階段イベント
ディー視点
夕方、劇場に向かう途中、ふと気になった。
放課後、廊下でのレディーナの反応を見てわたしの攻略対象がアルバートである事は確定した。
だからこそ、劇場に向かうのを渋ったレディーナに疑問を感じた。
そもそも、攻略対象がアルバートで無くても今夜の出会いは共通イベントで、最初のプロローグみたいな物だ。避けられるはずの無いものである。それなのに、だ。
(もしかして…)
その時わたしの中に一つの考えが浮かんだ。
寒空の下、体が震える。
日中は温かくても太陽が隠れた夜はまだ肌寒く感じる季節『春』。
それなりに防寒してきたつもりだったが、スカートの下の素足が寒い。いや、寒すぎて痛い。
(まだなの…?)
待ち始めてから結構時間が経った。すでにそれなりの人が出てきた。
それなのにアルバートとレディーナの姿は無い。
(見落とした…?いや、そんなはずは無い)
寒さで鼻先が冷え、ズズズッと出てきた鼻水を啜っていた時
危ない。という声に、顔を上げ階段を見れば
(やっと出てきた!)
足早に階段を降りてくる人の姿を見付けた。
「レディーナ様、アルバート様?」
わたしの声にハッと顔を上げたレディーナの顔が強張ったのが分かった。
(…?次のセリフはレディーナのはず)
そこから長い沈黙があった。
わたしは寒いのを我慢してひたすらレディーナのセリフを待った。
『貴女の様な方も演劇をご覧になるの?この劇の良さが分かるのかしら?』
(やっとかよっ!)
正直な感想はそれだった。
練習してきた悲しい顔を浮かべ、走り去るわたしの背中を、アルバートが見詰めているはずである。