足りなかったモノ
レディーナ視点
招待したお客様に挨拶をし、祝福された私はアルバートに促され、一時休憩となった。
庭園内の至る所に用意された椅子の一つに腰掛け、ふーっ。と息を吐いた時、名を呼ばれ振り返った。
「ディー、来てくれてありがとう。」
彼女を見れば嬉しさで疲れが消えた。
「アルバートは?」
「アルバートはまだ挨拶回りをしてるわ。私は疲れちゃって、休ませて貰ったの。」
「そ。…でさ、」
私の隣に座ったツバサは、キョロキョロ動かしていた頭を私に戻し、身体を屈めて、声を落とした。
「で、引っかかってたのは解消出来たの?」
そう言えばツバサとそんな話をしていたな、と以前家の中庭でのやり取りを思い出す。
『何が引っかかってるの?』
アルバートを信じる事が出来なくなった私に、彼女はそう言った。
「あ、うん。…って言って良いのかな?」
心配してくれていたのだと分かって、私も声を落として答えた。
「何なの、その歯切れの悪い返事は…」
「うーん、引っかかりが無くなったって言うか、分かったの。…私が信じられなかったのは、私だったんだ。怖くなったの…淑女とはこうあるべきだ。と教えられた通り生きてきた私には、何も無かったから。」
そう、それは例えば、芯の様なモノ。地面の様なモノ。格の様なモノ。
気付けば私のそれらは、私じゃない何かで支えられていた。
『良く頑張っていますね』そう言ってくれた教師の言葉だったり、『大変素晴らしいですわ。』そう言ってくれた他の人の評価だったり。
でも、それを疑った途端、芯が崩れて、形を保てなくなった。地面が崩れて、立てなくなった。格が崩れて、自分が分からなくなった。
「アルバートの事が信じられなかったんじゃない。私が私を信用できなくなって、否定してたの。足りなかったのは、アルバートからの好きじゃなくて、私の自信だった。」
「そうね。って事は、自信ついた?」
そのツバサの問いには苦笑いで応えるしかない。
「うーん。自信が持てた…とはちょっと違うかな。やっぱり今でも私は私に自信が、無い。」
「そう、…。」
「うん。でもね、でも。あの日、アルバートは私の想いを受け止めて、返してくれたの。」
あの日?と頭を傾げたツバサに、うん。と頷いて、1年と少し前の、あの日の夜、この庭園での出来事を思い出した。