明後日の21時更新です。
宜しければもう少し、お付き合い下さい。