婚姻報告
時間は進みまして、前話137話『自覚』より、1年と数か月経ちました。
レディーナ視点
思えば、本当に色々あったものだ。とこれまでの日々を思い出す。
約1年前、私が成人となったその日に行われた、私とアルバートの婚約披露は、ラッセル様の妨害を警戒して王都から外れた小さな教会で素早く、密かに、慎ましく行われた。
あの後、私との婚約披露を中断され拘束されたラッセル様は、一時国営騎士団預かりとなったものの、王家からの要望により約1週間程で釈放された。
しかし、王族からの除名は避けられたものの、あらゆる権利や地位が剥奪され、今や上流貴族と変わらない扱いを余儀なくされている。とお兄様が教えてくれた。
「レディーナ様、とても可愛らしいわ。」
その声に呼び戻され、はっと目の前の姿見を見れば、映る私の後ろに微笑むハンナさんが映っていた。
「ハンナさん、今日はお邪魔させて頂き、ありがとうございます。それに私の支度にもお手伝い頂いて…」
「あら、私が手伝いたいと希望したのよ?とても楽しかったわ。ありがとう。」
今日、鏡に映る私が着ているのは純白のウェディングドレスだ。
胸元から腰元まで、体のラインになぞられた純白は、腰元から足元に流れるにつれ広がるマーメイドドレス。付けられたレースが開いた胸元を品よく隠し、後ろの腰元に付いているそれはリボンの様に飾り付けされている。
上品でありながら、可愛さも兼ね備えた私好みのドレスに真っ白で少し低めのヒールとガーネットの髪飾り、全てアルバートが今日の為にプレゼントしてくれた。
「お二人の大切な日に、この場を選んで頂けて、すごく嬉しいわ。」
「ハンナさん…」
大切な日。
そう、今日はアルバートと私の婚姻報告の日だ。
約1年前、婚約披露を終え無事正式な婚約者同士となったその足で、二人で王家へ申請し、無事1ヶ月前に承諾を経て、本日ようやくこの日を迎える事が出来た。
報告するべきや、したい人達を招待したのは、ここ。ハンナさんの雨乞花庭園だ。
婚約披露は大人しくしたのだから、婚姻報告は派手に。とアルバートが沢山の招待客を呼び、ハンナさんが受け入れてくれた。
「さ、こちらを。」
と渡されたのは赤い雨恋花の蕾のブーケ。
受け取り、目の前の姿見をもう一度視界に入れると、嬉しさを隠せない私がいた。
行きましょう。と導かれ外へ出ると、大好きな爽やかな香りに包まれた。
ザワザワとした話声が止み、分かれ、人の道が出来る。
「レディーナ」
その道の奥からつかつかと、黒いタキシード姿のアルバートが歩み寄ると、手が差し出された。
その手に手を乗せると、包まれる様にきゅっと握られる。
顔を上げれば、優しげに垂れるガーネットの瞳と合った。
「やっと俺のものだ。」
その声は観客の拍手によって消されたが、私の耳にはしっかり届いた。