夢と現実
レディーナ視点
気が付けば、目の前は灰色だった。
そして理解する。あの後、教会での逃走劇の後。
現れたダンさんに襲撃され、抵抗虚しく私だけこの塔へ戻された。
「起きたか」
聞きたくない声がする。
顔を上げれば予想通り、ラッセル様がいた。
身体を起こそうと身じろいで、体が動かない事に気付く。
見れば手足は拘束されていた。
外して。そう言葉にしようとして声が出なかった。
くっとラッセル様が歪に笑ったので、異変に気付く。
何したの?と出ない声で問えば、潰した。と答えた。
「もう、お前に声は必要ない。」
愕然とする。目の前が真っ暗に落ちて行く。
レディーナ。そう呼ぶ彼の声だけが聞こえた。
「レディーナ」
「レディーナ」
「レディーナ!!」
はっと目覚めると、暗かったはずの視界が開けた。
ぜぇぜぇと苦しい息が出る。
「レディーナ、大丈夫か?」
声の方を見れば、アルバートが困惑顔でこちらを窺っていた。
「…ゆ、め?」
「うなされていた。怖い夢を見たのか。」
「…。いま、夢を、みているの?」
何度も塔に戻される夢を見た。それとも、今この時こそが、夢?
「レディーナ…」
横たわるベッドから、アルバートが腰掛けた重みが伝わる。
背中の下に伸ばされた腕に、体を起こされ、そのまま抱き締められる。
「ほら、夢じゃない。」
強く抱き締める腕に、伝わる体温に、聞こえる声に、今が現実だと教えられる。
「ゆめじゃ、ないの?」
「あぁ、夢じゃない。ここにいる。」
確かな感覚に安堵し、また私の意識が途切れた。
次に起きた時は瞼の向こうが眩しかった。
開ければ、窓に吊るされたレースカーテンから日の光が漏れて、私を包んでいるのが分かった。
喉が渇いた、と水差しを探して首を動かした。
「レディーナ様!!」
近くでガタンと大きな音がして見れば、目を大きく開いたレナが私の顔を覗き込んだ。
「良かった!良かったです!何か欲しい物はありますか?」
「み、ず。」
レナが私の顎の下にタオルを挟んでから、吸いのみで水を飲ませてくれた。
「ありが、と。」
「うぅ…。今、お医者様と旦那様をお呼びします。」
レナがボタボタと零した涙が3粒程、私に落ちた。
過労と栄養失調です。と医者は言った。
あの後私は、1週間程眠り続けていたらしい。
昼間はレナが、夜間はアルバートが付きっきりで看病してくれたのだと教えられた。
そう言えば、悪夢から何度もアルバートが助けてくれた。と、思い出した。
(アルバートに会いたい。)
それが今思う、素直な気持ちだった。
「アルバートに、会いたい。」
素直に言えば、お父様が目を細めて、あぁ。と頭を撫でてくれた。
「今夜にでも会えるだろう。」